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【プロトタイプ版】悪役令嬢、革命の果てに ~英雄と呼ばれた彼女が、処刑台に立つまで~  作者: ぱる子
第三章:崩れゆく革命の理想

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第25話 誇りなき剣

 内部での粛清が苛烈(かれつ)を極め、周辺諸国との摩擦も高まるなか、パルメリアのもとで再編された国防軍は変質を遂げていた。

 もとは王国を守るために育まれた名門の騎士団だったが、今や強権的な統治を支える武力として、粛清や鎮圧の先頭に立たされている。

 国防軍を統率するガブリエルは、騎士道の矜持(きょうじ)を捨てきれずに苦悩していた。


(こんな形で民を縛るなど、騎士の道に反している。しかし、どうすればいいのか……)


 夕暮れ時、軍の詰所で受け取った報告書には、再び「反逆者」を鎮圧した記録が並んでいた。国防軍が出動した先々で逮捕された人々の名前が列挙され、「共和国転覆の意図あり」というあいまいな罪状が貼りつけられている。行数を追うたびに、胸の奥が重く沈んでいくようだった。


 いつの間に、「民を守る」はずの国防軍が「民を(おびや)かす」役割を担うようになったのか――。ガブリエルが率いる部隊が街へ入れば、住民たちは(おび)えた表情を浮かべる。尊敬を集めていたはずの騎士たちが、今や粛清の尖兵(せんぺい)として恐れられている現実が、痛々しかった。


「司令官、地方で小規模な騒乱が発生しました。大統領より『速やかな鎮圧』の指示が出ています。」


 部下の報告に、ガブリエルは静かにうなずくだけだった。これまでも何度となく繰り返されたやり取りだ。小競り合いや不穏な動きがあれば、粛清すべき対象として一括りに処理する。それが今の国防軍の仕事になりつつある。


「部隊の展開は何時に設定されている?」

「今晩中に準備を整えて、夜明けに出るようです。保安局の連中も同行するとか……」


 部下の声には、わずかに戸惑いが混じっている。この一年ほどで、国防軍の中にも「騎士の誇り」を守りたい者と、「大統領の権威を笠に着る」者が分かれ始めていた。民を傷つけたくない兵士がいる一方で、保安局との連携を得意気に語る兵もいる。

 その光景に、ガブリエルはやりきれない思いを抱く。


(これが、あの革命で得た未来なのか。守るべき民を逆に萎縮(いしゅく)させて……いつから国防軍は「粛清の執行者」になってしまったのか)


 革命の最中、ガブリエルはパルメリアの護衛騎士として身を尽くした。誰よりも彼女を信じ、忠義を尽くしていたのだ。しかし、国中の混乱を「粛清」で抑え込む道へ進んで以来、彼女は強権を是とする姿勢を強めている。

 かつては彼女が示す理想に胸を打たれたのに、今では命令を受けるたびに良心が(きし)む。


 夜更け、ガブリエルは国防軍の兵舎を離れ、大統領府へ足を運ぶ。「再度の粛清」が本当に必要なのか、パルメリアに直接問いたださなければならないと思ったからだ。だが、執務室に通されても、彼女は険しい顔で山積みの書類を(にら)み続け、なかなか言葉を交わせない。

 ようやく切り出すと、返ってきた答えは予想どおりだった。


「どうして迷うの? 反乱がある以上、まずは排除するしかない。地方で火の手が上がれば、民衆がもっと苦しむことになるわ。これが私の決めた方針……あなたなら理解してくれると思ったのに」


 その言葉にはかつての絆がにじんでいたが、瞳には揺るぎない決意が宿っていた。

 ガブリエルは躊躇(ためら)いながらも、どうしても伝えたかった。


「しかし、無関係な人まで巻き込んで逮捕すれば……国防軍が民を傷つけることになります。そんなやり方は……」


 パルメリアは静かに首を振る。


「それは十分わかっているわ。それでも、迷う余裕はないの。反乱の芽を残せば、もっと多くの血が流れるに違いないわ。もしあなたが納得できないなら、他の任務に変わっても構わない。……でも、それで本当にいいの?」


 その問いは一見、選択肢を与えているようでいて、実質は「従わないなら去れ」と告げるも同然だった。ガブリエルの胸が強く痛む。

 「主」として敬い、(いつく)しんできた彼女が、今はこのような強権を振るう存在へ変わってしまった――その事実を受け止めながら、どうにもならない無力感に(さいな)まれる。


「……かつて私は騎士として、パルメリア様をお守りすると誓いました。しかし、今のやり方には……」


 パルメリアは書類から顔を上げ、視線を落とす。


「わかってほしい。これは私しかできない役目なの。国を守るためには、誰かが背負わなければならない罪でもあるわ。……ガブリエルまで離れたら、本当にひとりよ」


 彼女の声には、小さな悲しみがにじむ。しかし、それを下支えしているのは「強権を維持しなければ国が崩壊する」という強い思いだった。

 ガブリエルはその感情に触れた時、余計に苦しくなる。昔のパルメリアが、嘘ではなく「民のため」を掲げていた姿を知るだけに、今の彼女を憎むことはできない。

 結局、何も言い返せず、国防軍を率いる道を続けるしかないと悟るしかなかった。


 ――こうして、国防軍は粛清の牙として機能し続ける。

 ガブリエルは騎士の誇りを捨てきれずに苦しんでいるが、民衆を萎縮させる現状に(あらが)う手段は見いだせない。もし命令に背けば、自分や部下が「裏切り者」となるのは明白で、それはさらなる混乱しか招かないのだ。


(この剣は、いつからこんなに血の匂いに染まったのか。私は結局「粛清の共犯者」に成り下がってしまった……)


 その思いに(さいな)まれながらも、与えられた任務を拒めない。

 パルメリアの側近として戦ってきた過去が、彼を鎖のように縛りつける。かつての輝きは失われ、ただ自責の念と後悔が胸を締めつけるだけだった。


 ――こうして国防軍は完全に変質し、粛清を支える要となる。

 ガブリエルの苦悩は深まる一方だが、パルメリアもまた彼の板挟みを省みようとはしない。

 騎士道は踏みにじられ、誇りは崩れ落ち、血と恐怖だけが横行する日々。ガブリエルが抱える後悔と絶望は、粛清の嵐が吹き荒れるこの国にさらに暗い影を落としていた。

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