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【プロトタイプ版】悪役令嬢、革命の果てに ~英雄と呼ばれた彼女が、処刑台に立つまで~  作者: ぱる子
第三章:崩れゆく革命の理想

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第23話 孤立する共和国

 粛清の嵐が国内を席巻するなか、その惨状は密かに国外へも伝わり始めていた。

 処刑や秘密警察による取り締まりの噂が旅人や商人の口を通じて広がり、やがて周辺諸国は共和国を「不安定な隣国」と見なし、警戒の色を強めていく。


 パルメリアは執務室で、各地から届いた報告に目を通していた。

 国内の監視網が強化されるほど、国外での評判が落ちていくのを感じる。もはや隣国では「王国より酷い恐怖政治」とささやかれる始末だった。

 しかも、粛清を逃れようと国境を越える移民や亡命者が増え、周辺諸国では「共和国からの難民流入」による社会不安が問題視され始めている。これにより、彼女が築こうとした「革命の自由」は、世界から見れば「血塗られた独裁」としか映らなくなっていた。


 とりわけ外務を担うレイナーは、その影響を最も痛感していた。

 周辺諸国との会談を求めても、返ってくるのは冷ややかな対応か、あるいはきっぱりとした拒絶ばかり。


「どうか誤解しないでください。これは治安と秩序を保つための措置なのです」


 必死に訴えても、各国の使節は誰も納得しない。表向きこそ礼儀正しく耳を傾けるが、裏では「血の粛清が常態化している国と協力はできない」と断じられていた。


「これ以上の批判を放置すれば、貿易や国際関係は破綻(はたん)してしまう……。食糧や物資の輸入にも支障をきたすかもしれないんだ」


 レイナーが大統領府で訴えるたび、パルメリアはわずかに眉根を寄せながら、毅然(きぜん)と反論する。


「だからといって、この国内の反乱分子を放置するわけにはいかないわ。内政のための改革を他国にとやかく言われたくない。私が譲れば、再び無秩序な混乱が起きるだけよ」


 王政打倒直後、周辺諸国は共和国に期待していた。だが今、その認識は「危険な隣人」へと変わりつつある。

 少し前まで友好的だった商人や外交官が共和国を遠巻きに見るようになったことを考えれば、もはや取り返しのつかない段階に来ているのかもしれない。


 さらに外国の新聞や商人の情報網によって、「大統領府が恐怖で民衆を支配している」「秘密警察の暗躍で自由は失われた」と報道され、「革命は理想を裏切った」という批判が広まる一方だった。


(まるで私が血を望んでいるかのように書かれているけれど、そんなはずはないのに……。どれほど嫌われても構わないと思っていたけれど……こんな形で見られるとはね)


 パルメリアは書類にペンを走らせながら、胸の奥にわずかな苛立(いらだ)ちを覚える。

 どうしてこれほどまでに周囲が理解しないのか――そう言いたいところだが、今の自分の手段があまりにも暴力的であることは、彼女自身も否定しきれなかった。


(わかっている。でも、これをやめたら国そのものが崩壊してしまう……。国外の声に耳を傾けて改革を緩めても、過激な反乱が再燃するだけ)


 それでもレイナーが懸命に「遠方の大国ではなくとも、隣国との協定を模索したい」と提案すれば、パルメリアは首を振り、冷たい瞳を向ける。


「あなたの気持ちはありがたいけれど、今は外の意見より、国の安定を最優先するわ。私が迷えば、内乱に油を注ぐだけだもの」


 この(かたく)なな姿勢に、周辺諸国はますます不信感を募らせる。

 さらには、難民の越境が絶えないため、一部の国では「防衛線」を強化し、共和国を避けるルートを作る者も出始める。それがさらに貿易を停滞させ、民衆の暮らしに影響を及ぼすという悪循環に陥っていた。


 軍を率いるガブリエルも、そんな情勢の変化を見過ごせない立場にあった。

 「このままでは戦争になる」という懸念が、彼の胸の内で膨らみ続けている。


(誰かが止めるべきだが、パルメリア様を正面から説得できる人はいない。今動けば本当に内戦や外国との衝突が誘発されるかもしれない……)


 ガブリエルの憂慮(ゆうりょ)をよそに、政府内ではますます強硬な声が増えていた。


「この際、他国の干渉など無視するべきだ。隣国がこちらに侵攻してくるなら、むしろ先手を打つべきかと」


 そんな物騒な意見が飛び交うが、パルメリアはそれを否定するどころか、むしろ選択肢の一つとして考えていた。


「内乱に加えて周辺諸国との衝突まで起きれば、被害は計り知れないわ。けれど、甘く見られて攻め込まれる前に、こちらから圧力をかける手もある……」


 彼女の言葉を受け、ガブリエルは目を伏せる。

 国境付近に軍を増派する命令が下れば、拒否することは難しい。今の共和国は、国内の粛清だけでなく、国外との戦争さえ引き起こしかねない状況になりつつあった。


 こうして、国外からの批判は激化し、共和国は孤立の道を突き進む。

 パルメリアは「誤解だ」と突っぱねながらも、事実上その孤立を利用して、さらに強権を強める姿勢を崩そうとはしなかった。


(私を独裁者と呼ぶなら、それでもいい。民を守るためなら、周囲との摩擦も(いと)わない)


 だが、彼女が求める「安定」は、隣国にとっては「脅威」に映る。

 その溝が埋まることはなく、共和国はますます孤立していった。


 かつては「王政を倒した解放者」と称えられたパルメリアが、今では「危険な独裁国家の元首」と呼ばれている事実――それは周辺諸国の目だけでなく、彼女自身の魂に暗い影を落としつつあった。

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