第15話 沈黙の支持
都市部で相次いだ抗議運動が警備隊の武力で鎮圧され、多くの市民が恐怖と失望を抱き始めた後。首都の空気はますます重苦しく、全てが沈黙に押しやられていくかのようだった。それでも、パルメリア・コレット大統領を支持する声が完全に消え去ったわけではない。むしろ、一部の層では彼女の「強い力」に安堵を感じ、その結果「支持」を表明する人々がいた。
パルメリアは執務室で各地の状況報告を聞きながら、小さく息をつく。そして自分の胸に湧きあがる複雑な思いを抑えきれず、心の中でつぶやいた――
(私がここまで強硬策を取るのは、国を守るため。それに一部の人たちからは歓迎されている……それなのに、どうしてこんなにも苦い気持ちになるのかしら)
旧貴族や反政府派を排除した結果、街には表面的な秩序が戻り始めている。革命期のような熱狂や活気はないものの、「平穏な生活が続くなら、それでいい」という安堵の空気が漂っていた。
首都や大都市に暮らす人の中には、革命の混乱で家や財産を失い、暴動に巻き込まれた者も多い。だからこそ、パルメリアの「安定」路線をありがたく思い、「騒ぎを起こさず、黙って従う方が得策だ」と考える人々が増えていたのだ。
「昔は貴族に苦しめられたけれど、今度は大統領がしっかり抑えてくれている。それなら、騒ぎなんて起こさない方がいいよね」
「とにかくもう戦乱はごめんだ。彼女が強い意志で国をまとめてくれるなら、わざわざ声を上げる必要なんてないさ」
そんなささやきが聞こえてくる街のあちこちで、パルメリア政権を「受け入れる」空気が形成されていく。王政崩壊後の混乱や暴動を振り返り、「あの頃に戻りたくない」とつぶやく人が増えれば増えるほど、彼女の強権は「秩序」として肯定される形になっていった。
実際、新政府の広報も「大統領こそ国難を救う英雄」と掲げ、新聞や掲示板にはそうした言葉が並ぶ。多くの市民はそれを信じ込み、「反乱分子が排除されるなら、自分たちの暮らしは安泰」と思い始めるのだ。
「大統領がいなければ、どこかでまた騒乱が起こって、私たちの生活が脅かされるかもしれない」
「たとえ厳しくても、何もしないで国が乱れるよりマシだ。商売が続けられれば、文句はないよ」
そう語るのは、商人や職人、あるいは以前の混乱で大きな痛手を負った平民層だ。彼らにとって「強い大統領」は、自分の安定を確保してくれる存在にほかならない。真にパルメリアを敬愛しているわけではなく、「衝突を避けるためなら従う」という程度の支持だった。
「大統領を怖がって支持するなんて、ただの忖度じゃないか……あんな支持に、どれだけの意味がある」
そうぼやく官吏もいるが、今の街では「仕方ない」「騒げば逮捕される」と諦める声が大勢を占める。
武力で抗議運動を封じ込めてからというもの、多くの市民が政治への口出しをやめ、自分の生活だけを守ろうと黙り込んでしまった。ある意味では、それがパルメリアの強権をさらに支える土台となり、「秩序」と呼ばれるものの表面を飾っているのだ。
「これで国が安定しているなら、別にいいんじゃないか」
「大統領が強く守ってくれるなら、自分たちは助かるし、何も言わなくてもいい」
そんな受動的な支持の広がりを、パルメリア自身がどう感じているのか、周囲では測りかねている。しかし、彼女は一度踏み込んだ強権の道を引き返そうとしない。旧王太子ロデリックを追放した一件により、旧貴族派からはさらなる反発の動きが見られるものの、多くの市民は暴動が起きないなら黙って従う方が得策だと考えているようだった。
(こんな支持のかたち、私が望んでいたものとはまるで違う。でも、今さら後戻りはできない。……国を守るためにみんなを怖がらせるなんて、皮肉なものね)
パルメリアは「支持率が上がっている」という官吏の報告を受け取るたび、心に奇妙な痛みを覚える。仲間は離れ、新たに支持を表明する人々は「強権に従う方が無難」という受動的な理由がほとんど。
かつて革命を共に走り抜けた仲間たちの姿は消え、「恐怖による静かな秩序」だけが残された。表面的には平穏を取り戻したようでも、そこに人々の安寧があるのか誰にもわからないまま、時は過ぎていく。
こうして、「安全」を求める市民の受動的な支持を背景に、彼女の独裁傾向はいっそう強まっていく。これが革命の理念からどれだけ遠ざかろうと、「国を守る」ための代償として全て受け止める――パルメリアの意志は、それほど揺るぎなく固められてしまっていた。




