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【プロトタイプ版】悪役令嬢、革命の果てに ~英雄と呼ばれた彼女が、処刑台に立つまで~  作者: ぱる子
第二章:強権と孤独の狭間で

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第13話 元王太子の葛藤

 首都から遠く離れた地方の一角、華美ではないが格式を感じさせる屋敷。ここが、かつて王国の未来を背負っていた「元王太子」ロデリック・アルカディアの住まいだった。

 革命の末に王位継承を放棄し、ただの一市民として生きる道を選んだ彼は、今は政治の場に立つこともなく、目立たない日々を送っている。


(それでも――この国を想う気持ちは、捨てられないのだな)


 ロデリックは古い机に向かい、静かに新聞を読み込んでいた。そこには、連日のように報じられる「強権策」や「反乱分子」の話題が並び、心を曇らせる情報ばかりが飛び込んでくる。

 王太子時代の彼は、腐敗した貴族社会に強い疑問を抱きながらも、王位継承者という立場とのはざまで苦悩していた。それでもパルメリアの革命を支持し、新政権の礎づくりに陰ながら協力してきた。しかし、今の情勢を目の当たりにするたび、かつて思い描いた「自由で平等な国」の理想とかけ離れていく現実を憂いている。


(パルメリア……あの強い瞳と意思を持つ君が、どうしてこれほど多くの人々を(おび)えさせる道を進むのか。――あの頃、君は王政の腐敗を一刀両断する剣だった。今では、その剣が民衆に向けられている)


 彼女が新時代を築いていく姿に、ロデリックは深い尊敬と特別な思いを寄せていた。王太子という立場を捨てた後も、彼女が築く国のために力を尽くしたいという気持ちは変わらない。

 だが、最近耳にするのは、旧貴族たちが「王室」を再び担ぎ出そうとする動き――つまり、ロデリック自身を利用して王政を復活させようとする策謀があるという噂だ。


「まったく……今さら王太子を名乗れなどと、どれほど言われても困るだけだ。――パルメリアを苦しめるようなことには加担するわけにはいかない」


 ロデリックは自嘲気味に笑いながら、古い書簡を脇へどける。旧王宮にいた頃の知己や縁故をたどり、彼を「旗頭」に据えようとする旧貴族派の誘いが、密かに彼のもとへ届いているのだ。

 もっとも、今の彼には元王太子としての威厳はほとんど感じられず、過去の肩書きに固執することもない。ただ、国を想う気持ちだけは捨てきれずにいる――その点だけが、過去と変わらぬ証といえる。


(パルメリアは国を守ろうとしている……その苦悩もわかる。でも、強硬策ばかりでは、いつか人々の怒りが大きく燃え上がるかもしれない。――旧貴族派の動きだって、放置すればさらなる混乱の火種になるだろう)


 兵を向けられた民衆や、強権によって抑え込まれた反対派――それらの痛ましい報道を目にするたびに、ロデリックの胸にはやるせない思いが広がる。彼自身、パルメリアを見捨てるつもりなど微塵(みじん)もないが、だからこそ、今の国の流れが危ういこともわかっていた。


(あの日、パルメリアが揺るぎない意志を示した瞬間は、今も鮮明に刻まれている。王政を倒すなんて誰もが無謀と考えていたのに、彼女はやり遂げた。今もなお、その強さは失われていないはずなのに、どうしてこれほどまでに多くの血が流れなくてはならないのか……)


 窓の外には、広がる畑とどこか寂しげな集落の風景が見える。都市の喧噪とは無縁のはずなのに、なぜかここにも重苦しい空気が漂い、人々の心には不安が刻まれているように思えた。

 ロデリックは立ち上がり、そっとコートを手に取った。今や彼は「ただの一市民」にすぎないが、それでも自分の目でこの国の現状を確かめる必要があると思ったのだ。


「パルメリア……。君はどうか、孤独のまま突き進んでしまわないでほしい」


 彼女への特別な感情を自覚しながらも、それを告げる資格など持ち合わせていないと思っている。かつての王太子という肩書きすら、今は「重荷」にしかならないかもしれない。

 けれど、それでも――彼が動かなければ、旧貴族派が勝手に自分の名を利用し、さらなる混乱を招く可能性がある。そうなれば、パルメリアの強権は一層強まるばかりだろう。


(誰かが、この(ゆが)みを食い止めなくては。国の行方を案じながら、ただ黙っているのはごめんだ)


 ロデリックは静かに玄関の扉を開けて外へ出る。冷たい風が頬をかすめ、人けのない路地がどこかもの悲しい。

 元王太子としての責務を捨てた彼だからこそ、できることがあるはず――そう自らに言い聞かせながら、ロデリックは薄暗い道を歩み始めた。遠くで小さく響く街の雑踏が、今の国の不穏な鼓動を告げているように思えた。

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