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【プロトタイプ版】悪役令嬢、革命の果てに ~英雄と呼ばれた彼女が、処刑台に立つまで~  作者: ぱる子
第二章:強権と孤独の狭間で

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第12話 失われた絆

 都市部でのデモが武力で強制的に鎮圧され、多くの市民が恐怖と失望を抱き始めた頃。空はどこまでも厚い雲に覆われ、この国の行く末を暗示するかのような陰鬱な空気が漂っていた。

 かつてパルメリアのもとで革命を成功に導いた仲間たちも、胸に大きな苦悩を抱え始めている。


 首都の一角にある「学術研究棟」。そこは、新政権で科学技術・教育を管轄するクラリス・エウレンが、農業改革や教育改革を推進するために与えられた施設だった。彼女は天才学者として数々の研究を積み重ね、戦時には兵站(へいたん)や医療を支援し、農業や医療、義務教育制度など多角的なプロジェクトを進めてきた。その合理的かつ情熱的な姿勢が、パルメリアの厚い信頼を勝ち得ていた。

 ところが今、「治安維持」を名目とする監視の目が入り、自由な研究活動は大幅に制限されている。膨大な資料を前に、クラリスは静かに息をついて書類を閉じた。


「まさか、研究の方向まで制限されるとは思いませんでした。以前はパルメリア様に後押ししてもらえたから、農業や教育の改革にも集中できたのに……」


 机の上には、新たな農業技術や教育プログラムの草案が並んでいる。だが、今の政府は「反乱分子の摘発」を優先しているため、クラリスが提案する研究にはほとんど興味を示さない。それどころか「研究員や学生たちを監視せよ」という通達まで届いている始末だ。


「こんな状況で研究を続けて、いったい何になるんでしょう……」


 小さくつぶやきながら、クラリスはパルメリアに心から感謝し、協力してきた日々を思い返す。人々の生活をよくするための知識と技術――それこそが彼女の目指す道だったはずだ。しかし今は、「国を守る」という大義名分のもと、研究の成果にも耳を貸してもらえない。クラリスは自分がここにいる意味を見失いつつあった。


 一方、ガブリエル・ローウェルもまた、深い葛藤に(さいな)まれていた。

 彼は「国防軍司令官」として旧王国軍を再編し、「国民を守る軍」を築くのが使命だが、最近の業務は「反政府派」とみなされた市民を抑え込むことばかり。腐敗を嫌う性格ゆえ、権力の行き過ぎを察しても、パルメリアを見捨てることもできず、組織の中で部下を守る重圧にも耐えている。


 軍の詰所で渡された新たな報告書を読んだガブリエルは、静かに拳を握り締めた。

 部下たちは「市民に剣を向けるようなやり方には耐えられない」と、次々に退役を考え始めている。「領地の人々を守る剣」だったはずの軍が、今や「民を抑える剣」へ変わりつつある現状に、彼の胸は締めつけられるばかりだ。


(私は誇りを捨てずにいられるのか……それでもパルメリア様が危機に陥れば、守ると誓った絆を裏切ることになる)


 そんなある日、パルメリアはクラリスとガブリエルを執務室へ呼び出した。共に改革を推進し、輝かしい成果を上げた仲間たち。しかし今、それぞれが抱える困惑と不満を隠せないままの再会となる。

 午後の陽ざしが差す応接室で、パルメリアが先に話を切り出した。


「……最近、研究所の管理や軍の命令系統に問題が出ていると聞いたわ。実際のところ、どうなの?」


 クラリスは手元の資料を握りしめ、小さくため息をつく。


「問題というよりも、研究活動そのものが難しくなっております。もとは農業や教育の改革案を自由に提案できましたが、今は警備隊が研究員や学生の行動を細かく監視しています。技術や知識を抑圧に使われるのは望みませんし……」


 続いて、ガブリエルが苦しげに口を開くが、その声は低く押し殺されていた。


「部下たちからも、不満が噴出しています。国防は当然ですが、市民に剣を向け続ければ、騎士としての誇りを失う者が出るのは避けられません」


 二人の声には、今もパルメリアへの敬意と恩義が感じられる。けれど同時に、今の強権的なやり方に付き合い続けるのは限界だという思いがにじんでいた。

 パルメリアは机の向こうから視線を落とし、唇を少し噛んで答える。


「……わかっているわ。でも、わずかな油断があれば、旧貴族や反政府派が一気に火を噴かせるかもしれない。そんな混乱に陥れば国は崩壊する。私にはもう、止まる余裕なんてないの」


 クラリスは握りしめた資料を、いっそう強く抱きしめながら首を振った。


「そうかもしれませんが……。でも私たちは、人々の暮らしをより良くするためにパルメリア様に協力してきました。今のやり方では、生活や自由までも縛りつけてしまいます……」


 ガブリエルも視線を伏せ、唇を固く結んだまま言葉を継ぐ。


「部下たちを説得しようとしても、到底納得してくれません。抑圧ばかりでは、いずれ取り返しのつかない怒りが爆発するだろうと、皆が不安に思っています」


 二人の言葉には、かつての友情があるからこそ踏みとどまる苦しさが混じっていた。パルメリアは小さく息をつき、机上の書類にわずかに視線を落とす。


「……もしそれほど耐えられないのなら、辞めてもらっても構わない。だけど私は国を守るために引き返すわけにはいかないの。あなたたちの気持ちは理解しているつもりよ。でも、今私が揺らげば、全てが崩れるわ」


 その言葉を聞き、クラリスとガブリエルは表情を曇らせた。一緒に領地改革を進めた仲間が、「去るなら去ってもいい」というような態度をとるなど想像もしなかった。

 そして、言い返す言葉を失った二人はそっと会釈し、執務室をあとにする。パルメリアは一人、資料の山へ視線を落としながら小さくつぶやいた。


「……ここまでしなければ国は保てないの? でも、もう戻る道なんてない」


 その声は、室内の静寂に消えるだけだった。


 後日、クラリスは正式に辞任する意思を固める。理想を語り合い、改革を支え合った仲間が政府を去る――その事実を知ってガブリエルは揺れ動いたが、「国防軍司令官」としての責務とパルメリアへの想いから留まる道を選んだ。

 しかし、部下たちからは退役願の提出が続出し、国全体に強権政治の暗い影が差し始めている。改革が築いた輝きは、徐々に失われていった。


「どうして、こんなにも多くの仲間が去っていくの……」


 パルメリアは押し寄せる報告に追われながら、一人そう嘆く。彼女の周囲には、「強硬派」や権力にすがる官吏が新たな取り巻きとして顔を揃え始めていた。

 国を守るという名目のもと、大切な仲間すら惜しまない――その決断を貫く彼女の横顔は、冷酷にも、あるいは必死に痛みに耐えているようにも見える。


(こんなはずじゃなかった。けれど、もう止まれない。仲間を失っても、国を救わなければ――)


 そう何度も自分に言い聞かせても、胸に広がる(むな)しさを拭い去ることはできない。廊下を駆ける足音と、静かに閉じられる扉の音だけが響くなかで、パルメリアは暗闇に囚われたような孤独に(さいな)まれていた。

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