落ちる飛行機
◯キャラ紹介
・サルト・ペンッア:本作の主人公。男性。異世界で力に目覚める。口癖は「ついていない」。
・リアン・シェア:召喚士、敵から狙われている。女性。
・メーテ:護衛の1人。女性。物の強度を上げる
・ジブ・ジャンク:暗殺者。水を操る
・ミラー・ペンタ:暗殺者。空を飛べる
男は走っていた。名はサルト・ペンッア。歳は20、髪は白く、後ろで束ねている。中性顔で女に間違われることもあった。目立たないように黒い服にアウターを羽織り、雪降る夜道を走って取引場所へと向かう。
「今日もついてない日だ‥」
こう呟くには訳があった。20歳という、まだ親に養われてもいい年齢だが、両親は若くして死に、友人もいない。定職に就くこともできず、日々怪しいサイトで怪しい取引をする日々であった。
今日も依頼人からブツをもらい、車を運転して受け渡しに向かう途中であったが、途中の道でエンジンがイカれてしまった。
「あと少し、こんな寒い夜に走って取引場所に行くことになるなんて‥。ついてない‥」
いや?俺の人生についていたことなんてあったのか?
そう思いながら走り続ける。
目の前の信号が赤色に光り、サルトの足を止めようとするが、サルトは取引場所に遅れたくない一心でそのまま通過した。いや、通過できなかった。
「ぐあつ」
最後に見た光景は車。最後に思ったことは''ついてない"だ。
目を覚ますと、警報器が鳴り続ける飛行機の中だった。どうして飛行機だと分かったかというと、幾つもある窓から青空が見えたからだ。
「落ち着いて聞きなさい!私が貴方を召喚したの!私を助けて!」
取り乱しながら話すのは金髪で美人な少女?歳は自分より少し幼く見えた。
「俺が助ける??いや、ちょっとまて、俺は死んだはずじゃ‥どうなってるんだ??」
「この飛行機は中と外から攻撃を受けているの!もう生き残ってるのは私とメーテしかいない。」
「すみませんお嬢様‥私に力が無くて‥」
そう謝りながら黒いスーツ姿の黒髪の若い女性が出血をした左腕を押さえながら呟く。
「謝らないで、メーテ。貴方の能力<物の盾>の力でこの飛行機は外の敵から守られているのだから。メーテがいなきゃ、今頃私たちは‥」
金髪の少女はそう言いながら目に涙を浮かべる。
「俺の質問に答えてくれ!能力ってのも何のことだ!」
「貴方は死んでない。私の能力で召喚されただけ。詳しいことは後で話すから、機内の敵を倒して欲しいの」
「機内の敵って何処にいるんだ、そもそも俺は何の武器も持っていないっ」
サルトが謎の金髪少女を質問攻めに仕掛けた時にその声は聞こえた。
「クククククくっ。警戒して隠れてたが、ククくっ。
そんな必要はなかったようだな、ククくっ」
男の声が機内に響き渡る。機内を見回しても座先と散らばった荷物、そして血だらけでもう死んでるであろう黒スーツ姿の死体が2名分見えるだけだ。
「クククククくっ。」
嫌な笑いが再び聞こえる。遠くの方に見える、気にも留めなかった薄汚れた鉄色のドクロ仮面がカタカタと揺れ出す。仮面の周りから水が出てきたと思えば、それはすぐに人の形となった。
「ククくっ、俺の名前はジブ・ジャンク。能力は見ての通り、水を操る。後は死にかけの護衛に、素人か」
ドクロ仮面の男は手に持ったナイフをこちらに向けながら勝ちを確信しているかのような自信ありげな口調で話している。
「あれが機体の中の敵、私の護衛を1人ずつ殺めた最低の男よ」
金髪の少女はドクロ仮面の男を睨みつける。
「ククくっ、殺しのプロにその言い草はなんだ?もう手を抜くのは終わりだ。最後は大胆に3人まとめて片付けてやる。俺は水を操り、水を"生み出す"こともできるんだ」
気がつくとドクロ仮面の男の体から大量の水が機内に流れており、すでに膝より上に水が溜まっていた。
「ククククくっ、楽な仕事だったぜ。空港のやつに金を捕ませたら、簡単に機内に潜入ができた。そのスーツ女の能力は何か1つの物の強度を上げることしかないのは事前に分かってた。ククっ、外の相棒が機体を攻撃している間はその厄介な能力は機内では使えまい。」
窓の外にはこちらの世界に来た時から何度も大きな翼が見えていた。最初は大きな鳥だと思っていたが、どうやら能力者のようだ。無数の羽が機体を叩きつけていた。
金髪の少女はサルト見て、最初に話したよりも落ち着いた声で話し始めた。水はすでに体の半分を覆っていた。
「聞いて、この世界では"誰しも"が能力を持ってる。貴方が召喚された瞬間、貴方にも何か能力が授けられたはず。息を吸って吐くように、ドクロ仮面に貴方の内にある物をぶつけてみて」
昔、両親が生きている時に見たことがあるアニメのキャラクターが使うビームとかそういうイメージなのか?
「 」
もう話せる状態ではなかった。機体の中はもはや空気は無く、あるのは水のみであった。
ドクロ仮面は水の中を漂っていた。ナイフは仮面とは正反対の方向を漂っていた。この機体内全てが奴の体になったような、とても不快な気分だった。
ついてない‥また死ぬのか。違う!イメージ‥イメージ‥この水を、あの仮面野郎のぶっ飛ばす!!
ーーその瞬間機体が弾けた。ーー
「ググググぐはぁ」
もろに衝撃を食らったドクロ仮面の男は能力が解けたのか中年のヒゲモジャ姿で飛行機から白目で落ちていった。金髪の少女とその護衛のメーテも気を失っているようで同じように落ちている。
「これが能力‥!!」
爽快だった。今までの鬱憤が晴れた、そんな気がした。
「空は私の世界」
翼を羽ばたかせながら、鳥?人?いや、鳥人間がそう言いながらサルトに攻撃を仕掛けてきた。鳥人間、もとい、敵の女は落下中のサルトの近くに行くと無数の羽を飛ばしてきた。羽はメーテの能力が解除された機体の残骸安安と切り裂き、サルトへと迫る。
「今日はついている‥敵も倒して、あの2人も助けよう‥」
サルトは羽が迫ってる方向を拳で殴った。殴った瞬間、衝撃波が空気を伝わる。羽はサルトとは逆方向、敵に向かって跳ね返る。
「私の‥世界が‥」
自らの羽で血だらけになる女はサルトに悪態をつく。
羽でガードしていなければ、機体の残骸のようにバラバラになっていただろう。
「許さ‥ない、この私、怪鳥のミラー・ペンタを、よくも!!」
体が膨れ上がり、巨大で不気味な怪鳥の姿になった、ミラーはサルトを殺めようと前方を確認する。
が、サルトの姿は何処にも無かった。
「もう時間がない、終わりにしよう」
頭上を見上げると、そこに拳を振り上げたサルトが見えた。頭から足まで衝撃が伝わり、ミラーの世界は終わりを告げた。
「空気を蹴れば、その衝撃で空中を移動できるのか‥もう車はいらないな」
故障した車を思い出しながら、サルトは空中を移動する。金髪の少女とその護衛のメーテを掴み、近くの島へと降り立った。
「んーー、んーー・・・。わっ!ここは何処?私は死んだはずじゃ?」
「死んでない。俺が助けた」
金髪の少女は現状が分かっておらず、混乱しているようであった。さっきの俺と同じだな、サルトは心の中で笑った。
「貴方!今心の中で笑ったでしょう!」
金髪の少女はサルトを責める。
「なに‥それがあんたの能力が」
「冗談だったのに、本当だったのね」
「・・・」
「・・・私たちを助けてくれたのね、ありがとう。
コホン、私の名前はリアン・シェア。宜しくお願いします」
「俺はサルト・ペンッア。早速だが、色々と説明してくれ」
「もちろん。機内でも話したようにここは異世界。
私が召喚しました。」
「俺は死んだんじゃないのか?」
「私の能力は<召喚>。もしサルトが死んでいたら、死んだ状態で召喚されてたはず。」
リアンは続けて申し訳なさそうな表情でサルトに謝る。
「ごめんなさい、貴方を巻き込んだしまって。召喚の能力を持つ私は、色々な悪人にその力を狙われて‥。本当は異世界人を召喚することはしたくなかった‥」
「召喚はすることはいけないことなのか?」
「数十年前までは何度も召喚してました。でも、異世界人の能力はこの世界の人よりも強力だということな明らかになって‥6人の悪魔達が現れてからは禁止になってます」
「6人の悪魔?」
「はい、この世界を牛耳ろうとしている6人の異世界人です。さっきの暗殺者もその6人のうち、誰かの1人の部下でしょう」
「これからどうする?」
「異世界から船を出して、目的地まで行きます」
「目的地?」
「目的地はアンデラ、その国の組織に匿ってもらいます。‥貴方はどうしますか?数日あれば元の世界に戻るゲートが開けますが‥」
サルトは考えるまでもなかった。元の世界には未練はなく、今の"ついている"こっちの世界の方が生きやすいと感じてしまった。
「俺もその旅に同行させてくれ」
そう返事をした。この時、サルトは考えもしなかった。リアンが狙われていたのはその力を利用するためではなかったことを。
初小説です。最後まで読んでくれた人は圧倒的感謝!!