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【2】

とにかく、今はすわりんの身が心配だ。

「これ絶対何か起きただろ! 俺すわりんに連絡入れてみる!」

『最後のはたしかにちょっと変だったな。わかった、遥人に任せた。大変だろうし、こっちの通話切るな』

「ああ、何かあったらすぐ知らせるから!」

 奏人との通話を終えると、俺はすわりんの番号にコールした。

 けれど、何度鳴らしてもむなしいコール音が響くだけ。

 すわりんはあんな質の悪いドッキリみたいな配信は、絶対にやらない。

 つまり、何か起きている。

「くそ! ダメ元で行ってみるしかないか」

 立ち上がって、外出の支度をする。

 すわりんも奏人と同様にそれほど家は遠くない。

 すわりんのご両親にも、会った事はある。配信中に倒れたことは信じてもらえないかもしれないけど、部屋を見てもらうことくらいは出来るはずだ。

「ちょっと日和の家に行ってくる!」

 そう言いながら家を出て、すわりんのところに向かう。

 走って数分ですわりんの家が見えてきた。いざとなったらなんと言えばいいか少し迷ったけど、俺は呼吸を整えてインターフォンを押した。

「こんな時間にすいません、三島です!」

 俺が言うと、聞き覚えのある声が返ってくる。すわりんのお母さんだ。

『あらあら三島君、久しぶりね。今開けるわね』

 すわりんのお母さんがドアを開けてくれ、俺は玄関に入った。

「こんにちは。それで、三島君。今日はどうしたの? 日和に何か用事?」

「それなんですが、お母さんはすわりん、じゃない日和がパソコンで放送しているのは知っていますか?」

「ええ、知ってるわよ。なんか皆とゲームやっているのよね」

「はい。それで、そのゲーム中に日和の様子がおかしくなって。倒れたみたいな音がして、慌てて来たんです。お部屋にお邪魔してもよろしいでしょうか?」

 俺の話を聞くと、お母さんは驚いたように口元に手を当てた。

「そんなことが? 私も一緒にいくわ。日和の部屋に行きましょう」

「はい、お願いします」

 お母さんに案内され、すわりんの部屋へ向かう。

 二階の突き当たりが、すわりんの部屋になっていた。

 確かにここなら多少騒いでも家族の迷惑になりにくそうである。

 お母さんがドアをノックする。

「日和、日和! 三島君が心配してきてくれたわよ! だいじょうぶ?」

「日和、何かあったんだろ! 平気か!? おい!」

 ふたりで大きな声で問いかけても、返事はない。

 何度目かの声かけのあと、お母さんが「ちょっと日和、入るわよ!」と言ってドアを開けて部屋に入った。俺もそれに続く。

 部屋の中はすわりんらしい可愛らしいグッズに埋もれていた。

 その壁際、整ったパソコン設備とモニターの前で、すわりんは突っ伏していた。

「日和!?」

 お母さんや俺が声をかけてもすわりんの背中は微動だにしない。

 ふたり掛かりで、なんとかすわりんの上半身をイスに預けた。

 目は空いたまま、どこを見るでもなく虚ろになっている。

 身体は、小刻みに震えていた。

「すわりん! しっかりしろ! お母さん、これ、ヤバイんじゃ!?」

「日和、そんな……。すぐ救急車呼んでくるから、少しの間日和をお願い、三島君!」

 そう言ってお母さんが下に降りて行った。スマートフォンは携帯していなかったらしい。

 ふたりになった俺は、すわりんに何度も声をかけた。

「しっかりしろ日和! あのゲーム、サクリファイス・ホスピタルがまずかったのか!?」

 そう問いかけると、日和の身体がサクリファイス・ホスピタルという名前を聞いてビクンと跳ね上がった。

「あ、あ……。病院、びょ、いん……行かなきゃ……びょ……せいぼ、さま……」

 ――病院、それに聖母様。

 配信が止まる前も口にしていた言葉。

 すわりんのこの体調の異常な変化には、あのゲームに何か関係があるのだろうか。

 すぐにお母さんが戻ってきて、ふたりで日和を横にならせた。

「日和、しっかりして!」

 すわりんは相変わらず目を見開いたままだが、奇妙な言葉は言わなくなった。

 やがてサイレンの音が近づいてきて、救急車がやってくる。

 隊員がすわりんを運び、お母さんもついていくと言う。

「三島君、知らせてくれてありがとうね。あなたが来てくれなかったら、日和のこと、気がつかなかったわ」

「いいえ。それより、何かあったら連絡ください。うちの固定電話の番号わかりますか?」

「ええ、小学校の時のPTAの書類が残っているから。それじゃあ、行くわね」

 すわりんとすわりんのお母さんを乗せた救急車が、サイレンを鳴らして去っていく。

 それを見届けると、俺は祈るような気持ちになった。

(すわりんが無事でありますように……)

 それにしてもあのゲーム、サクリファイス・ホスピタルは気になる。

 たまたま、怖いゲームですわりんが気を失っただけかもしれない。

 だけど、それにしたって、あんな痙攣やうわ言はどう考えても何かおかしい。

 家に帰ると、まずは奏人にすわりんの家で起きたことを説明した。

『はっ? すわりん救急車で運ばれたの!? やべーな!』

「なぁ、なんかあのゲーム、おかしいんじゃないか? 様子が変だったろ。音も途切れたり画像もノイズが入ったりさ」

『おいおい、ゲームがすわりんに何かしたって言うのか? ゲームは所詮ゲームだぞ? すわりんが体調悪かったんだろ』

 たしかに、所詮ゲームと言われてしまえば返す言葉がない。

 けれど俺はあのゲーム、サクリファイス・ホスピタルにどうしても不信感が拭えなかった。

「とにかく、ちょっとサクホスについて調べてみるわ」

『おいおいマジかよ、遥人マジメか。まぁいいや、なんかわかったら教えてよ。んじゃ』

 奏人はあっさりと通話を切った。

 もっとすわりんのことを聞かれると思ったけれど、奏人からすれば単なるゲーム中の体調悪化に過ぎないようだ。

 とにかく、今はサクリファイス・ホスピタルについて調べてみるしかない。

 すわりんは心配だが、俺がそばにいても出来る事はない。病院とお母さんに任せるしかなかった。

「さてっと、調べると言っても、何から調べるかなぁ……」

 ネットを開き、検索ワードの前で悩む。まずは無難に『サクリファイス・ホスピタル』と入力してみた。

 出てきた情報は、サクリファイス・ホスピタルのゲーム案内や攻略方法、ネットの有名人がやってみている動画などであった。

「これじゃ手がかりにならないな。それじゃ、これにウワサを足してみるか」

 ウワサ、を付け加えて検索してみると、いくつか目に着く記事が出てきた。

【サクリファイス・ホスピタル やってはいけないゲーム】

【サクリファイス・ホスピタルをプレイした配信者、続々と謎の活動休止に】

【サクリファイス・ホスピタルのプレイヤー、ネットから姿を消す】

「ゲームをやったプレイヤーが、姿を消す……」

 姿を消すといっても、どこかにいなくなるというワケではなさそうだ。

 記事を読む限り、ゲームをプレイした配信者の何人かが、それっきり配信をしなくなったと言うのだ。

「配信者が、消える……」

 すわりんのことを思い浮かべた。

 もしも、すわりんが順調に回復していっても、あの様子ではネット復帰には時間がかかるだろう。

 サクリファイス・ホスピタルをプレイしている人たちに、すわりんと同様のことが起きているのだろうか。

 ということは、あの奇妙な出来事はすわりんだけに起きたワケではないらしい。

 いくつかの言葉で検索して、俺はひとつの個人ページに行き着いた。

【サクリファイス・ホスピタルはプレイしてはならない。あれはタチの悪い呪いである】

 そんなことが書かれている。

 ――呪い。

 にわかには信じられないことだが、すわりんのあの様子を見ている俺には気にかかった。

 ページには、少なくとも今までみた情報の中でもずば抜けて詳しくデータが載せられている。

「ちょっと連絡を入れてみるか」

 俺はページの管理者、土御門神楽(つちみかど かぐら)に連絡を入れてみることにした。

 すわりんに起きた出来事、サクリファイス・ホスピタルのウワサ。すわりんを救いたいから、相談に乗ってくれないか? という内容だ。パソコン画面を見ながら、連絡はスマートフォンにもらえるようにスマートフォンから送信をする。

「これでよし、っと」

 少々長めの文章をスマートフォンで打ったので、指に疲れを覚えて手をもみほぐす。

 背伸びをして、そろそろ夕飯だなと思っていると俺のスマートフォンが鳴った。

 画面を見てみると、驚くべきことに先ほどの土御門神楽から返信が届いていた。

「ちょうどパソコンの前にでもいたのかな? それにしても返信早いな」

 メールを開く。そこには短く『サクリファイス・ホスピタルには関わるな』とだけ記されていた。

「関わるなって言っても、もうすわりんが関わっちゃってるんだよ……」

 俺はさらに詳しく、友達がサクリファイス・ホスピタルをプレイして救急車で運ばれたこと。

 すわりんが心配なこと。もういろんな人がプレイしてネットから謎の失踪をしていることを書き、最後に何か知っているなら教えてくれと付け加えた。

 すぐに返信が来る。その文章は簡潔だった。

『いくら出せる?』

 と書いてあるのみだ。いくらって金だよな。そう言われても、学生に出せるお金なんてたかが知れている。

 しかし、逆に考えれば、この土御門神楽は金さえ出せばこの出来事を解決出来るのか?

「とにかく、話だけでも出来ないかな?」

 とりあえず、話だけでも。そう送ると、土御門神楽は『夜、十時』と書いて、リンクにビデオ通話が出来るソフトのリンクと、ID番号を送って来た。

「本当にそっけないな。とはいえ、まずは話は聞いてもらえるんだ」

 実際に見ていた人間が多くいた方が良い。

 そう判断した俺は奏人にも事情を説明するメールを送り、同席を頼んだ。

 奏人はめんどくさがりながらも、それを引き受けてくれた。

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