トライアングルレッスンM 暁時
夢を見た。
ゆいこがどこかへ行ってしまう。
俺から離れて行ってしまう。
「たくみ、さようなら」
ゆいこの声が別れを告げる。
ゆいこっ!
行くな!行かないで!
夢の中で、俺は必死に彼女を呼ぶ。
が。
声が出ない。
ゆいこは振り返ることもなく遠ざかって行く。
「ゆいこっ!」
叫んだところで、自分の大声にびっくりして目が覚めた。
身体中汗だくだった。
胸がドクドクと音を立てていた。
俺は、気だるい体をゆっくりと起こし、枕元に置いてあった携帯を取り上げた。
着信履歴からゆいこを探し出し、発信する。
何度かコール音が響いた後、
「・・・もしもし・・・・?」
眠そうなゆいこの声が耳元で響いた。
俺はホッと安堵のため息を漏らす。
「ごめん、寝てたよな?」
「ん・・・そりゃ寝てるよ、日曜日だよ?しかも・・・・まだ6時前じゃん・・・どうしたの?何かあった」
だんだん目が覚めてきたのか、ゆいこが心配そうな声になる。
「いや・・・なんでもないんだ。ちょっと・・・・嫌な夢見て・・・」
「夢って・・・子供じゃないんだから・・・」
ゆいこが呆れたような声になる。
「もう一回寝直したら・・・?」
また睡魔に襲われたのか、言いながら、ゆいこの声が小さくなって行く。
「ゆいこ?ゆいこ!」
「もぉ、なぁに?眠い・・・」
「ごめん・・・もうちょっとだけ・・・声聞かせて」
「何、もぉ、急に甘えて・・・どんな夢見たの?」
「お前が・・・ゆいこがいなくなる夢・・・呼んでも呼んでも声が出なくて・・・ゆいこ・・・」
「なぁに?」
「お前・・・・どこにも行くなよ?」
「たくみ?」
俺のこと、好きじゃなくてもいいから、ずっとそばにいてくれ・・・。
そう口に出しそうになり、慌ててその言葉を飲み込んだ。
ひろしの顔が脳裏にちらつく。
俺らはずっとそうだった。
俺とひろしはお互いがゆいこを好きなことを知っている。
でもこの関係が心地よくて。
ゆいこが大事で、ひろしも大事で。
だからこそ、抜け駆けみたいな真似はできない。
でも・・・・いつか・・・いつかはゆいこも誰か他の男と俺の元を去って行くのかもしれない。
そう思うとツンと鼻の奥が痛くなる。
嗚咽が漏れないよう歯をぎゅっと噛み締めた。
「もぉ、しょうがないなぁ、たくみ・・・一緒に寝てあげるから・・・もう一回寝よう?」
「は?ゆいこ?・・・ゆいこ?」
耳元でスースーと小さな寝息が聞こえ出す。
寝ぼけていたのか。
爆弾発言を残して眠ってしまったゆいこに思わず苦笑いがこぼれた。
ゆいこの規則正しい寝息を耳元で聞きながら、俺ももう一度眠りに落ちていった。