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第9話 悪役令嬢vs剣山王子

「ヘヘヘ……覚悟は良いか?

 悪役令嬢さんよォ……」


 悪役令嬢ゲリラを襲撃した剣山王子のハリー。彼の仲間の百合令嬢マシェリは、ゲリラの仲間の怪力令嬢ウィナを罠に嵌めていたのだった。


「こんな雑魚さっさと

 ぶちのめして

 怪力令嬢の元へ

 向かわなければ……!」


「おいおい……雑魚とは

 心外だぜ……?

 こう見えても俺様は

 超人王子界では

 一目置かれる

 存在なんだぜ……?」


「口ばっかり達者な男なんて

 みっともないですわよ!

 御託はよろしいから

 さっさと掛かってきなさい!」


 足元から闇の腕を無数に出現させるゲリラ。怪力令嬢の身を案じているゲリラは、ハリーを瞬殺するつもりでいた。


「それじゃお言葉に甘えて……」


「“山嵐”!!」


 ハリーは再び、嵐のようにおびただしい数の針を発射した! すでに一度見た攻撃。ゲリラはたやすく無数の針を弾き飛ばす!


「何かと思えば同じ技とは、

 芸のない方ですわね……」


 単調な攻撃に呆れるゲリラ。攻撃を防ぎハリーの立っていた場所へ視線を向ける。すると……。


「い、いない……!?」


「ゲリラ様! 上!」


「……ッ!?」


 姿を消したハリー。だが、悪役メイドのエルがしっかりと目で追っていた。ゲリラはすぐさま声に反応し、上を見上げる!


「“スパイクシューズ”!!」


「ぐッ……!!」


 靴の裏に針をびっしり生やした飛び蹴り! ゲリラはなんとか闇の腕でそれを防いだ。


「遠距離と近距離の使い分け。

 これが俺様の強さの秘密よ!」


「そんなくだらない自慢は

 わたくしに一撃与えてからに

 しなさいな……!」


(言うだけあって、確かに

 その辺の超人王子よりかは

 実力があるようですわね……)


 すぐにでもウィナの元へ向かいたいゲリラは焦っていた。冷静に戦えばそれほど苦戦しないような相手でも、心を乱しているゲリラは、冷静に戦うことが出来なくなっていたのだ。


(すぐにこいつを倒して

 加勢に行きます……!

 それまで無事でいて

 ください……怪力令嬢……!)


 ゲリラが戦っていた頃。


「あはは! マシェリさんったら!」


 怪力令嬢ウィナは、無警戒な笑顔を百合令嬢マシェリに振り撒いていた……。


「ウィナさんと一緒にいると

 本当に楽しいです……!

 このまま婚約出来たら

 嬉しいのにな……」


「んな!? 何言ってるの!

 そそそんなことより!

 あそこのお店! 何か可愛い物

 売ってそうじゃない!?」


 マシェリの言葉に照れるウィナ。慌てて話題を変えようと一軒の雑貨屋を指差していた時だった。


(今がチャンス……!

 ナイフで喉元

 掻っ切ってやる……!)


 ウィナが視線を逸らした隙を狙い、マシェリがナイフを構えウィナを襲おうとしていた……!


(騙されてるとも

 知らずに馬鹿な女だ……!

 そのまま死ね……!)


 絶体絶命のウィナ。このままマシェリに命を奪われてしまうとかに見えたその時。


『ガッ』


「な!? 何ッ!?」


 ノールックのまま、ナイフを構えるマシェリの腕をガッチリ掴んだウィナ。まるで、すでに“マシェリの正体を見破っていた”かのような反応速度だった。


「残念だったわねマシェリさん」


「な……なんで……」


 予想外の出来事に狼狽えるマシェリ。ウィナはゆっくりと口を開く。


「マックスよ」


「マ……マックス……?」


「ライドウルフのマックス。

 あの子オスだから

 女の子が大好きで、

 女の子を見ると必ず

 飛び付くクセがあるのよ」


「でも、今回は

 飛び付かなかった。

 どういうことか

 分かるわよね?」


「くっ……!」


 悔しそうな顔を浮かべるマシェリ。お返しと言わんばかりに、今度はウィナが不敵な笑みを浮かべていた。


「あんたが“女の子”じゃ

 なかったからよ!!」


『ボキッ』


「ぐわあああああッ!!」


 ナイフを掴んだ腕に力を込めるウィナ。あっさりと骨を折られ、マシェリはたまらず大声で叫んだ。ウィナは余裕のある態度で、そのままマシェリの腕を解放した。


「く、くそ……!

 調子に乗るなよ……!」


「俺は擬態王子のマシュー!!

 こんな姑息な手を

 使わなくたって、お前なんか

 簡単に殺せるんだからな!!」


 正体を現した百合令嬢マシェリ改め、擬態王子マシュー。マシェリの正体は、令嬢に擬態していた超人王子だったのだ。


「“カモフラージュ”!!」


「き、消えた……!?」


 突如姿を消したマシュー。ウィナは気配を探ろうと周囲を警戒する。だが、マシューの姿はどこにも見えない……!


「一体どこに……うあッ!?」


 突然ウィナの右腕が切り裂かれた! 依然としてマシューの姿はどこにも見えない……!


「これが俺の

 擬態能力だ!

 このままてめぇを

 細切れにしてやる!」


(街中じゃ死角が多い……!

 場所を変えないと……!)


 ウィナは分が悪いと感じ、街の外を目指して駆け出した。マシューは周囲に溶け込んだままウィナの後を追う。


「逃がすかよ……!

 腕の借りは数百倍にして

 返してやるからな……!」


「はぁ……はぁ……!

 ここなら周囲に人も

 遮蔽物もないわね……!」


 ウィナは街から僅かに離れた草原へ飛び出した。辺りには草が生い茂っているのみ。隠れられる場所などどこにもなかった。


「いくらなんでもこれなら

 身を隠しながら攻撃なんて

 出来る訳な……」


「うあぁッ!!」


 ウィナの肩から鮮血が飛び散る……! ナイフが当たる瞬間、本能的に攻撃を避け、なんとか軽傷に留めていた……!


(俺の擬態能力をナメるなよ!

 “カモフラージュ”は周囲の

 風景を反射して完全に姿を

 消すことが出来るんだ……!)


 マシューは姿を消しながら、左手でナイフを構えている。ウィナに隙が生まれる瞬間を見計らい、致命傷を与えようと狙っている……。


「あんたこそ……私のことを

 甘く見ないことね……!」


 ウィナは視覚で判別するのは無駄だと悟り、静かに目を瞑った。感覚を研ぎ澄ませ、マシューの気配を探る。


『ガサッ』


「……ッ!!」


 地面から草を踏む音が微かに聞こえた……! ウィナは音が聞こえた方向から一気に飛び退ける……!


(チッ……! 草原を

 選んだのは音で

 判断するためか……!)


「私がここを選んだのは、

 音で判別するためじゃ

 ないのよ?」


(な、なんだと……!?)


 まるでマシューの考えを見透かしているように、ウィナはマシューの狙いを言い当ててみせた。


(くっ……! ハッタリだ!

 次はヘマはしない……!

 足音を立てずに殺す!!)


 マシューは音を立てぬよう、ゆっくりと慎重にウィナに近付いていく。風も吹いている。歩かずとも草原からは、草が擦れる音があちこちから聞こえてきていた。


(これなら音で気付くなんて

 無理に決まってる……!

 俺の勝ちだ……!

 悪役令嬢の仲間め……!)


 マシューがナイフを、ウィナの首元へ突き刺そうと狙いを定めた……!


「“千人力(サウザンドフォース)”ッ!!」


 ウィナが左腕に力を込める! そして、そのまま地面に向かって正拳突きを放った!


「うおわあああああッ!?」


 地面が広範囲に渡り砕かれた! 飛び散る土砂と共にマシューは上空へ吹き飛んでいた……!


「私が草原を選んだのは、

 思いっきり暴れられるからよ!」


「なんだこの馬鹿力はァ!?」


『ピキッ』


 ウィナは『馬鹿力』というワードに敏感に反応した。声の方へ一気に飛び掛かる!


「馬鹿力って……」


「ひッ……!?」


 空に紛れているマシューの元へ的確に狙いを付けているウィナ。空中で身動きが取れないマシュー。勝敗はすでに決していた。


「言うなアアアアアアッ!!」


「ギャアアアアアアアッ!!」


 マシューにかかと落としを決めたウィナ! 凄まじい威力に絶叫するマシュー! そのまま地面に激しく叩き付けられ、轟音と共に地面にはポッカリと大穴が出来上がっていた……。


「うぅ……また騙されるなんて……。

 でも今回は婚約破棄じゃないから

 ノーカンよ……ノーカン……」


 擬態王子マシューを撃破したウィナ。勝利の余韻に浸ることなく、なんとか騙された事実をなかったことにしようとしていた……。


「今の馬鹿デカい音は……!?」


 ウィナの地面を砕く音が、ゲリラたちの元にも聞こえていた。彼女が超人王子の罠に気付いた証拠であった。


「ふふ……これでわたくしが

 駆け付ける必要もなくなり

 ましたわね……」


「何笑ってやがんだ……?

 てめぇが劣勢なのは

 何も変わってねぇじゃねぇか?」


「わたくしが劣勢?」


 剣山王子ハリーは髪の毛の針を逆立てる。今度こそ針の嵐でゲリラを仕留めるつもりだった。


「剣山王子。先程から随分と

 イキっていますけど、

 その針の能力、あなただけが

 使えると思っていますの?」


「な、なんだと……?」


 そう言い放つと、ゲリラの全身を闇が包み込む。そして、闇の塊がうねうねと変形を始めた。


「“暗黒の針山(ダークネスニードル)”ッ!!」


「そ、そんな馬鹿な……!?」


 ゲリラの全身が鋭い闇の針で覆われた。明らかにハリーの針の量を上回っていた。


「こ、こんなの勝てる訳ねぇッ!!」


 ハリーは自身に勝ち目がないことを悟ると、一目散にその場から逃げ出した……!


「逃す訳がないでしょうッ!!」


 ゲリラの体から漆黒の針が放たれた! 視界が黒い塊で覆い尽くされるような無数の針が、ハリーを的確に狙っている……!


「う、うわああああああッ!!」


 針の嵐に飲み込まれ断末魔を上げるハリー。路地裏には不気味なオブジェが完成していた。


「さて……こちらは片付きましたし、

 怪力令嬢の元へ向かいましょうか」


『ガチャッ』


 不意にゲリラの背後から物音が聞こえた。ゲリラは、仕留め損なったかと針のオブジェに視線を戻した。


「悪役……令嬢……」


「え……?」


 ゲリラの目に映ったのは、針の山に立つ少女の姿だった。白い服に身を包み、まるで天使のような出で立ちであった。少女の腕には、気を失った剣山王子ハリーが抱き抱えられていた。

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