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第8話 怪力令嬢と百合令嬢

「私と婚約してください!」


「ふ、ふえぇ……」


 百合令嬢マシェリに婚約を迫られ戸惑う怪力令嬢ウィナ。それをニヤニヤしながら隠れて鑑賞している悪役令嬢ゲリラと悪役メイドのエル。このカオスな状況を打破すべく、ウィナはなんとか口を開く。


「い、いきなりそんなこと

 言われても困るわよ……!」


「……私のこと嫌いなんですか?」


「き、嫌いとかじゃなくて……!!」


 やり過ごそうとするウィナを尻目に食い下がるマシェリ。ウィナは目を泳がせながら汗だくになっている。


(どうしよう……断ったら

 傷付けちゃうかもしれないし……。

 超人王子と違って相手は令嬢だもの……。

 婚約破棄なんて考えてないはず……)


 困惑し続けるウィナ。その様子を見ていたマシェリは、自分の心境を語る決意を固めていた。


「私、実は超人王子に

 婚約破棄されたんです……」


「え……?」


「とても酷い仕打ちを受けて……。

 それでもし女の子同士だったら、

 あんな嫌な目に遭わなかったのかな

 ……なんて思ってしまったんです……」


「ごめんなさい。突然変なこと言って……。

 迷惑でしたよね……。

 でも、あなたのこと素敵だと

 思ったのは嘘じゃないんです……」


「マ……マシェリ……」


(この子……私と同じだったんだ……)


 ようやくマシェリの本音が聞けたウィナ。自分と同じ境遇の令嬢だったと知ると、マシェリに対して受け入れられる気持ちが少しずつ湧いてきていた。


「……ウィナよ」


「えっ……」


「私の名前よ……。まだあんた

 私の名前知らなかったでしょ……。

 まずは友達から始めてみて

 やっても良いわよ……」


「ウィ、ウィナさん……!

 ありがとうございます……!」


 ウィナに受け入れられ涙を浮かべて喜ぶマシェリ。ウィナとマシェリは握手を交わしていた。……それをゲリラとエルはポカンとしながら眺めていた……。


「つ、付き合っちゃいましたよ!?

 あの2人!? 良いんですか!?」


「良いも何も……! わたくしたちに

 そんなこと決める権利は

 ありませんわ……!

 当人たちの自由です……!」


 慌てふためくゲリラたちを他所に、ウィナが茂みに隠れている2人に向かって歩いてきていた。


「か、怪力令嬢……!!」


「怪力令嬢言うな……!

 見てたんでしょ……?

 そういうことだから……」


「ちょっとだけ彼女と、

 そ、その……デート?

 してきても良いかな……」


「くはッ!?」


 ゲリラとエルは予想外の展開に白目を向いて固まっている……。彼女たちはただ、ウィナの意思を尊重して頷くことしか出来なかった……。


「ありがと……。ごめんね。

 超人王子探しは2人に

 任せたから……」


 そう告げると、ウィナとマシェリは手を繋いだまま雑踏の中へと消えていった……。


「行っちゃいましたね……。

 な、なんだか私凄く

 ドキドキしちゃいました……」


「エ、エルはまだまだ子供ですわね。

 同性同士の交際なんて

 今時珍しいことではありませんわ……」


(それにしても、怪力令嬢の顔。

 とても嬉しそうでしたわね……)


 婚約破棄されたばかりのウィナ。彼女の傷付いた心が癒えるのなら、それに越したことはないと、ゲリラは彼女たちの恋を応援することに決めたのだった。


「さて、託されてしまったからには、

 わたくしたちは超人王子を

 探すことにしましょうか……!」


 気を取り直して、悪事を働く超人王子を探すことにしたゲリラとエル。だが、そんな彼女たちを人混みから付け狙う怪しい影が、気配を消しながら尾行を始めていたのだった……。


「マシェリ。この子が私の相棒!

 ライドウルフのマックスよ!」


「わぁ……! うふふ……。

 モフモフで可愛いですね!」


 ウィナは、ゲリラたちの悪役馬車と、街の入り口でお留守番していたライドウルフのマックスを紹介していた。マックスはマシェリの匂いを嗅ぎながら、大人しく頭を撫でられている。


「……よし! マックスも紹介したし、

 ちょっと街で遊んで来ましょうか!」


「そうですね! 遊びましょう!」


(女の子同士だったら……。

 本当に何も心配しないで

 楽しく過ごせるのかな……)


 異性の超人王子に裏切られ続けていたウィナ。彼女はもういっそのこと、本当に女の子と結婚した方が幸せになれるのではないかと、そんなことを考えていたのだった。


 一方その頃ゲリラとエル。


「結局、闇雲に探す羽目に

 なっちゃいましたね……」


「やっぱりこんな大きな街で、

 超人王子探しなんて無理が

 あるんじゃないですか……?」


「ボヤくんじゃありませんわ……。

 これが悪役のわたくしたちの

 生きる道なのです……」


(ヘヘヘ……。わざわざ

 探す必要はねぇぜ……。

 悪役令嬢さんよ……)


 ゲリラとエルが人通りのない路地裏に入ったのを見ると、怪しげな影は一気に間合いを詰めていた。そして、髪の毛を鋭い針へと変換していた。


(死ね! “山嵐”!!)


 ゲリラたちの背後から、大量の針を飛ばし奇襲を仕掛ける影! その殺気を感じ取ったゲリラは瞬時に反応していた!


「エル! しゃがみなさい!」


「えっ……!? うわあっ!!」


 闇の力を一気に開放し、針を弾き飛ばすゲリラ! 辺りに金属がぶつかり合うような音が響いていた。


「ふぅ……。間一髪ですわ……」


「チッ……奇襲は失敗か……。

 まぁいい……。お仲間とは

 引き離せたみてぇだからな」


 もう身を隠せないと悟った影は、ゲリラたちの前へ姿を現していた。影の正体は野盗のような口調とは裏腹に、身なりの整った超人王子のようであった。


「あなたは何者ですか……?

 何故わたくしたちを

 狙うのです……?」


「トボけても無駄だぜ……?

 超人王子を釣るだの

 言ってたのを聞いたのよ」


「俺様は剣山王子のハリー。

 お前、悪役令嬢なんだろ?」


「正体がバレていたなんて……!

 もう! ゲリラ様の声が

 無駄にデカいからですよ!?」


「えぇっ!? わたくしそんな

 大きな声出してましたか!?

 エルの声じゃありませんの!?」


「ほら! 今だって

 声デカいですもん!」


 罠を仕掛けるという会話を聞かれてしまい、悪役令嬢だとバレていたゲリラ。2人はお互いに責任の擦り付け合いを始めた……。


「ええい! やめろ! やかましい!

 心配しなくても2人仲良く

 地獄へ送ってやるよ……ヘヘヘ!

 さっきのお仲間と一緒にな!」


「さっきからお仲間と

 おっしゃっているのは

 怪力令嬢のことですか……!?

 彼女に何をするつもりです!」


「ヘヘヘ……罠に嵌めようと

 してたのはお前らだけじゃ

 ねぇってことだ!」


「ま、まさか……!?

 さっきの令嬢が……!!」


 その頃、ウィナとデートを続けているマシェリ。ウィナの見ていない瞬間、彼女は獲物を見つめるかのように不敵に笑うのであった……。

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