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第6話 悪役令嬢とダイヤモンド

 宝石王子モンド。彼は婚約破棄を企む卑劣な超人王子だった。悪役令嬢ゲリラは超人王子への怒りの炎を燃やしていた。


「よくも純情な乙女心を

 踏みにじりましたわね……」


「絶対に許しませんわ……。

 あの子の痛みを1000万倍に

 して返してさしげます……!」


「別に良いですよ……。

 返せるものならね」


 ゲリラは怒りの形相のまま、モンドに飛び掛かる……! その両手には闇の爪を纏っていた。


「“暗黒の爪(ダークネスネイルズ)”ッ!!」


「ぐあっ!?」


 悲鳴を上げたのはモンド……ではなくゲリラだった。ゲリラの闇の爪は分厚い鉄板にぶち当たったかのように、その衝撃をゲリラの両腕へと伝えていた。


「“ダイヤモード”……。

 僕の体は今、ダイヤモンドの

 硬度をへと変化しています……」


「あなたのような貧弱な

 攻撃力では、僕の鉄壁の守りは

 崩せませんよ……? フフフ……」


「“30万カラット”!!」


 宝石王子は全身をダイヤモンド化させると、その体を輝かせながらボールのように丸くなった。そのままゲリラへ向かって激しく転がる。


「“メテオライト”ォ!!」


 勢いを付けたモンドはボール形態のまま上空へ飛び上がり、隕石のようにゲリラへ向かって体当たりを仕掛ける……!


「“暗黒の垂れ幕(ブラックカーテン)”」


 まるで闘牛を扱うかのように、闇の布で宝石の塊を華麗にいなすゲリラ。それでもお構いなしに、モンドはゲリラの周りを飛び回る。


「やれやれ……。そんな

 単調な攻撃でわたくしを

 倒せると思ってるんですの? 」


「“暗黒の鉄槌(ダークネスハンマー)”ッ!!」


 ゲリラは闇で生み出した巨大なハンマーをモンドに向けて振り下ろした! モンドは強烈な一撃を喰らい、宝石の塊から人型へと戻り倒れていた。


「手応えあり……ですわ」


 ゲリラは勝利を確信していた。だが。


 宝石王子モンドは、何事もなかったかのようにゆっくりと立ち上がり、体に付いた汚れを払っている。


「……今の一撃を耐えるなんて、

 なかなかタフですわね」


「言ったでしょう……?

 ダイヤモンドの硬度が

 あるって。効かないんですよ。

 そんなしょうもない攻撃は」


 ハンマーが効かないことを確認すると、ゲリラは新たな武器を生み出そうと宙に手をかざす。ゲリラが生み出した物は闇のドリルだった。


「効かないのなら、

 その体が壊れるまで

 武器の強さを引き上げる

 だけですわ……!」


 ゲリラはドリルを構えたまま、モンドに飛び掛かる。 強烈なドリル攻撃がモンドに炸裂しようとしていた……!


「やめて!! ゲリラ!!」


「……!?」


 突如。ウィナの声が響き渡り、ゲリラは咄嗟にドリルを解除し、後ろへ飛び退けた。


「か、怪力令嬢……!」


「ククク……これはこれは……」


 モンドは、未だに自分のことを信じ加勢に現れた怪力令嬢ウィナを見ると、不敵に笑い始めた。


「ウィナ……! 助けてください!

 悪役令嬢が私を殺そうとしています!」


「怪力令嬢……! そこをどきなさい!」


「いやよ……! 絶対嫌……!」


(ウィナ良いですよ……!

 そのまま悪役令嬢を

 足止めしていなさい……!)


 モンドは腕をダイヤ化させ、ウィナの影からゲリラへ奇襲を掛けようとしていた……!


「モンドさんは……」


「え……?」


 その時、ウィナが背後を振り返り、モンドに拳を叩き付けた!


「ぐっ!?」


「モンドさんは私の獲物なんだから」


「な、なんだと……!?」


 間一髪、ダイヤの腕でウィナの拳を防いだモンド。モンドは訳が分からず混乱している。


「怪力令嬢! 宝石王子とは

 わたくしが戦っていたのです!

 彼はわたくしの獲物ですわ!」


「何言ってるの! 今までずっと

 一緒に住んでいた私に

 権利があるに決まってるでしょ!」


「ウィナ……。君は僕に

 惚れていたんじゃなかったんですか!?」


「惚れていたわよ……一応」


「い、一応……?」


 ウィナは、おもむろに指を3本立てた右手をモンドに見せ付ける。


「30回」


「は?」


「私が今まで婚約破棄された回数よ!!」


「な、何ですってぇ……!?」


「こちとら30回も騙されてるのよ!?

 だからね! こんなこと慣れっこなの!」


「ぶふふーっ!!」


 堪えきれず盛大に吹き出すゲリラ。それを見たウィナの額には血管が浮かび上がっていた。


「さ、さすがはモテない怪力令嬢……。

 婚約破棄に耐性が付いているとは……」


「モテないって言うなゲリラァ!!

 30回も男の人に告白されてるんだから

 私モテてるでしょうがぁ!?」


「騙すつもりで声を掛けている人間です!

 そんなのモテてるとは言いませんわ!」


 自分をほったらかしにして喧嘩を始めるゲリラとウィナ。モンドはプライドを傷付けられ苛立ちを隠せずにいた。


「いい加減にしろお前らァ!!

 この僕を無視するんじゃねぇ!!」


「“30万カラットォ”!!」


 モンドはゲリラとウィナの攻撃を防いだ硬度を持つダイヤを再び全身に纏い、喧嘩を続ける2人に襲い掛かる……!


「僕のダイヤは無敵だ!!

 お前らは僕に勝てないんだよォ!!」


「ふぅん……」


 怪力令嬢は拳に力を込め、モンドの脇腹へ叩き付けた!


「ぐふおおおおおッ!?」


 殴られた腹部から凄まじい衝突音が響く。モンドの足元には砕かれたダイヤが散らばっていた。


「そ、そんな馬鹿な……!」


「モンドさん。あなたは

 知らなかったでしょうけど」


「私はあなたの前で、一度も本気の力を

 見せたことはなかったのよ?」


 ウィナは拳を痛めることもなく、まだまだその力に余力を残しているように見える。その様子にゲリラも感心していた。


「あの硬いダイヤを砕くとは……。

 さすがの馬鹿力ですわね……」


「馬鹿って付けるな馬鹿って!!」


「ぐ……クソがァ……!!

 僕だってまだ本気出してねぇぞォ!!」


「“100万カラットォ”!!」


 ダイヤモンドに覆われたモンドの全身が、さらに大量のダイヤで覆われていく。全身を月明かりで輝かせ、ダイヤの化け物と化したモンドがウィナに迫る……!


「あら奇遇ねモンドさん。

 私もまだまだ全然本気じゃないのよ!」


「“百人力(ミリオンフォース)”!!」


「ぐぬゥッ!?」


 モンドのダイヤの拳と、さらに力を増したウィナの拳がぶつかり合う! 激しい衝撃で、モンドの拳からまるで星のようにダイヤが飛び散っている。


「ウオオオオッ!!潰すゥ!!

 ぶっ潰してやるぞウィナァ!!」


 さらに強化されたモンドの拳はウィナを襲い続ける……! ウィナは真正面からモンドの拳に拳を打ち込み続けている。


「どォしたァ!?

 こんなもんかウィナァ!!」


「はぁ……それは

 こっちの台詞よ……」


「“千人力(サウザンドフォース)”!!」


 凄まじい闘気で、ウィナの腕から蒸気のような物が吹き出しているように見えた次の瞬間、ウィナの拳はモンドの拳と再びぶつかり合った。


『ピシッ』


「ぐおおおおおおおおおッ!?」


 モンドが悲鳴を上げると、ダイヤの拳から腕へと大きな亀裂が登った。モンドの右腕のダイヤは砕け散り、腕から剥がれ落ちた。


「くそがァ!! 僕を

 ナメるんじゃねェェェッ!!」


 モンドは自身の敗北を認めず、左腕で殴り掛かる。ウィナはその腕をひらりとかわすと、ダイヤの腕を両腕で受け止めた!


「な……!? は、離せ!!

 この馬鹿力がッ!!」


『ピキッ』


 馬鹿力という地雷ワード。それを耳にしたウィナの額には再び血管が浮かび上がっていた。


「馬鹿って……」


「うおおおおっ!?」


 モンドの腕を両手で掴んだウィナは、渾身の力でグルグルと回転しながらモンドを振り回し始めた!


「付けるなアアアアアアッ!!」


「ぎおああああああああッ!!」


 モンドは空高く投げ飛ばされた! そのまま夜空の彼方へと飛び去り、ダイヤを纏ったモンドは月明かりを反射しながら、無数に輝く星々の一部となった。


「あぁ……また騙された……」


 モンドを夜空へ投げ飛ばしたウィナは、今回こそ婚約出来ると信じていた薔薇色の未来を打ち砕かれ、その場に崩れ落ちた。ゲリラはその様子を憐れみながら見つめるのであった。


 翌朝。


「ふわぁ〜あ。なんだか薬でも

 盛られていたかのように

 ぐっすりと眠れましたね……」


 薬で眠らされていた悪役メイドのエルが目を覚ました。エルが辺りを見回すと傍らにゲリラが立っているのが見えた。


「あれぇ……? ゲリラ様……。

 今日は随分早くお目覚めですね……」


「やれやれ……。

 良いご身分ですわねエル」


 ゲリラはエルに昨夜あった出来事を話した。ようやく状況を把握したエル。再び山小屋の中を見回すと、部屋の片隅で怪力令嬢のウィナが膝を抱えてうずくまっていた。


「まったく……いつまで

 そうしているつもりですの?

 婚約破棄は慣れっこでしょうに」


「慣れっこだって……ぐす……。

 ショックはショックなのよ……うぅ〜」


 婚約者との幸せな生活から一転、独りぼっちになってしまったウィナ。いつもおちょくってばかりのゲリラもさすがに気の毒に思っていた。


「はぁ……しょうがないですわね……」


「ウィナ。わたくし達と

 一緒に来ませんか?」


「……え?」


 突然の提案に目を丸くするウィナ。ゲリラはからかっている訳でもなく静かに語り掛けている。


「あなたの怪力はいろいろと

 役に立ちそうですし……。

 付いてきてくれると

 まぁまぁ助かるんですけど……」


「その……友達……ですし?」


「あ……」


 ゲリラの不器用な優しさが心に染みるウィナ。涙を拭うとおもむろに立ち上がった。


「そ、そこまで言うなら

 付いてってあげようかしら!

 世話が焼けるわね! まったく!」


「それはこっちの台詞ですわ……」


「ふふ……似た者同士ですね。あの2人」


 ゲリラとウィナのやり取りを、エルは微笑ましい気持ちで見つめていた。ウィナはリュックに荷物をまとめると、ライドウルフのマックスに跨り、悪役令嬢たちを乗せた悪役馬車の後を付いていくのであった。

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