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第5話 怪力令嬢と宝石王子

「また怪力令嬢がビリですか!

 容易いですわねぇ!」


「く、くそが~っ!!」


 ゲリラたちは馬車から持ってきたトランプで、今度は怪力令嬢ウィナと宝石王子のモンドも交え、ババ抜きで盛り上がっていた。


「フフッ……ゲリラさんは

 面白い人ですね……」


「モンド様すみません……。

 ゲリラ様はちょっと

 頭がおかしいんです」


「エル……あなたも

 もうちょっと歯に衣着せて

 物を申せませんの……?」


『グゥ〜……』


 突然。品のない音が家の中に響いた。悪役令嬢ゲリラが自分の腹を見つめている。


「あら、失礼。お腹の虫が

 ご乱心ですわね」


「ゲリラ様……。あなたという人は

 令嬢の自覚がないんですか……」


「わたくしは悪役令嬢です。

 腹の虫を鳴らしてこそ

 悪役らしいという物ですわ」


「あ、悪役令嬢……!?」


 今まで穏やかな表情を見せていたウィナの婚約者モンド。悪役令嬢の名を聞いた途端、彼の表情がこわばっていた。


「あらわたくしったら、

 悪役令嬢のような下品な

 腹の虫と言いたかったのに、

 うっかり言い間違いを」


「紛らわしいことを

 言って申し訳ありませんね。

 宝石王子モンド様」


「な、なぁんだ……。

 本当にあの悪名高い

 悪役令嬢なのかと

 思ってしまいましたよ……」


「お腹空きましたよね?

 みなさんの分も夕食を

 作りますので、どうぞ

 食べていってください」


「あら。良いんですの?

 ではお言葉に甘えて」


 そう言うと、モンドは夕食を用意するためキッチンへ向かった。怪力令嬢のウィナもモンドを手伝うために彼のあとに付いていった。


「ちょっとゲリラ様……!

 いつもは悪役令嬢の名前を

 むやみやたらに出すのは

 マズいと気を付けているのに、

 どうしちゃったんですか?」


「エル、どうしたもこうしたも

 本当にうっかりしちゃった

 だけですわ。そんな日もあります」


 納得していないエルを尻目に、夕食を待つ間、ゲリラはエルにトランプを配り、再びババ抜きをして時間を潰し始めるのだった。


 それから。用意された夕食を食べ終わったゲリラたち。


「ぶはーっ。食った食ったですわ。

 お腹が膨れたら今度はなんだか

 眠くなってきましたわね」


「ほんと下品ですねゲリラ様……。

 令嬢以前に女性として

 どうかと思いますよ……」


「2階に客室がありますので、

 よろしかったら今晩

 泊まられてはいかがですか?」


「あら。夕食をご馳走になって

 次は寝床まで貸してくださるの?

 モンド様はなんてお優しいのかしら。

 素敵な旦那様と結ばれて、本当に

 良かったですわね。怪力令嬢」


「ま、まぁね……」


 照れながらも嬉しそうに微笑むウィナ。そんなウィナを、ゲリラはなにやら神妙な表情で見つめているのであった。


「う〜ん……? 私もなんだか眠く

 なってきちゃいました……」


「きっと疲れているのです。

 エル。遠慮なさらずに

 ゆっくりお休みなさいな」


「す、すみませんゲリラ様……。

 では、失礼して……」


 エルは猛烈な眠気に襲われそのまま眠りについた。ゲリラはエルが眠ったのを見届けると、優しく微笑みながらエルの毛布を掛け直し、自らも眠りにつくのであった。


 深夜。ゲリラとエルが寝静まり、ウィナとモンドの家は静寂に包まれていた。


「……ウィナ。少し良いですか」


「モンドさん……?

 どうしたの……?」


 そんな中、モンドはウィナを誘い、何やら外へと外出して行った。


「ほら、見てください……。

 今日は月がとても綺麗ですよ」


「ほ、ほんと……凄く綺麗……」


 くっきりと夜空に浮かび上がる満月を眺めながら、ウィナは瞳をうるうると輝かせていた。そんなウィナを愛おしそうに見つめるモンド。


「こんな綺麗な夜空の日に

 渡そうと思っていました……」


「こ、これは……?」


 モンドはポケットから、手のひらに乗るサイズの小さな箱を取り出すと、それをウィナに手渡した。


「君にはまだ婚約指輪を

 渡していませんでしたね……」


「僕は宝石王子。実は今まで、

 君にプレゼントするための

 とっておきの宝石を探して

 いたのです……」


「モ、モンドさん……!」


 ロマンチックな演出に思わず涙ぐむウィナ。とっておきのサプライズを用意していたモンドへの愛は、今までにないほど膨れ上がっていた。


「さぁ、開けてください」


「う、うん……!」


 宝石のように目を輝かせながら、ウィナは箱を開けた。


 箱に入っていたのは薄汚い石ころだった。


「え……?」


 困惑して言葉が出ないウィナ。モンドから貰った大切な贈り物に失礼な態度は出来ないと、すぐに思考を切り替える。これは一見ただの石にしか見えないが、きっと高価な宝石なのだろう……。ウィナはそう思っていた。


「あ、ありがとう……!

 モンドさん……!」


「ひひひひ……」


「あひゃひゃひゃひゃ!!

 うえっひっひっひっ!!」


 ウィナのお礼を聞くと、狂ったような笑い声を上げるモンド。ウィナは思考が追い付かず、その異様な様子に背筋が凍り付いている……。


「馬鹿ですね。そんなもの

 その辺で拾った石に

 決まっているでしょう?」


「な……なんで……?」


 声を震わせながら必死にモンドに尋ねるウィナ。そんなウィナへモンドは冷たい視線を送っている。


「これは婚約破棄の証ですよ」


「僕は君とダイヤモンドのように

 固い絆で結ばれる日を

 ずっと待っていたのです……」


「そして! その絆を

 自らの手でぶっ壊すのが

 ずっと夢だったのです!!」


「あ、あはは……嘘だよね……?

 冗談だよねモンドさん……」


 ウィナはモンドの言っていることが理解出来ず、彼を信じることをやめられなかった……。


「気色悪いですね……。

 何を笑っているのですか……」


「もっと! 泣き叫べよ!

 僕はそういう反応を

 期待していたんですよぉ!!」


 宝石王子は拳をダイヤモンドで覆うと、力尽くでウィナを泣かせようと拳を振り上げた……!


「“暗黒の波動(ダークネスウェーブ)”!!」


「何……ッ!?」


 突如、モンドの拳が闇のエネルギー弾に弾かれた。弾が飛んで来た方向には、悪役令嬢ゲリラの姿があった。


「何故動けるのです……?

 あの食事には睡眠薬を

 仕込んでいたはずですが……」


「わたくしの胃の中に

 闇を発生させて、そのまま

 食事を全て小さな

 ブラックホールに送り込んだ

 のですわ。おかげで、

 今お腹ペコペコですけどね」


「フフフ……そんなセコい真似を

 するとは想定外でしたよ」


 ゲリラは、地面にしゃがみ込んでいるウィナを気に掛けつつ、モンドとの戦闘を開始した。

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