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第3話 悪役令嬢と銀世界

 悪役令嬢が去った後、自然を愛する植物令嬢と、クールな雰囲気ながら優しさを漂わせる氷結王子は、2人仲良く草花が生い茂る広場を散策していた。


「本当にここのお花は綺麗ですね……。

 見ていると元気が貰えます……」


「フフ……まるで君のようだね……」


「え……?」


 花の匂いを嗅ぎ、儚げな美しさを見せる植物令嬢。そんな彼女を見て、氷結王子は穏やかな笑みを浮かべていた。


「私も、綺麗で儚げな君を

 見ていると胸が熱くなって、

 元気が貰える気がするんだ」


「ひょ、氷結王子……」


 愛おしい氷結王子の愛の言葉に、植物令嬢はドキドキが止まらなかった。


「植物の美しさは永遠ではない……。

 だからこそ、こんなに美しい。

 私は、そんな美しさを大事に

 したいんだ……」


「こんな風にね……」


 氷結王子の周囲に風が舞ったかと思うと、広場の花は全て凍り付いていた。綺麗な花は氷の結晶となり、散ってしまった。


「ひょ、氷結王子!?

 こ、これは一体……!!」


 大好きな広場の草花を粉々にされ、ショックを受けている植物令嬢。その弱々しい顔を見て、氷結王子は不敵に笑っている。


「ここの花を綺麗に

 散らせてあげただけさ。

 さっき言っただろう。

 美しさを大事にしたいと」


「君の美しさも

 この花と同じさ……。

 歳を取り、君は必ず

 醜くなるんだ……」


「婚約破棄だよ……植物令嬢」


「え……?」


「聞こえなかったのか!!

 婚約破棄だと言ったんだ!!」


「ひっ……!」


 突然、氷結王子に婚約破棄され、怒鳴られ、植物令嬢はショックで泣き出してしまう……。その顔を、氷結王子は愛おしそうに眺めている。


「植物令嬢……やはり君は

 美しい……だから残念だよ。

 ここで婚約破棄しなければ

 ならないのが……」


「だが、私はババアとは

 付き合いたくないんだ。

 将来のことを想像すると

 虫酸が走るんだよ!!」


 身勝手な暴言を浴びせながら、氷結王子は植物令嬢に手をかざす。自身の能力で植物令嬢を凍らせようとしていた……!


「せめて今、美しいまま

 凍り付き、そのまま死ね」


「氷結王子……」


 大好きな人に裏切られ、植物令嬢は悲しい涙を流しながら凍り付こうとしていた。


「やはりわたくしの勘は

 間違っていなかったですね」


「何……ッ!!」


「エル! 植物令嬢を

 安全な所へ!」


「はいっ!」


 氷結王子が放った冷気を、悪役令嬢は暗黒のカーテンで防いでいた。悪役メイドのエルは、植物令嬢を連れてこの場から避難した。


「ここまで身勝手な男だとは

 思っておりませんでしたけどね」


「なんだ貴様……何者だ……」


「わたくしは悪役令嬢。

 卑劣な超人王子を抹殺する者」


「フッ……そうか貴様が……」


 悪役令嬢の名を聞いても尚、氷結王子は冷静な態度を崩さない。不敵に笑い、冷気を高めている。


「覚悟しなさい氷結王子。

 あなたの体も心も全て、

 粉々に粉砕してやりますわ」


「やれるものならやってみるがいい!」


「“銀世界”!!」


 氷結王子は辺りに猛吹雪を発生させた! 視界が極限まで悪くなり、凍て付く暴風雪が悪役令嬢を襲う……!


「随分とこざかしい真似を

 するのですね。氷結王子。

 超人王子の名が泣いて

 おりますわよ」


「フン。なんとでも言うがいい。

 貴様はこの“銀世界”で

 遭難して死ぬのだ。悪役令嬢」


 吹雪で氷結王子の姿は見えず、声だけが悪役令嬢へ届く。悪役令嬢の体は激しい吹雪でどんどん凍り付いている。一刻も早く“銀世界”から脱出し、氷結王子の息の根を止めなければならない。


「この猛吹雪の中、

 太陽の光は届かない。

 一面、闇の世界。この世界は

 あなただけのフィールドでは

 ありませんのよ。氷結王子」


 悪役令嬢は“銀世界”の暗闇を利用し、自身の悪役令嬢としての闇の力を増幅させている。ゲリラの体が大きな闇の波動を纏い、闇がどんどん膨張していく。


「“超新星爆発(スーパーノヴァ)”ッ!!」


 悪役令嬢は強大な闇の力を爆発させ、氷結王子の作り出した“銀世界”を破壊した。


「な、なんだと……」


「これくらいのことで

 動揺していたら

 話になりませんわね」


「くっ……!」


 氷結王子はさらなる攻撃を仕掛けようと冷気を噴出する。自身のスマートな体を雪で覆い始めた。


「“雪達磨”!!」


 手足の生えた巨大な雪だるまと化した氷結王子。自身の能力で雪を自由自在に動かし、雪の化け物は悪役令嬢に襲い掛かる……!


「“暗黒の(ダークネス)シャベル”」


 悪役令嬢は闇の力を具現化させ、漆黒のシャベルを生み出した。それを構えると“雪達磨”の体を崩し始める……!


「雪かきの時間ですわよ……!」


「ぐぅッ!!」


 雪達磨の右腕を切断する。華麗に飛び回り雪達磨の攻撃をかわしながら、さらに左腕も掘り貫く!


「雪遊びもたまには

 良いものですわね」


「フッ……調子に乗るなよ」


「私の“雪達磨”は何度でも再生出来る。

 いくら攻撃しようが無駄だ!!」


「果たしてそうかしら?」


 氷結王子は“雪達磨”を再生し、悪役令嬢に再び襲い掛かろうとする。だが、“雪達磨”が上手く動かない……! ぎこちなく関節を軋ませている……!


「な……なんだこれは……?」


「あなたの“雪達磨”の切断面に

 わたくしの闇を忍び込ませました。

 “雪達磨”は今、わたくしの

 コントロール化にありますわ」


「ま、待て……やめろ……」


「自分で自分を

 叩き潰して死になさい……!」


「ぐおおおおおおおッ!?」


 “雪達磨”は自分の体を全力で殴り始める。中に入っている氷結王子が血塗れになろうがお構いなしに、ひたすら自分を破壊する!


 胴体が氷結王子の血で赤く染まると、“雪達磨”はようやく動きを止めた。


「真紅に染まる雪の彫刻……。

 美しい芸術ですわね。でも。

 これも永遠の美ではありませんわね」


 氷結王子の美的感覚に皮肉を言うと、悪役令嬢は氷結王子の亡骸を置き去りにして、植物令嬢と悪役メイドのエルの元へと戻るのであった。


 植物令嬢は大好きな広場の植物たちと、愛する氷結王子を失い泣き崩れていた。彼女を悪役メイドのエルが体を撫で、なんとか落ち着かせようとしている。


「植物令嬢……」


 悲しみに暮れる植物令嬢の姿に心を痛める悪役令嬢。氷結王子は抹殺した。だが、心優しい彼女は、その知らせを聞いたところでさらに悲しむことになるだろう。


「これをあなたに……」


 悪役令嬢は植物令嬢に植物の種を手渡した。植物令嬢は、悪役令嬢の意図が分からぬまま、植物の種を握りしめている。


「植物は種を作り、そこからまた

 新たな植物が生まれます。

 あなたの愛もきっと、また

 新しく生まれ変わると、

 わたくしは信じています……」


「あ、悪役令嬢さん……うぅ……!

 うわああああああああッ!!」


 悪役令嬢の言葉を聞き、号泣する植物令嬢。悪役令嬢は、植物令嬢の頭を撫で、泣き終えるまで優しく側に寄り添うのだった……。


 今回も無事、超人王子を討伐し、一人の令嬢を救った悪役令嬢ゲリラ。だが、王子を抹殺しても令嬢の心の傷は治ることはない。ゲリラはますます、卑劣な超人王子たちへの怒りと憎しみを増幅させていくのであった。

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