第2話 悪役令嬢と悪役メイド
「今日も紅茶が美味しいですわ」
悪役令嬢ゲリラ。彼女は各地を移動する拠点、悪役馬車に乗り、今日もどこかで虐げられている令嬢を救うため、各地を旅しているのだった。
「ゲリラ様、よろしいのですか……?」
「何がですか? エル」
悪役令嬢に声を掛けたのは、悪役令嬢専属メイド、悪役メイドのエルだ。悪役メイドはゲリラの身の回りのお世話をしている存在で、彼女の超人王子討伐の旅にずっと付き添っているのだ。
「悪役令嬢の名は今や各地に
轟き、悪役令嬢を亡き者に
しようとゲリラ様を狙う輩が
近頃増え続けています……」
「上等です。わたくしは
悪役令嬢。ならば、
悪役として向かってくる
愚か者は全員潰します」
悪役メイドは、そんな悪役令嬢の言動にほとほと呆れ果てていた。
「そんなだから友達
少ないんですよ……」
「し、失礼ですわね!
わたくしだって友達の
1人や2人いますから!」
「1人や2人くらいしか
いないじゃないですか……」
「うぐぅっ!!」
痛いところを突かれたゲリラは、白目を剥いて固まっていた。
しばらくすると街が見えた。婚約破棄する超人王子がこの街にもいるかもしれない。虐げられている令嬢を1人でも多く救うため、悪役馬を手懐ける悪役従者のリムに頼み、この街で馬車を停車させた。
「では、リム。悪役馬車のことは
よろしくお願いしますね」
リムは、悪役令嬢の闇の力で生み出された存在。全身真っ黒の小さな子供のような姿の彼は、悪役令嬢の言葉に頷き、悪役馬車で大人しくお留守番するのであった。
「綺麗な街並み。可愛らしいお店。
わたくし好みの良い街ですね」
「ゲリラ様、あんまり
フラフラしないで
くださいよ……?
ただでさえ狙われてる
んですから……!」
「エルは心配性ですわねぇ。
少しくらい気持ちに
余裕を持ちなさいな」
「あ、すみません。
クレープひとつください」
「ゲリラ様!!」
「なんでひとつなんですか!?
私もクレープ食べたいです!!」
「そ、そっちなんですの……?」
ゲリラとエルはクレープ片手に、どこか休憩出来る場所はないかと探して歩いた。
「あ。ゲリラ様。
あそこの広場とか
どうでしょうか?」
「あら良いですね。
綺麗な花がたくさん
植えてありますし。
では、あちらのベンチに」
悪役令嬢と悪役メイドは、ベンチに仲良く並んで腰掛け、クレープを堪能し始めた。
「はぁ……美味しい~……。
クレープがある設定の
世界で良かったですわね」
「な、何を言ってるのか
よく分かりませんが……。
もうちょっとお上品に
食べられないんですか……?」
「わたくしは悪役令嬢です。
お上品とかそんなもの
クソ喰らえですわ」
「ほんとゲリラ様って
めちゃくちゃですね……」
そんな2人の視界に、一組の令嬢と王子の姿が見えた。2人は仲睦まじそうに、広場の草花を眺めていた。
「エル。婚約破棄をする
超人王子の可能性があります。
探りを入れましょう」
「え……? あんなに仲が
良さそうなのにですか?」
「念のため、です」
ゲリラはクレープをさくっと食べ終え、令嬢と王子の元へ駆け寄っていった。
「ごきげんよう。天気も良く、
草花も綺麗で良い場所ですね」
「あ、そうなんです……。
私もここ気に入ってるんです」
大人しそうな黄緑色の髪の少女が、ゲリラに微笑みながら答えた。隣りにいる王子も穏やかな顔をしている。
「おふたりは婚約されるのですか?」
「はい! そうなんです!
私、植物令嬢と、
彼、氷結王子は、
近日、結婚式を挙げる
予定でして……」
「植物令嬢さんはとても
優しくて素敵な方です。
私が必ず、幸せに
してみせます……!」
「ふふ……おふたりに
幸があらんことを」
ゲリラは植物令嬢、氷結王子と軽く会話をすると、すぐにエルの元へ帰ってきた。
「どうでした? ゲリラ様」
「……あれは黒ですね」
「え……!?」
「何故ですか……?
とても仲が良さそうで、
穏やかカップルなのに……」
「わたくしの勘です」
「か、勘って……」
あまりにも仲が良さそうな2人。ゲリラが適当なことを言っているのではないかと、エルは疑ってしまう。だが、ゲリラの表情は真剣そのものだった。
「なんだかこの先……。
氷の能力を操る
相手と戦うことになる……
何故か無性にそんな
予感がするのです」
ゲリラは氷結王子の様子を気にしながら、エルと共に広場から立ち去るのだった。