ないものねだり
可愛らしい字を書く人だなあ、というのが第一印象だった。細いペン先からするする流れ出る文字はまるで女の子が書いたものみたいで──なんて言ったら、今時は怒られてしまうのだろうか。
すらりと伸びた長い指、傷ひとつない爪、それでいて少し骨張った無駄な脂肪のないきれいな手。じっと見つめすぎて、指定の記載欄がすっかり埋まったことに気づくのが遅れたほどだった。
不信がられていないことを願いなら書類を受け取る。自分にはないものに憧れるって、こういう感じなんだろうか。
小さくぽってりした自分の手を見たら、なんだか変な笑いが出た。今日の帰り道、普段使いのペンを先の細いのに買い換えよう。
300文SSでした。お題は「手」。