つけ麺と油そば
ラーメンをスープとの関係で3分類すると、狭義のラーメン、つけ麺、油そば・まぜそばになる。狭義のラーメンは丼一杯のスープの中に麺が入っている。これが最も馴染みの形態である。つけ麺は麺を汁につけて食べる形態である。「油そば」「まぜそば」はスープのないラーメンである。
つけ麺は麺を別容器の汁につけて食べる形態のラーメンである。スープに浸される前の麺の輝きを見ることができる。狭義のラーメンに比べ、つゆが濃縮されている。濃厚なつゆと麺との相性がクセになる。汁の入った容器は通常のラーメンの丼よりは小さい。汁の量が少ない代わりに濃厚である。このため、濃厚な味が好みの人がやみつきになる。しかし、汁を飲むような食べ方をする人には向かない。
つけ麺や「油そば」「まぜそば」は比較的最近の流行である。つけ麺は少し前からブームになり、「油そば」「まぜそば」は人気が高まっている。つけ麺や「油そば」「まぜそば」は消費者が麺を汁につけたり、混ぜたりという能動的な動作が求められる点が良い。麺そのものを味わいたい人もいれば、たっぷり浸み込ませたい人もいる。各人の好みに合わせて食べられる。
選択の自由が重視される現代的である。この消費者の選択可能性は、「いきなり!ステーキ」などペッパーフードサービスのステーキにも通じる。ステーキが鉄板で熱された状態で供され、焼き加減を消費者が選択できる。店の押し付けではなく、消費者の選択の自由を尊重する。それがヒットの要因である。
つけ麺や「油そば」「まぜそば」にはスープの廃棄が減るという経営上のメリットがある。ラーメン屋にとって残されたスープは廃棄物になる。つけ麺はスープの量が少なくなるため、残されるスープが減る。「油そば」「まぜそば」はスープがないため、スープが残されることはない。つけ麺や「油そば」「まぜそば」を推すことはラーメン屋にとってメリットがある。これは食品ロス(フードロス)の減少という社会的なメリットもある。
SDGs; Sustainable Development Goalsにも寄与する。SDGs 12.3は以下のように定める。「2030年までに小売・消費レベルにおける世界全体の一人当たりの食料の廃棄を半減させ、収穫後損失などの生産・サプライチェーンにおける食品ロスを減少させる。」
つけ麺は専門店が成立するほど普及した。テレビドラマ『行列の女神~らーめん才遊記~』には「つけ麺あんざい」が登場する。店主の安西徳之(窪塚俊介)と妻の絵里(林田岬優)の店である。つけ麺専門店は新たな顧客層を取り込むことができる。選択肢が増えたことで、消費行動の幅が広がる。この動きは今後も続くだろう。
「油そば」「まぜそば」はスープのないラーメンである。タレを麺に絡めて食べる。混ぜながら食べるため、ゆっくりと食を楽しめる。タレは通常、醤油やラードを材料とした濃厚なものである。スープがないために麺の旨さを味わうことになる。スープで誤魔化せない分、店にとってはシビアに評価されるメニューである。肉類を乗せた場合は「肉入り油そば」となるし、野菜類を乗せれば「ベジタブル油そば」となる。「油そば」「まぜそば」をラーメンではなく、焼きそばの仲間だと考えている人もいる。
酢やラー油などをたっぷりかける食べ方が推奨されることが多い。しかし、スープで誤魔化さずに麺を味わうというコンセプトを踏まえれば、かけ過ぎない方が通の味わい方になる。油そばという名前から油っぽい料理と敬遠するかもしれないが、それほどでもない。むしろ、スープなしで麺だけを味わえることから、ダイエット中の人にもお勧めできる。
「油そば」と「まぜそば」は同じものとする見解が多い。油そばは東京発祥である。安価でボリュームがあることから大学生に支持されて広がった。昔からコスパは重視されていた。値段と味や品質が比例するという発想は情報弱者のものである。台湾まぜそばは名古屋料理である。
「油そば」と「まぜそば」を区別する場合、前者は自分で麺とタレを混ぜるが、後者は最初から麺にタレが味付けされているとする区分けがある。また、前者はシンプルなトッピング、後者は多彩なトッピングとする区分けがある。また、「油そば」という油まみれのネーミングは健康志向の消費者を遠ざけるため、「まぜそば」が好まれるという背景もあるだろう。