食べ放題
食べ放題は飽食であり、忌避している。食べ放題では損をしてしまうのではないかと思ってしまう。量と値段が決まっている方が公正な取引をした感覚になる。
「食べ放題の店に行ったことはあるのか?」
「ないです」
「そうか……」
俺は考え込む。食べ放題というシステムについてどう思うかを訊いてみたいところだ。だが、俺もそこまで詳しいわけではない。
「食べ放題というのはどういうものなんだ?知っている範囲でいいから教えてくれないか?」
「えっとですね……。まずお店が料理を用意しておいてくれます。それを好きなだけ食べるんです」
「なるほどな。それでいくらくらいするんだ?」
「一万円くらいだったと思いますよ」
「ふむ……高いな」
「それでお腹いっぱいになったら帰ればいいんですよ」
「そういうことじゃないんだよなぁ……」
俺は頭を掻く。
「じゃあ、なんですか?」
「いや、なんでもない。気にしないでくれ」
俺は話を打ち切ることにした。これは価値観の違いだろうと思ったからだ。
「もうちょっと詳しく説明してください!」
「うーん……。例えばの話だが、もし君に恋人がいたとして、その人が食べ放題に行きたいと言ったとする。君はそれに賛成するか?」
「賛成しますけど……」
「なぜ賛成できる?」
「だって、一緒に食事したいってことですよね?そんなの当然のことじゃないですか」
「君の言う『当たり前』という言葉の意味を教えてくれるか?」
「意味なんてありませんよ。言葉の通りです」
「そうなのか……」
俺は頭を抱える。
彼女は自分の言葉を疑っていないようだ。
「先輩、どうかしたんですか?」
「いや、なんでもない。気遣いありがとう」
「いえ、別に……」
俺はため息をつく。彼女と話していると疲れる気がしてきた。
「ところで話は変わるのだが、君はどんな食べ物が好きなんだ?」
「好き嫌いは特に無いですけど……。強いて言えば甘いものですかねぇ……」
「ほう……」
俺は少し考える。
「甘いものは太りやすいぞ」
「そうなんですかね?あんまり考えたことなかったかも……」
「なら、今度ケーキ屋に行ってみるか?」
「行きましょう!ぜひお願いします!!」
彼女は目を輝かせていた。
俺は彼女のことをよく知らない。だから、彼女が本当に甘いものが好きだと思っているのかわからない。本当は違うかもしれない。けれど、今はそれでいいと思った。これから知っていけばいいと思えた。
「わかった。行こう」
「やったぁ!!楽しみにしてますね!」
彼女は嬉しそうにしている。俺もつられて笑みを浮かべた。
「さて、そろそろ帰ることにするかな」
「私も帰りますね」
俺たちは立ち上がる。そして、会計を済ませて外に出ようとした時だった。
「あれっ!?」
急に大きな声を出したものだからびっくりしてしまう。
「どうしたんだ?」
「財布忘れちゃいました……」
彼女は申し訳なさそうにする。
「しょうがないな……」
俺は二人分を払った。




