どぜう鍋
どぜう鍋はドジョウ(泥鰌)を煮た鍋である。ドジョウをそのままの形で食べるため、見た目のインパクトは大きい。ネギを大量に載せ、山椒や七味唐辛子をかけて食べる。東京下町の名物料理である。
ドジョウはコイ目ドジョウ科の淡水魚である。浅い池や沼、小川、水田、用水路などの泥の底に生息する。
「このドジョウ、なにか変じゃない?」
ドジョウを観察していた七海が言う。
「そやなあ」
多門も同意した。
「なんちゅーか、ぬるっとしとんねん……あっ!分かったぞう! これは、ミミズの化けもんやあ!」
彼は閃いて断言した。
「ちがいますよ。ドジョウですよう。それはね、ドジョウは泥の中に棲んでるから、身体の表面にある粘液で覆われてるんです。だからこんな感じになるんですよ」
弥生は、やんわり否定してから、解説した。
ドジョウは安くて栄養価の高いスタミナ食である。カルシウムやビタミンB(ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12)などの栄養が含まれる。骨や歯を形成し、神経の興奮を抑える効能がある。
ドジョウはウナギと比べて骨ばった感じで、カルシウムが多いことに納得する。ドジョウはウナギと比べて一匹丸ごと食べることが多く、その点でも多様な栄養を摂取できる。養殖ウナギに比べると脂質が少なくヘルシーである。美肌効果が期待できる。
ドジョウは江戸時代から庶民に愛されてきた夏の滋養食である。夏バテ予防になる。「二匹目のドジョウ」と諺に使われるほど親しまれてきた。ウナギよりも安いのに栄養面では匹敵するという位置付けで、ウナギを買えない人がドジョウで代用した。ドジョウはウナギに代わる庶民の味方であった。
北大路魯山人は、どじょう鍋を「うまくて、安くて、栄養価があって、親しみがあり」「貴族的ではない」と評した。高級ぶるものが美味しい訳ではない。値段と味は比例しない。庶民的な食べ物こそ美味しく感じられる。ドジョウは栄養豊富で健康的な食材なので、積極的に食べたいものである。
しかし、今日ではウナギ以上に接することが少なくなった。ドジョウは高級食材になったのだろうか? いや、そうではない。ウナギの高騰によって、庶民的な食品であったドジョウの地位が相対的に低下した。
同じドジョウ料理でも、ドジョウやゴボウを鶏卵で綴じたものを煮たものは柳川鍋である。鶏卵で綴じたものを丼ご飯に載せると柳川丼になる。ドジョウは、どぜう鍋や柳川丼と食べ方にも幅があり、飽きない。
鶏卵で綴じたものを載せた丼というところから、牛肉の柳川丼、秋刀魚の柳川丼、鰻の柳川丼などのバリエーションもある。トロトロした卵でご飯が進む。




