鮒寿し
寿司と言えば握り寿司のようになっているが、握り寿司だけが寿司ではない。現在の寿司の原型は、江戸前の握り寿司ではなく、押し寿司である。石川県金沢市では、酢でしめた魚、すし飯、紺のりを木枠に重ね入れ、一晩押して寝かせたものが食べられている。一夜かけて重しをすることで、魚とすし飯が互いの旨味を引き出して調和する。
「これは鮒寿しと言って、鮒を塩漬けにしたのち、炊いたご飯を重ねて漬け、自然発酵させた食べ物だよ」
「何か臭いよ」
「発酵しているからね」
「臭くて食べられない」
「それがおいしいのさ」
「えーっ。本当に?」
思い切って食べてみた。
「これを食べると大きな湖が浮かび上がったよ」
「それは琵琶湖だよ。鮒寿しは滋賀県の郷土料理なんだ。滋賀県には琵琶湖という大きな湖があって、そこでとれた鮒で作るんだ」
「じゃあ、このお寿司は?」
「琵琶湖の魚で作ったんだよ」
「どうしてこんなにおいしくできるのかなぁ。不思議だねぇ」
「そうだよねぇ。不思議だよね」
「うん」
二人は顔を見合わせて笑った。
「よし! もっと不思議なものを作ろう!」
「何を作るの? また変なものじゃないでしょうね」
「大丈夫。今度はちゃんとしたものだから」
「よかった。どんなものができるのか楽しみ」
「ちょっと待って」
「どうしたの? 早く作ろう」
「いや、もう少しだけ。もうすぐ完成するから」
「わかった。待っている」
そして完成したものは……。
「はい。できたよ。これが『くさや』です」
「わあっ。すごい。おいしそうなお魚さんがいる。でも、すごくクサくない? これを食べるの?」
「もちろん。はい、召し上がれ」
「いただきます」
パクッ。
「うぅ……」
「あれ、どうしたの?」
「うぅ……、うぐっ……」
「ごめんなさい。やっぱりダメだった?」
「うぐっ、うぐっ」
「あのぉ、無理しない方がいいんじゃ」
「うぐっ、うぐっ」
「……」
「うぐっ、うぐっ、うまかったぞ」
「へぇ~、そうなんですか」
「ああ、うまい。うまい。うまい」
「ありがとうございます」
「はいっ、もう一つ、お願いします」
「かしこまりました。まいどありぃ~」
「それにしても、何を食べようか迷うなぁ」
「何でもいいけど、できれば珍しいものが良いわ」
「珍しいもの……。そう言えば、昨日、テレビで見たんだけど、外国のお客さんたちが日本に来て、一番驚くものは何だってアンケートを取ったら、『納豆』って答えた人が多かったらしいよ」
「へぇ! 納豆? 納豆なんてどこにでもあるじゃない」
「でも、日本では当たり前のように売られているけれど、外国では売っていないだろう。だから、珍しさという点ではナンバーワンじゃないかな」
「なるほどぉ!」
「納豆ならスーパーにも売っているから、買ってきて家で作ろうか」
「やったぁ! 私も手伝うわ」
「よし、決まりだ。納豆を買って帰ろう」
「賛成!」
二人は手をつないでスーパーマーケットへ向かった。




