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勇者の相棒、帰る ~召喚先は、あれから十年後の前世の世界~  作者: 星見だいふく
勇者、故国へ帰る編
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箱入り姫の冒険


ローザを招き入れて、四人で改めて女子だけのお茶会。ローザからもらったケーキをもぐもぐしつつ、ライラは美しい所作で紅茶を飲むローザとフェリシィを見ていた。

セラスがさりげなく手を伸ばしてケーキを横取りしようとするのを、しっかり防ぎながら。


「やっぱりこうやって見てると、フェリシィとローザは本物のお姫様って感じだよな。オレとは住んでる世界が違うって言うか」

「まあ、そんな」


フェリシィは恥ずかしそうに頬を染め、謙遜する。そんな姿も、とても女性らしくて可愛らしい。自分が同じような仕草をしても、きっと気持ち悪いだけだろう。


「私は、ライラ様のような女性になりたいです。強くて、お優しくて……」

「いやあ、それほどでも」

「強さは良いが、ガサツな部分まで見習わぬほうがよいぞ」


ローザが目を輝かせて褒めてくれるので、ライラも悪い気はしない。余計な口を挟むセラスのことは、軽くどついておいた。

そういうところじゃ!と怒るセラスは無視する。


「ザカートはおまえに謝ったか?」

「はい。私の気持ちを考えなくてすまなかった、と頭を下げてくれました」


――おまえも、ライラたちも、俺にとってかけがえのない存在で……。だから、皆が仲良くしてくれたら、と気持ちが逸って、おまえに寄り添うことを忘れていた。すまなかった、ローザ。


真摯に謝罪する兄に、ローザも謝罪したらしい。兄の大事な人たちに、ひどい態度を取ってごめんなさい、と。


「ザカートも、まだまだ女心は分からないお子ちゃまだな」


ライラが訳知り顔でそんなことを言えば、おぬしが言うか、とセラスがまた呆れる。フェリシィも、ちょっと同意するような雰囲気で苦笑いしているので、ライラは唇を尖らせた。


「オレはザカートほど鈍感じゃないぞ――オレも弟いるからさ、ローザの気持ちがわかるんだよ。カーラがオレを放って、オレがよく知らない女とばっかり仲良くしてたら、やっぱりヤキモキするし」

「おぬし……意外と幼稚な独占欲があるのじゃな」

「いいじゃん。自慢の弟なのは本当だし」


ライラが胸を張って言えば、ローザが微笑む。


「私……またケーキを焼いて、今度はみなさんに召し上がって頂きたいです。みなさんのことを、改めてちゃんと知れたら……その時は、ケーキ作り、お兄様も手伝ってくださいね、ってお願いしておきました」

「それは良い案だな。ローザのケーキは美味しいから、また食べれるのは嬉しい――セラス。素直に作ってもらえ。これはオレのなんだから横取りすんな!」


ぎゃーぎゃーとケーキの取り合いをするライラとセラスを見て、フェリシィはくすくすと笑い、ローザも控えめに笑っていた。




あれから十年。

同じメンバーで集まって……お喋りの内容は、あの時とあまり変わらない。何気ないことをネタに、ケーキをつつきながら盛り上がる。


「マジで!?ローザ、おまえ、ルークと結婚したのか!」


衝撃の事実に、リラは目を丸くする。

あれから十年も経っていて、セラスも連れ合いを決め、フェリシィに至っては子供までいるのだ。ローザも二十を過ぎているのだし、こちらの世界での平均年齢を考えれば、結婚しているのも当然か。


「はあ……でも、ローザを生涯守る男としては、ルーク以上の相手なんかいないか。ザカートとか、大喜びしたんじゃないか?」


リラがニヤニヤしながら尋ねれば、ローザも意味ありげに笑う。


「やっぱり、フェリシィやローザは結婚式やったのか?ウエディングドレスとか着たのか?」


二人が頷き、いいな、とリラはため息をついた。


「オレも見たかったなー。二人のウエディングドレス姿、絶対きれいだっただろうなー」


二人とも赤面していたが、着飾った彼女たちがどれほど美しかったか、容易に想像がつく。愛する男の隣で、幸せに笑っているのだから、きっとリラが想像しているよりずっと……。


「セラスも結婚式やったのか?神前で誓う……とか、魔族のおまえにちょっと想像できないけど」

「式は挙げておらぬが、ドレスは着た――というか、着させられた。こやつらが勝手に押しかけてきて、有無を言わさずドレスを押し付けてきてな」


ローザが持ってきたケーキをもぐもぐしながら、セラスが言った。


「セラス様が結婚式に興味がないとおっしゃるので、ミカ様と相談して、私たちでサプライズのお祝いすることに致しましたの。白いドレスを着たセラス様、とても可愛らしかったですわ」

「いいなーいいなー。みんな見れていいなー」


なんとも羨ましい。自分も参加したかったな、と素直に思う。参加できなかったことをやっぱり寂しく感じるし、みんなから話を聞けて、とても楽しい。


「あ。そう言えば、みんな結婚したんだから、オレ、結婚祝いとかプレゼントしないとダメだよな。マルハマに寄った時に、町に出て探してみればよかった」

「お気持ちだけで充分ですわ」


フェリシィはにこにこと笑って言ったが、セラスが口を挟む。


「わらわはくれると言うのならばもらうぞ。ほれ、ならばいまからでも町に出るぞ。しっかりわらわに貢ぐがよい」

「そう言われると祝う気なくすな――でもそうだな。ウラガーンをゆっくり見てみたいと思ってたし、行ってみるか」


ちょうどケーキも食べ切ったところだし。

リラが出かける準備をしていたら、なんだかローザがソワソワし始めた。アスールも、ローザの様子を不思議そうに見上げている。


「あの……もしご迷惑でなければ、私も……。私、新しくなったウラガーンの町を見て回ったことがなくて……」

「え。おまえ、自分の国の、しかも国都なのに、見れてないの?」


リラが目を丸くして言えば、ローザが恥ずかしそうに頷いた。


「それはダメだぞ。自分が治めてる国のこと、ちゃんと知っておかないと。一緒に見に行こうぜ」


リラが当たり前のように誘ってくれたので、ローザはほっとしていた。

でも、とちょっと困ったように戸惑う。


「どうやって城を出ましょう……?」


ちらりと、ローザは部屋の出入り口を見る。この部屋にはついて来ていないが、ローザにはお付きの人間が必ず付き添っている。

彼女たちはローザが町へ出かけるなんて反対するだろうし、大勢の護衛を引き連れて町へ出るのは、やっぱりそれはないというか……。


「それならば問題ない」


セラスがニヤっと笑い、どこからともなく小瓶を取り出す。本当に、どこから取り出した。


「フルーフからくすねておいた眠り薬じゃ」


小瓶を開けて、ケーキの入っていた皿に薬を入れる。それをそっと扉の下の隙間から外に差し出して。


セラスがそんなことをしている間に、リラはローザを着替えさせていた。

ドレスではさすがに出かけられない。リラが持っている服で、ローザでも着れそうなものを貸し出すことにした。


「ズボン……初めて履きました」

「よく似合ってるぜ」


さすがに短パンは履かせられないが、初めてのパンツスタイルにローザは戸惑っている。いつもドレスを着ている彼女には、お尻から脚のラインが丸出しになるのいささか抵抗があるらしい。


「お部屋のお外にいらっしゃった方々……みなさん、眠ってしまわれたみたいですわ」


部屋の外の様子をうかがい、フェリシィが言った。

それじゃあ行くか、とリラが声をかけ、逃亡計画が始まった――。




一方その頃、ザカートの部屋。


こちらもまた、ジャナフ、カーラ、フルーフ、竜のセイブルと、男連中が集まっていた。

おおよその話題はリラのこと、これからのこと、リラのこと、オラクルと魔王のこと、結局リラのこと……とまあ、だいたい誰かさんの話題が七割ぐらいになりがちだ。


そんな彼らのもとに、慌てた様子でルークが駆け込んできた。


「お話し中、失礼します――女官たちから、ローザ様がお一人で城を出てしまったと報告がありまして」

「一人で?」

「あ、いえ、実際には、ライラ様たちと一緒かと。ライラ様のお部屋でお話をしていたはずが、気付いた時には自分たちは眠ってしまい、部屋はもぬけのからだったと……部屋に、これが残されておりました。ザカート様宛てなので、まだ誰も目を通しておらず……」


そう言って、ルークが書き置きのようなものを手渡してくる。

折りたたまれた紙には、ザカートへ、という字が。これはリラの筆跡だ。カーラも、すぐに姉が書いたものだと察した。


「姉者は、なんと?」

「ええっと……ローザ連れて、町に行ってくる。空気読んで探しに来いよ――」


ザカートが内容を読み上げると、ジャナフたちも苦笑していた。

要するに、ローザが町を堪能した頃合いを見計らって迎えに来い、と。リラらしい言い草で、ザカートも笑ってしまった。


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