箱入り姫の冒険
ローザを招き入れて、四人で改めて女子だけのお茶会。ローザからもらったケーキをもぐもぐしつつ、ライラは美しい所作で紅茶を飲むローザとフェリシィを見ていた。
セラスがさりげなく手を伸ばしてケーキを横取りしようとするのを、しっかり防ぎながら。
「やっぱりこうやって見てると、フェリシィとローザは本物のお姫様って感じだよな。オレとは住んでる世界が違うって言うか」
「まあ、そんな」
フェリシィは恥ずかしそうに頬を染め、謙遜する。そんな姿も、とても女性らしくて可愛らしい。自分が同じような仕草をしても、きっと気持ち悪いだけだろう。
「私は、ライラ様のような女性になりたいです。強くて、お優しくて……」
「いやあ、それほどでも」
「強さは良いが、ガサツな部分まで見習わぬほうがよいぞ」
ローザが目を輝かせて褒めてくれるので、ライラも悪い気はしない。余計な口を挟むセラスのことは、軽くどついておいた。
そういうところじゃ!と怒るセラスは無視する。
「ザカートはおまえに謝ったか?」
「はい。私の気持ちを考えなくてすまなかった、と頭を下げてくれました」
――おまえも、ライラたちも、俺にとってかけがえのない存在で……。だから、皆が仲良くしてくれたら、と気持ちが逸って、おまえに寄り添うことを忘れていた。すまなかった、ローザ。
真摯に謝罪する兄に、ローザも謝罪したらしい。兄の大事な人たちに、ひどい態度を取ってごめんなさい、と。
「ザカートも、まだまだ女心は分からないお子ちゃまだな」
ライラが訳知り顔でそんなことを言えば、おぬしが言うか、とセラスがまた呆れる。フェリシィも、ちょっと同意するような雰囲気で苦笑いしているので、ライラは唇を尖らせた。
「オレはザカートほど鈍感じゃないぞ――オレも弟いるからさ、ローザの気持ちがわかるんだよ。カーラがオレを放って、オレがよく知らない女とばっかり仲良くしてたら、やっぱりヤキモキするし」
「おぬし……意外と幼稚な独占欲があるのじゃな」
「いいじゃん。自慢の弟なのは本当だし」
ライラが胸を張って言えば、ローザが微笑む。
「私……またケーキを焼いて、今度はみなさんに召し上がって頂きたいです。みなさんのことを、改めてちゃんと知れたら……その時は、ケーキ作り、お兄様も手伝ってくださいね、ってお願いしておきました」
「それは良い案だな。ローザのケーキは美味しいから、また食べれるのは嬉しい――セラス。素直に作ってもらえ。これはオレのなんだから横取りすんな!」
ぎゃーぎゃーとケーキの取り合いをするライラとセラスを見て、フェリシィはくすくすと笑い、ローザも控えめに笑っていた。
あれから十年。
同じメンバーで集まって……お喋りの内容は、あの時とあまり変わらない。何気ないことをネタに、ケーキをつつきながら盛り上がる。
「マジで!?ローザ、おまえ、ルークと結婚したのか!」
衝撃の事実に、リラは目を丸くする。
あれから十年も経っていて、セラスも連れ合いを決め、フェリシィに至っては子供までいるのだ。ローザも二十を過ぎているのだし、こちらの世界での平均年齢を考えれば、結婚しているのも当然か。
「はあ……でも、ローザを生涯守る男としては、ルーク以上の相手なんかいないか。ザカートとか、大喜びしたんじゃないか?」
リラがニヤニヤしながら尋ねれば、ローザも意味ありげに笑う。
「やっぱり、フェリシィやローザは結婚式やったのか?ウエディングドレスとか着たのか?」
二人が頷き、いいな、とリラはため息をついた。
「オレも見たかったなー。二人のウエディングドレス姿、絶対きれいだっただろうなー」
二人とも赤面していたが、着飾った彼女たちがどれほど美しかったか、容易に想像がつく。愛する男の隣で、幸せに笑っているのだから、きっとリラが想像しているよりずっと……。
「セラスも結婚式やったのか?神前で誓う……とか、魔族のおまえにちょっと想像できないけど」
「式は挙げておらぬが、ドレスは着た――というか、着させられた。こやつらが勝手に押しかけてきて、有無を言わさずドレスを押し付けてきてな」
ローザが持ってきたケーキをもぐもぐしながら、セラスが言った。
「セラス様が結婚式に興味がないとおっしゃるので、ミカ様と相談して、私たちでサプライズのお祝いすることに致しましたの。白いドレスを着たセラス様、とても可愛らしかったですわ」
「いいなーいいなー。みんな見れていいなー」
なんとも羨ましい。自分も参加したかったな、と素直に思う。参加できなかったことをやっぱり寂しく感じるし、みんなから話を聞けて、とても楽しい。
「あ。そう言えば、みんな結婚したんだから、オレ、結婚祝いとかプレゼントしないとダメだよな。マルハマに寄った時に、町に出て探してみればよかった」
「お気持ちだけで充分ですわ」
フェリシィはにこにこと笑って言ったが、セラスが口を挟む。
「わらわはくれると言うのならばもらうぞ。ほれ、ならばいまからでも町に出るぞ。しっかりわらわに貢ぐがよい」
「そう言われると祝う気なくすな――でもそうだな。ウラガーンをゆっくり見てみたいと思ってたし、行ってみるか」
ちょうどケーキも食べ切ったところだし。
リラが出かける準備をしていたら、なんだかローザがソワソワし始めた。アスールも、ローザの様子を不思議そうに見上げている。
「あの……もしご迷惑でなければ、私も……。私、新しくなったウラガーンの町を見て回ったことがなくて……」
「え。おまえ、自分の国の、しかも国都なのに、見れてないの?」
リラが目を丸くして言えば、ローザが恥ずかしそうに頷いた。
「それはダメだぞ。自分が治めてる国のこと、ちゃんと知っておかないと。一緒に見に行こうぜ」
リラが当たり前のように誘ってくれたので、ローザはほっとしていた。
でも、とちょっと困ったように戸惑う。
「どうやって城を出ましょう……?」
ちらりと、ローザは部屋の出入り口を見る。この部屋にはついて来ていないが、ローザにはお付きの人間が必ず付き添っている。
彼女たちはローザが町へ出かけるなんて反対するだろうし、大勢の護衛を引き連れて町へ出るのは、やっぱりそれはないというか……。
「それならば問題ない」
セラスがニヤっと笑い、どこからともなく小瓶を取り出す。本当に、どこから取り出した。
「フルーフからくすねておいた眠り薬じゃ」
小瓶を開けて、ケーキの入っていた皿に薬を入れる。それをそっと扉の下の隙間から外に差し出して。
セラスがそんなことをしている間に、リラはローザを着替えさせていた。
ドレスではさすがに出かけられない。リラが持っている服で、ローザでも着れそうなものを貸し出すことにした。
「ズボン……初めて履きました」
「よく似合ってるぜ」
さすがに短パンは履かせられないが、初めてのパンツスタイルにローザは戸惑っている。いつもドレスを着ている彼女には、お尻から脚のラインが丸出しになるのいささか抵抗があるらしい。
「お部屋のお外にいらっしゃった方々……みなさん、眠ってしまわれたみたいですわ」
部屋の外の様子をうかがい、フェリシィが言った。
それじゃあ行くか、とリラが声をかけ、逃亡計画が始まった――。
一方その頃、ザカートの部屋。
こちらもまた、ジャナフ、カーラ、フルーフ、竜のセイブルと、男連中が集まっていた。
おおよその話題はリラのこと、これからのこと、リラのこと、オラクルと魔王のこと、結局リラのこと……とまあ、だいたい誰かさんの話題が七割ぐらいになりがちだ。
そんな彼らのもとに、慌てた様子でルークが駆け込んできた。
「お話し中、失礼します――女官たちから、ローザ様がお一人で城を出てしまったと報告がありまして」
「一人で?」
「あ、いえ、実際には、ライラ様たちと一緒かと。ライラ様のお部屋でお話をしていたはずが、気付いた時には自分たちは眠ってしまい、部屋はもぬけのからだったと……部屋に、これが残されておりました。ザカート様宛てなので、まだ誰も目を通しておらず……」
そう言って、ルークが書き置きのようなものを手渡してくる。
折りたたまれた紙には、ザカートへ、という字が。これはリラの筆跡だ。カーラも、すぐに姉が書いたものだと察した。
「姉者は、なんと?」
「ええっと……ローザ連れて、町に行ってくる。空気読んで探しに来いよ――」
ザカートが内容を読み上げると、ジャナフたちも苦笑していた。
要するに、ローザが町を堪能した頃合いを見計らって迎えに来い、と。リラらしい言い草で、ザカートも笑ってしまった。




