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勇者の相棒、帰る ~召喚先は、あれから十年後の前世の世界~  作者: 星見だいふく
勇者、故国へ帰る編
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ガールズパーティー


アリデバラン城の宝物庫――鍵を開けて中に入れば、真っ先に目につく場所に重厚な箱が置かれている。

ルークがそれを恭しく差し出し、ザカートが箱に手をかざした。


「一応、この箱は俺でないと封印が解けないようにしてあるんだ」


箱に不思議な光の文様が浮かび上がり、パリンと割れる。箱を開けると、中には見覚えのある剣が。

ザカートが手に取り、引き抜こうと……したが、ガチガチと鳴るだけで剣を引き抜くことは叶わなかった。


「お、おい……」

「手入れしないまま鞘に入れて放置してたから、錆びついてしまったみたいだな」


ザカートは苦笑いで言ったが、リラは青ざめる。抜くことすらできない剣では、ろくに使うことすらできないではないか。


「オレが持ってやるから!しっかり――」


鞘の側をリラがしっかり持ち、ザカートは両手で引き抜こうとする。ザカートの手の痣が光り出し、リラは慌てた。


「お、オレにその光、当てるなよ!?シャレにならねーんだからな!」


でも勇者の力が発揮されたおかげか、剣はなんとか抜けた。

やっぱり、剣は乾いた血が張り付いて真っ黒で、刃こぼれしている箇所もある。


「いくら魔王ネメシスには新しい別の聖剣が必要とは言え、これでは普段の戦いにも使えないな……」


剣を観察するザカートに対し、大丈夫ですよ、とフルーフが言った。


「これぐらいなら、グリモワールの技術で何とかなります」

「なら、さっそく出発するか」


剣を鞘に収め、ザカートが言った。

もう発ってしまうのですか、とローザががっかりする。


「すまない。ここには剣を取りに来ただけだから……帰ってきたら、もうちょっと政務をすることにする」


ザカートの言う通り、ここには剣を取りに来ただけだから、もう用事は終わってしまったのだが……。


「ザカート様。もしよければ、一晩滞在させていただけないでしょうか。グリモワールまでの帰路は長いので、休息を取らせてもらえれば、とてもありがたいのですが……」


セイブルが、おずおずと提案する。


セイブルが自分から休ませてほしいと頼んでくるなんて、珍しいことだ。

久しぶりに帰ってきてくれたザカートはもちろん、アリデバランを訪ねてくれたリラたちをもてなしたくて――引き留めたいローザの気持ちを汲んでの提案だったのだろう。


フルーフが、真っ先に賛同した。


「そうですね。一晩休んでから出発しましょう。実は、ミカさんにオラクルの偵察を頼んであるんです。彼がグリモワールに戻ってくるまで、まだ時間もかかるでしょうから、急いで戻る必要はないかと」

「ミカを?」


自分の連れ合いの名前が出て、セラスが目を丸くする。


いまはセラスの夫でもある魔族……というか元・人間……というか、一応勇者。

悪い人ではないのだが、世界の危機とか、勇者の使命とか、そういうことに興味がなくて、自分の研究に没頭していたいタイプなのだ。

だから、前回のライラたちの旅にも、積極的に参加することはなかった。


セラスと一緒にオラクルの話は聞いていたから、だいたいの事情は知っているだろうけれど……。


「はい。セラスさんがこまめに手紙でやり取りをして、詳細を教えてくださってたんですよね?オラクル王国に行って調査してくると、ご自分から提案してくれたそうですが……」

「わらわは聞いておらぬ。あやつめ、何を企んでおるのじゃ」


うさんくさそうな顔をしているが、セラスなりにミカのことを心配しているんだろうな、とリラは思った。


ミカはあまり戦闘が得意そうには見えなかった――クルクスの前の魔王を倒した実力はあるのだから、戦えないことはないはず。

それでも、心配するセラスの気持ちはもっともだ。


「オラクルを探ってくれるというのならば有難い。あの国のことも、魔王のことも、まだまだ情報が足りぬからな。ザカートの剣が元に戻れば、いよいよオラクルに向かうことになる。魔王との戦いは、やはり楽なものにはなるまい……」


ジャナフが言い、全員が頷いた。


たしかに十年前より自分たちはずっと強くなり、経験も積んで、そう簡単には敗けなくなった。リラもまた、敗ける気はない。

だがやはり、油断はできない。魔王クルクスとの戦いがどのような結果になったか、それを考えたら……。




アリデバランの城でも、リラたちは一人一部屋ずつ客室が与えられ、休むことになった。

リラのセンスではヨーロピアンなお城としか評せないが、グリモワールやプレジールの城とはちょっと違っていて、各部屋に暖炉が付いているのが特徴的だ。

実際に使っている暖炉を見るのは初めてだから、リラはしばらくの間、ぱちぱちと燃える暖炉の火を眺めていた。


「……ん。フェリシィとセラスか?」


部屋の扉をノックする音が聞こえてきて、リラは扉に向かう。そこにいたのは、予想通りフェリシィとセラス。

お茶にしませんか、とフェリシィが笑顔で言った。


「いいぜ。ほら――オレの部屋でいいのか?」


フェリシィがお茶と茶菓子を持って、リラの部屋にあるテーブルに用意していく。

セラスは部屋のベッドに寝転がって寛ぎ、リラは苦笑いでフェリシィを手伝おうとして……また誰か、部屋にやって来る。


もう一度扉へ向かうと、今度はアスールを連れたローザが立っていた。


「押しかけて申し訳ありません。ライラ様に、これをお渡ししたくて」


ローザが差し出したものは、甘い匂いがただようケーキ。

アスールが、ローザが手にしているものを見上げてそわそわしている。リラはケーキを受け取り、くすりと笑った。


「そう言えば、昔もこうやってケーキを焼いてくれたな」


十年前を思い出して言えば、ローザも笑った。


「せっかくだから、部屋に寄ってけよ。ちょうどフェリシィとセラスも来ててさ。一緒に茶でも飲んでお喋りしようぜ」




十年前、アリデバランからグリモワールに戻った後のこと。

フルーフに勧められたとおり、ザカートは妹ローザ、騎士ルーク、ブルーパンサーのアスールを連れて来ていた。二人と一匹は、そこでザカートの帰りを待つことになったのだ。


魔王クルクスの城へ突入する前、ライラたちもしばらくはグリモワールに滞在することになり、ある日、ザカートに声をかけられた。


「ライラ。ローザがケーキを焼いたんだ。食べに来ないかと誘われて向かうところだったんだが、一緒に行かないか?」


ザカートに誘われ、ライラはあまり深く考えずに同行した。

そして部屋に着いてみて、まずったな、と思った。


ザカートとライラを出迎えたローザは、明らかにライラを見て動揺していた。楽しそうにしている兄の手前、ローザはライラのことももてなしたが……たぶん、自分はお邪魔虫だ。


目の前の美味しそうなケーキは、兄のために作った……ローザは、兄と二人で過ごしたかったはずだ。

なのに、ライラに割り込まれてしまって。おまけにザカートは、ライラに笑顔を向けて……。


「ローザが作ったケーキは美味しいだろう?母上がケーキ作りが得意な人で、ローザはいつもそれを手伝ってたんだ。もちろん、当時はまだ小さいから、本当にちょっと手伝うだけだったんだが……一人でも、上手に作れるようになったんだな……」


楽しそうに話しかけてくるザカートに適当に相槌を打ちながら、さっさと食べて退散するか、とライラはケーキをむしゃむしゃする。

だが皿が空っぽになると、ザカートはおかわりをすすめてきて。


「……ローザ。そんなぐちゃぐちゃになった部分をあげなくても……ライラ、俺のと交換するか」


兄に促されライラにおかわりを渡そうとしたローザは、ケーキの中でも、ちょっと失敗した部分を切り分けてきた。心なしか、表情も拗ねたようになっている。

ザカートが自分の皿と取り換えようとしたら、さっと手を伸ばして、兄を妨害した。


「ローザ……?さっきから思ってたんだが……もしかして、わざとライラに冷たくしていないか?どうしてそんな――」

「おまえが悪い」


妹の違和感に気付きだしたザカートの頭に、ライラはゴツンと拳骨を落とす。

かなり手加減したから痛くはなかったはずだが、ザカートは驚き、目を丸くしてライラを見た。


「ローザ。おまえ、本当はザカートと二人で過ごしたかったんだろ?ごめん、気付かなくって――ザカート、おまえもだぞ。可愛い妹を自慢したいのは分かるけど、まずは二人で過ごす時間を優先してやれ」


ぱちぱちと目を瞬かせるザカートに、ライラはなおも説教する。


「そりゃ、負けるつもりはないけどさ。オレたち、もうすぐ魔王との戦いに行くんだぜ?ローザからすれば、ようやく兄ちゃんに会えたのに、もしかしたら今度こそ永遠の別れになるかもしれないって、不安になるのも当然だ。できる時に、離ればなれだった時間を埋めておけ」


ライラはローザが切り分けてくれたケーキを手に立ち上がった。

ぱくっと、ケーキを口に放り込む。ぐちゃぐちゃになって不格好だけれど、味は美味しい。ローザが、兄を激励したくて、想いを込めて作ったものなのだろう……。


「ケーキ、美味かったぜ。ありがとな。ザカート、間違ってもローザを責めたりするんじゃねーぞ」


そして自室に戻ったライラは、途中で会ったフェリシィ、セラスに、ザカートの失敗談を面白おかしく喋った。

真面目なザカートも、デリカシーに欠けることをやらかしたりするんだな、とライラが面白がれば、おぬしが言うか、とセラスが呆れていた。


女三人で喋っているところへ、誰かがライラを訪ねてくる。

出迎えてみれば、小さい箱を持ったローザが。おずおずと、ローザは箱を差し出した。


「……あの。これ……」

「オレにか?もらってもいいのか?」


小さく頷くローザに、ライラはにっこり笑って箱を受け取る。

中身は見なくても分かった。甘い、良い匂い。


「意地悪してごめんなさい……」

「気にすんな――おまえ、いい子だな」


しゅんとなって謝罪するローザの頭を、ライラはぽんぽんと撫でる。

ザカートの妹だけあって、やっぱりローザも良い子だ。ザカートが自慢に感じて、ライラと引き合わせたがる気持ちもよく分かる。


「あ、そうだ。いま、部屋にフェリシィとセラスも来ててさ、お茶会ってのをやってるんだ。よかったらおまえも一緒に参加しないか?」


ライラの提案にローザはちょっと戸惑う様子を見せたが、セラスがひょっこり顔を出し、ローザを引っ張って部屋に連れ込んでしまった。

……たまには、こういう強引さもいいだろう。


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