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勇者の相棒、帰る ~召喚先は、あれから十年後の前世の世界~  作者: 星見だいふく
勇者、故国へ帰る編
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回顧録・誓いの夜空


あたりを覆っていた白いモヤはすっかり晴れ、夜のとばりが落ち始めた空が見えるようになっていた。


ローザ、ルークとザカートが無事再会できた後、一同は焚火の準備を進めたていた。

ライラとジャナフで丸太を取ってきて囲いのようなものを作り、その中に、男たちが集めてきた枝を入れていく。


フェリシィ、セラスと一緒に焚火の準備を見ていたローザは、申し訳なさそうにしていた。


「あの……ごめんなさい。私も手伝うべきなのに……」

「気にすんなよ。フェリシィに回復してもらったとはいっても、おまえだってオレたちと戦って疲れてるだろ。ていうか、あんたも休んでればいいのに」


焚火の準備を一緒にやっているルークに向かってライラが言えば、いいえ、と騎士は首を振る。


「私が率先して行うべきことですから。どうぞお気になさらず」


ルークが指定した薪を取ってきて、フェリシィたちに渡す。フェリシィとセラスは二人で薪の先端に火を灯し、ローザに手渡した。


「ザカート。こいつも一緒に供養してやれよ」


そう言って、ライラはザカートに布の包みを渡す。ザカートはそれを受け取り、中を見た。

布の中には、拾い集めた剣の破片が。


「さすがに全部は無理だったけど、拾い集めてみたんだ。おまえの大事な相棒一号――こいつには勝てねーから一号の座は譲ったが、二号はオレだからな。そいつは三号だぞ!」


ザカートが腰に提げる剣を指し、ライラがビシッと言う。ザカートは苦笑いしながら、そうだな、と同意した。


焚火の準備が終わり、ザカートとローザが並んで前に立つ。ライラたちは、二人から少し距離を取って、後方で見守った。

アリデバラン皇族が取り仕切るべき儀式だから、ライラたちが出しゃばるわけにはいかないないのだ。


「アリデバランでは聖木を集めて火にくべ、亡くなった人たちを送る儀式がございます。本来は一年の終わりに執り行うものなのですが、大きな災害などが起きた場合、死者を悼むと共に、生き残った者たちが再興の誓いを立てるため行われることも」


ルークが説明した。


ローザから火の点いた薪を受け取り、ザカートが点火する。

あっという間に火は大きくなって、もくもくと煙が立ちのぼっていく。その煙は、どこか心落ち着く匂いであった。聖木というぐらいなのだから、やっぱり特別な樹木なのだろうか。


「ミハイル様、エリザヴェータ様……ザカート様とローザ様が二人揃って立派に儀式を取り行っている姿を見て、お喜びになられていることでしょう……」


言いながら、ルークがこっそり目頭をおさえる。


ザカートたちの両親のことだろう――アリデバランの人たちのために、ルークは墓石を立てていた。

と言っても、魔王クルクスの強力な魔力で命奪われた人々は、亡骸すら残っていない。


焚火の前には大きな墓石が立てられているのだが、中は空っぽ。

きちんと弔ってあげることもできず、無念の内に死を遂げた魂が、いまも廃墟となったアリデバランの国都をさまよっていそうだ……。


「父上、母上、アリデバランの民……七年も待たせてすまない……遅くなって、すまなかった……」


苦渋に満ちた声で、ザカートが呟く。ローザが兄の手をそっと取り、ザカートもまた、妹の手をぎゅっと強く握り返した。


「あ……あれ、オーロラってやつか?」


陽も沈んだ夜空に、七色の光が輝く。この現象は、ライラも聞いたことがあった。

とても神秘的で、不思議な光だ。


「これがオーロラか……実に不思議な」


南方育ちのジャナフ、カーラもオーロラを実際に見るのは初めてだから、感心したように見入っている。フェリシィたちも、オーロラに感嘆の声を上げていた。


「この儀式が行われると、夜空にオーロラが現れ、亡き人たちを天国へと誘うのです。アリデバランの神がさまよう魂を導く道標として、この光を降らせているとも言われております」


ルークの説明を聞き、そっか、とライラは呟いた。それきり、みんなでじっとオーロラを見つめる。


やがて、地上にも不思議な光が生まれ始めた。

キラキラと輝いて……蝶のように、ひらひらと空へ舞い上がっていく。その数は、幾千……幾万もの、数えきれぬ輝きで……。


「あたたかい光……もしかしてこれは、アリデバランの人たちの魂でしょうか……?」


フェリシィが手を伸ばしてみるが、光の蝶をつかむことはできなかった。実体のあるものではないらしい。

蝶たちはオーロラを目指して飛んで行く……フェリシィの言う通り、やはりこれはアリデバランの人たちの魂だろう。


ザカートが帰還し、ようやく彼らの魂も安息を得た。幻想的で……美しくも、悲しい光景だ。


「あっ……」


それは誰の声だったのか。儀式を眺めていた誰もが、それに気付き、吐息を震わせた。


大きな二匹の蝶が、番のように連なって飛んでいる。蝶たちはすぐに空へ向かわず、ザカートとローザの周りをひらひらと舞う――まるで二人に、挨拶するかのように。


もしかして、あれは……。


「お父様……お母様……」


ローザがそっと手を差し出せば、二匹の蝶は彼女の手にとまるような仕草を見せた。

ザカートも蝶を見つめ、泣き出しそうな顔をしている。


「父上、母上……約束します。俺は必ず、魔王を倒すと」


蝶にはやはり触れられない。ザカートであっても。

それでも、ザカートも蝶に向かって手を伸ばさずにはいられなかった。


「魔王を倒して、アリデバランを復興させる。ローザと一緒に。俺たちが愛した姿を、絶対に取り戻してみせる。いまの俺ならできると、そう信じられるから。辛く苦しい旅だったけれど、俺は力を得たんだ――かけがえのない仲間も得た。みんなが支えてくれるから、俺はこの先何があったって、何が起きたって、乗り越えてみせる」


女神デルフィーヌが言ってたことは、こういうことだったんだな。

ライラは一人、心の中で納得していた。


アリデバランで、いまのザカートに必要なことが起きる。

いまのザカートにとって必要なものは、未来への希望。


勇者としての力も目覚め、ザカートは強くなった。魔王クルクスを倒す未来も実現できるほどに。

だが……ザカートには、その先の未来がなかった。いままでずっと。

魔王クルクスを倒して、その後、どうするのか……そのことは考えなかった。考えても仕方がなかった。魔王を倒すという目標を失ったら、ザカートにはもう何も残らないのだから。


でもアリデバランに戻って、妹ローザと再会できた。

故郷への想いも改めて実感し、自身がアリデバランの後継者であったことを思い出した。

ザカートは、未来を得たのだ。


「父上、母上……俺たちを見守っていてくれ。きっとやり遂げてみせるから」


二匹の蝶はふわりと飛び立ち、空へとその姿を消す。ザカートとローザは、蝶が消えた後も、じっとその方向を見つめていた。


今度はルークだけでなく、後ろで見ていた仲間たちももらい泣きしていた。

フェリシィは隠す様子もなかったが、カーラやフルーフは誤魔化していた。ライラも、こっそり鼻をすすって……見えたものに、涙も引っ込んだ。


「ザカート――おい、あれ……!」


ザカートとローザの二人だけで行うべき儀式に割り込むのは無粋だと分かっていたが、黙っていられなかった。

光る蝶たちが群れを成し、オーロラへ向かって飛んで行く。その影響で、暗い夜空も明るく照らされ、ライラはそれを見つけた。


よく考えてみると、アリデバランに入ってからまともに空を見たことなんかなかった。猛吹雪に、濃霧……ダイヤモンドダスト。視界は悪く、空が見えなかったから。

もしかしたら、これを隠すために空を見えないようにしていたのかも。


「東の空……あのあたり、空の風景が歪んでる。歪んだ隙間から、何か見えてる。あれは……」

「魔界じゃ」


セラスもライラの隣に並び、歪みの部分を凝視して言った。


「あそこから、魔界に繋がっておる。恐らくは、魔王クルクスの居城。あのような場所に出入り口を繋げておったのか……」

「ということは、あそこから魔王クルクスのもとへ行ける?」


カーラが興奮したように尋ねた。ライラも、カーラの興奮が共感できた。

ついに、敵のもとへたどり着くことができる。明確な道がはっきりと示された。ザカートですら、オーロラが消えてゆく様を見ることもなく、歪んだ隙間から見えるものを食い入るように見つめていた。


「……だが、どうやったものか。あの高さは動物では飛べぬ」


うむむ、とジャナフが考え込む。年長者のジャナフでも、あの空へと飛んで行くものが思いつかないようだ。


「飛ぶだけではダメじゃ。間違いなく、あそこには結界が張られているものと考えておくべきであろう。クルクスの力を振り払えるほどのものでなければ、突入することもできぬ――」

「僕に心当たりがあります」


セラスの説明に、フルーフが口を挟んだ。

一同の視線がフルーフに集まる。フルーフも、何かを考え込んでいるようだ。


「皆さん、一度グリモワールへ向かいましょう。そこに、あの歪みへと飛んで行くだけの手段があります――ローザさんとルークさんも、ザカートさんの戦いが終わるまではどこかで避難したほうがいいと思いますし。いますぐ魔王クルクスに戦いに挑むのは無理です。グリモワールでしっかり態勢を整えましょう」

「……そうだな。いくらなんでも、いまのアリデバランにローザを置いてはいけない。すまない、フルーフ。おまえには世話になりっぱなしだな」


頭を下げるザカートに向かって、お気になさらず、とフルーフは笑う。


アリデバランの人たちを弔い、ライラたちはついに、魔王クルクスへ至る道を見つけた。最後の決戦の前に、グリモワールへ。

――長く険しい勇者の旅も、終わりが見え始めていた。



勇者、故国へ帰る編はリラサイドがもう少しだけ続いて

グリモワール再訪編となります

その後、決戦オラクル編となり、ようやくこの連載も本編が終わります


と、完結予告をしたものの、残り六話でまとめるとか絶対無理なので

百話越えは決定しております

毎日更新できても今月中に完結できるかもちょっと……

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