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勇者の相棒、帰る ~召喚先は、あれから十年後の前世の世界~  作者: 星見だいふく
勇者、故国へ帰る編
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回顧録・騎士の目に映るもの


崩れ落ちてしまった城。崩壊した町。

昨日まで、ここには大陸最大の帝国が存在していたなんて、誰が信じるだろう。


「誰か……誰か、生きている者はいないか……!誰か……!」


見えるのはガレキばかり。生き物の気配すらなく、彼の声に答える者はいなかった。

……と思っていたのに、ガラ、とガレキが崩れる音がして。


力を振り絞り、重い足を引きずって歩いた。


ガレキの一部がもぞもぞと動き、泥まみれになったブルーパンサーが、積み重なった隙間から這い出てくるところだった。

あのブルーパンサーは、皇女ローザが可愛がっていた子だ。アスールという名前で……。


アスールはブルブルっと身体を震わせた後、自分が這い出てきた隙間に顔を突っ込む。

四本の脚を突っ張って、何かを引っ張り出そうとしている――アスールはまだ幼獣。人間より丈夫とはいえ、やはりこの崩壊で受けたダメージも大きく、必死な様子であった。


なんとか、ガレキから彼女を引きずり出す――アスールが引っ張り出したものは、アリデバランの皇女ローザであった。アスールにとっては、姉妹のように一緒に育ってきた主だ。


引っ張り出したローザの顔をアスールがペロペロと舐めれば、気を失ったままではあったが、皇女がわずかに顔をしかめた……。


「ローザ様……!」


彼女も無事だった。

アリデバランの騎士ルークは、彼女のもとへ急いだ。




「おい、どうした?」


ザカートとローザに寄り添っていたブルーパンサーが突然駆け出すのを見て、ライラは声をかけた。


軽快な足取りでブルーパンサーは駆けて行き、その先には城門前に立っていた門番がいた。

見上げるほどに大きな体格、人間にはあり得ぬ青紫の肌。頑丈そうな鎧はザカートたちとの戦いで欠けた部分もあるが、相変わらず大きな兜のせいで顔はほとんど見えない。


ライラたちはすぐに臨戦態勢を取ったが、門番は無防備に立ち尽くしたまま。そんな門番に、ブルーパンサーは無邪気にすり寄っている。


「あれは……?」


ザカートの腕の中で、異変に気付いたローザが門番を見る。彼女は巨体の門番を不思議そうに見ていたが、ザカートは大男をじっと見つめ、立ち上がって彼に近づいた。


「ザカート――」

「大丈夫だ。こいつはもう、俺たちを攻撃してこない」


ライラはザカートを止めようとしたが、逆にザカートに止められてしまった。


攻撃する意思がないことは、ライラにも何となくわかっていた。

門番に、魔に取り込まれたローザと連戦して、ライラたちもかなり消耗しているが、この門番も疲弊しているはず。たぶん、全員で戦えば負けないだろうし……ザカートには、確信があるようだ。


ライラも、黙って成り行きを見守ることにした。


「……ルーク」


ザカートがそう呼び掛けると、門番は膝をつき、ザカートへの敬意を示した。


ザカートの知り合い。

驚きと共に、そうか、と妙に納得した気持ちになった。

妹のローザが魔王クルクスによって魔性と化していたように、門番もまた、魔王によって魔人へと姿を変えられてしまっているのかもしれない、という可能性を考えるべきだった。

ローザと違って、この魔人は自我を保っているようだが。


ザカートは手を伸ばし、両手でしっかりと門番の兜を外す。兜の下は、人間に近い顔……片目が潰れていた。


「あなた様がお戻りになる日を、この七年間、ずっとお待ちしておりました。必ずや、勇者となった殿下……いえ、陛下が、ローザ様をお救いくださると信じて……」




ローザのもとへ駆け寄ろうとしたルークを、不思議な力が跳ね飛ばす。

何が起きたのかも分からず横たわるルークの眼前でローザの身体が浮き、見知らぬ男が姿を現した。


「勇者の妹か……生き残っているとはな。これも、勇者の血が成したわざか?」


こいつが。

ルークは本能的にそう察した。


こいつが、勇者ザカートが倒すべき魔王。アリデバランを襲い、罪なきアリデバランの民を虐殺した……。


「……せっかく生き残ったのだ。我のために、その命を使わせてやろう」


これほどの悲劇を起こしておきながら、魔王はまだ、ザカートを苦しめるつもりだ。

魔王はもはや虫の息であるルークには一切の関心を払わず、ローザを連れ去ろうとしていた。ルークは立ち上がり、無警戒の魔王に飛び掛かった。

一矢報いることもできずに、魔王の反撃に沈むだけだった。


……と、魔王も思ったに違いない。再び吹き飛ばされたルークは、今度は倒れず、踏み留まって体勢を直し、すぐにもう一度飛び掛かる。

結局それも、魔王のさらなる反撃で指一つ触れることもなく倒れ込む結果になってしまったが。


今度こそルークが沈んだことを確認し、魔王は改めて立ち去ろうとした。

立ち止まり、自分の足に必死にすがりつくルークを見下ろす。呆れるほどしぶとい……。




そして自分は命を落とした――守るべき主も守れず、憎い敵にかすり傷を負わせることすらできず。

そう思っていたのだが、ルークは目を覚ました。こちらを心配そうに覗き込むアスールと、目が合う。


「アスール……?ローザ様は……私は――なんだ、これは……!?」


自身の異変には、目が覚めてすぐに気づいた。

なにせ肌の色が明らかに異常だし、人並外れた体格になったことで体幹も変わってしまい、いままで通りに起き上がろうとしたらグラついてしまった。


魔王め、いったい何を――という思いは後回しにし、ルークは走り出したアスールを追った。

荒れ果てたアリデバラン跡地。相変わらず他の生き物の気配はなく。


……ただ、城のあった場所に、少女が一人立っていた。




「ローザ様は私と同じく、魔へと姿を変えておりました。私と違ったのは、ローザ様は己の人格を失っていたこと……魔王がローザ様に強力に洗脳したのか、私には適当に力を注いだだけだったから人格を失わなかっただけなのか……それは分かりません。ローザ様は魔王クルクスの手先となり、ザカート様と殺し合う使命を与えられておりました」


しかしザカートとローザが戦う前に、問題はいくつも起きた。

魔王に落とされた国。魔の巣窟となったアリデバラン。その噂を聞き付け、魔王を倒そうと城へやって来る人間たちが。


魔王クルクスに与えられた力でローザは人並外れて強くなってはいたが、もとは剣など振るったこともない少女だし……何より、ローザに人殺しをさせたくはなかった。

だから、ルークがすべて引き受けた。


「ローザ様を討とうとやって来た者たちは、私がすべて討ち払ってきました。逃げる者は追いませんでしたが、戦いの末に命を落とした者は数知れず。私は……己のために、討たれる理由なき者たちを手にかけて参りました――ザカート様。どうぞ、私にトドメを」


ルークが深く頭を下げる。


功名心に逸って挑んできた者もいただろうが、中には、魔王への恨みや義憤から戦いに来た者もいただろう。ルークに殺されなくてはならないほどの理由があったかと言われれば……やはり、自分勝手な理由だったと言わざるを得ないだろう。


ルークはすべての罪を認め、罰を受ける覚悟だ。


「そんな……そんなの、あなたが悪いわけじゃないわ。私を守ろうとして……。そうよね、お兄様。ルークが罰を受けるべきだというのなら、私も罰されるべきだわ!」


事情を知ったローザは青ざめ、ルークをかばい、兄に懇願した。


「ありがとうございます、ローザ様。でも良いのです。ザカート様は見事ローザ様を救い、真の勇者となりました。勇者となったザカート様に討たれるのならば、むしろ本望」


ルークはローザを止めた。


「……私は。もし、あなた様にローザ様をお救いする力がないと分かった場合、私自身の手ですべてを終わらせるつもりでした。あなた様を殺し、ローザ様も……そして自分も……」


城門での戦いは、ザカートへの忖度なしの、本気の戦いであった。ルークはそう説明した。

あの戦いに手加減があったとはライラも思わない。


攻撃のほとんどがザカートに集中していたが、まぎれもなく、すべての攻撃に本気の殺意が込められていた。


「お兄様……お願い、ルークを殺さないで……!勇者のお兄様なら、ルークを助けることだってできるわよね……?」


ローザの懇願も、痛いほど分かる。

両親を失い、アリデバランの民を失い、たくさんのものを失った。せめて生き残った人を、これ以上失いたくない。


ライラたちは、ザカートに判断を委ねることにした。

アリデバランのことだから、やっぱりザカートが決めるべきことだと思うし……ザカートがどうするか、答えはもう出ている気がした。だから自分たちがやるべきことは、ザカートの決定を見届けてあげること。


「ルーク。たしかにおまえは、罪を犯した。ローザを守るためだったとはいえ、罪なき人々を殺めた。その事実は変わらない」


ザカートが言い、ルークは沈黙して、主の言葉を聞いている。


「おまえは罰を受けるべき人間だ――でも俺は、そんなおまえに、生きていてほしいと想っている」


ルークは顔を上げてザカートを見、ザカートは困ったように笑っていた。


「生きて、一緒に償っていこう。何をどうすれば償いになるかも分からないけれど……一生かけて、俺も探していくから」


しばらく呆然とザカートを見つめた後、ルークはもう一度頭を下げた。ザカートは手を伸ばし、ルークの肩にぽんと触れる。


ぽたりと、ルークの瞳から涙が落ちた。

魔と化してしまった彼の顔は、ほとんど表情が変わらなくなってしまったけれど、涙はとめどなく溢れ。


ザカートの手の痣が光り、周囲を照らす。やがて光がルークの身体を包んで……光が消えた時、そこには、人間の姿に戻ったルークが跪いていた。


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