表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者の相棒、帰る ~召喚先は、あれから十年後の前世の世界~  作者: 星見だいふく
勇者、故国へ帰る編
88/131

回顧録・永久凍土の国で


勇者ザカートが生まれ育った国アリデバラン。

北の覇者とも呼ばれた大帝国――魔王クルクスによって滅ぼされ、いまは魔物の住みかとなってしまった跡地。


国土のほとんどが雪で覆われ、冬将軍が君臨する国。

寒いことは知っていた。南方育ちのライラにとっては、雪も凍えるような寒さも新鮮な経験だ。

初めて味わう北国の冬は、想像以上にヘビーだ。


「吹雪ってすごいんだな。この猛吹雪を完全に防ぐ結界もびっくりだけど」


カーラたちが張った結界の中で、今夜は野宿。

フェリシィとセラスは簡易テントの中、ジャナフ、カーラ、フルーフは適当に横になって、吹雪も寒さも防ぐ結界の中で眠っている。

今夜は、ザカートとライラが寝ずの番だった。


「北国のアリデバランでも、この気象は異常だ。吹雪くこともあったが、いまの時期ではないし、ここまで酷いものも珍しい……」


ザカートが言い、そっか、とライラも相槌を打つ。

七年ぶりの祖国に戻り、ザカートは出会ったばかりの頃のようにあまりしゃべらなくなってしまった。ライラたちを拒絶しているわけではなく、懐かしい祖国の土を踏みしめるたび、様々な思い出や想いに浸っているのだろう。


ザカートを急かすことなく、一同はアリデバランの国都ウラガーンを目指していた。


「そいつ、すっかりおまえに懐いちまったな」


ザカートの膝を枕に寛いでいる白い豹を指して、ライラが笑う。ザカートも同意するように笑った。


「オレが触ったら、やっぱ噛みついてくるかな?」

「いや。こいつは魔獣だ――ブルーパンサーという種族で、昔からアリデバランに住んでいる。人懐っこくて穏やかな気性をしているから、アリデバランの人たちから愛されていたぐらいだ」


ザカートに促され、ライラは恐るおそる白い豹の頭を撫でる。細く長い尻尾をぱさりと一振りしつつも、ブルーパンサーは友好的な態度でライラを見上げていた。


「白い毛並みに、青いたてがみが特徴的な魔獣で、アリデバランの昔話なんかにもよく登場する。有名なところだと……ブルーパンサーの恩返し、だろうか」


昔々、ある小さな村でのこと。

その村に住む男は、最近、自分の畑から作物を盗んでいくブルーパンサーに困っていた。相手は魔獣……盗んだ作物を巣に持ち帰り、そこで眠ったところを退治してしまおう――そう決めた男は、ブルーパンサーのあとをこっそり追いかけた。


作物を盗んで行ったブルーパンサーが向かったのは、別のブルーパンサーが待つねぐら。作物を盗んだものより一回り小さく、腹が大きい。

盗んだ作物は一匹分。盗んだものは相手に与え、自分は食べようとしない。

……身重の番のために、盗みを続けていたのか。


男は村に戻り、畑の片隅に二匹分の作物を置くことにした。

ブルーパンサーが男の意図を理解できたのかどうかは分からないが、以降、盗まれる作物は男が用意したものだけで、他の作物が盗まれることはなくなった。やがて、盗まれることもなくなって。


無事に仔が生まれて、家族で人里を離れたのだろうか。そんなことをぼんやりと考えたこともあったが、男はブルーパンサーのことを忘れ、月日が過ぎていった。


男も結婚し、子どもに恵まれた。好奇心旺盛でやんちゃな息子に手を焼きつつ、可愛がり……ある日、幼い息子が一人で遊びに出かけて行ったまま、帰ってこなかったことがあった。

雪がちらつく、寒い季節のことであった。


村中総出で探したが、息子はなかなか見つからず。

誰もが絶望し、諦めかけていた時。男の前に、一匹のブルーパンサーが現れた。


ブルーパンサーは男に何かを伝えたいようなそぶりを見せ、何度も振り返って、男をどこかへと案内していく。

男はブルーパンサーを追った。


追って行った先には、別のブルーパンサーが。そのブルーパンサーに抱きついて、幼い息子が眠っている。小さなブルーパンサーも何匹かいて、幼な子に木の実や不格好な果物をせっせと運んでいた……。


「その時に助かった息子が、初代アリデバランの皇帝と言われている――どこまで事実なのかは分からないが」

「良い話じゃん。オレ、そういうおとぎ話は信じるタイプだぜ」


ザカートが語ってくれたおとぎ話を聞き、ライラが言った。


「アリデバランでも、このおとぎ話を真実だと信じている人間は多い。俺も妹も、この物語が大好きだったよ。妹なんかは特に……親に死なれてしまったブルーパンサーを保護して、家族同然に愛情を注いでいた」


ザカートの妹。

以前にも、ちらりと口にしたことはあった。まだ気軽に家族のことを口にできないザカートは、すぐに黙り込んでしまったけれど。

いまは、家族のことを話したがっているように見えた。


「妹は、やっぱおまえに似てる?」

「いや……兄妹だからもちろん似てはいるが、俺は父親似、妹は母親似だったから。母親譲りのシルバーブロンドで……大きくなったら、きっと母にも劣らぬ美人になるだろうと、誰もがそう褒め称えていた……」


そこまで話すと、ザカートは黙り込んでしまった。やっぱり、家族のことを思い出すのは辛いらしい。


「妹は……まだ五歳だった……」


ぎり、という音が聞こえてきそうなほど、ザカートが自分の拳を強く握りしめる。ライラは、ザカートの肩をぽんと叩いた。

ザカートは顔を上げ、ライラを見た。


「逃げるようにアリデバランを飛び出して……家族の供養すらできていない」

「なら、国都に着いたらみんなで探して、弔ってやろうぜ。どんなに時間がかかっても、オレたち手伝うよ」


ライラが言えば、ザカートはかすかに笑って頷く。

プレジールの女神のお告げに従って帰ってきた、ザカートの故郷。ここで、ザカートにとって必要なことが起きる……らしい。


もしかして、家族を弔ってあげることだろうか――あり得るかもしれない。

ライラはふと、そんなことを思った。


魔王との戦い。どんな結果になろうとも、ザカートにとっては運命の終着点だ。

その前に、家族の死と向き合って心の整理をつけろと……女神が伝えたかったことは、これかもしれない。


猛吹雪に覆われたアリデバラン同様、ザカートが進む道は、まだ先が見えなかった。




「……それにしても、本当に酷い吹雪だな」


正面から吹き付ける強風と雪。文字通り、身を切り裂くような痛みが伴う。

頑丈なジャナフとライラが風よけとなって進んでいるが、一歩踏み出すだけでもかなりの体力を消耗してしまう。

おまけに、視界は最悪。視力に自信があるライラですら、ホワイトアウトで十メートル先も見えない。


後ろからついて来るフェリシィたちは、先頭とはぐれてしまわないよう、ライラたちのマントをしっかり握り締めていた。

それでも、やはりフェリシィたちのほうが疲労しやすい。規格外の体力と回復力を持つジャナフとライラでもきついのだから当然だ。


だが、ザカートはライラ、ジャナフよりも先を進んでいた。

自分たちを風よけにして、後方に下がれと勧めたが、ザカートは首を横に振るばかり。帰ってきた故郷――逸る気持ちのほうが強いようだ。


「あっ――おい、待てよ!」


不意に駆け出したブルーパンサーに向かって、ライラは呼びかけた。


アリデバランに到着した際、ライラたちは一匹のブルーパンサーに出会った。

白い毛並みに、薄青のたてがみを持つ大きな豹。咄嗟に身構えたが、ブルーパンサーはライラたちと争う様子を見せず、背を向け、まるでどこかへ導くように歩き始めた。


果たしてそれは導きなのか、誘いなのか……訝しむ者もいたが、ライラたちはその獣についていくことにした。

なにせ帝国内は酷い吹雪でろくに前も見えず、どこへ進めばいいのかも分からない状態だったから。

例え罠であっても、むやみに動くよりはそれに乗っかったほうがいいだろうと……。


「あれは……門か?」


ブルーパンサーを追いかけ、見えてきたものを前にジャナフが言った。


「城門……というか、城門だったもの、だろう。ほとんど崩れ落ちているが……禍々しい気を感じる」


ジャナフのマントをつかんで飛ばされないよう踏ん張りながら、カーラが言った。


「周囲の城壁……一見すると、外敵の侵入を防ぐ役割を果たせそうにもないように見えるが、強い魔力を感じる。乗り越えることは不可能じゃろう……」


ライラの腕にしがみつきながら、セラスが言った。

フェリシィとセラスは、ライラがつかんで支えているようなものだった。二人とも、自力で立っていることもできない――ライラが手を放してしまったら、たちまち吹っ飛んでしまうだろう。


「門のところに、誰かいます……とても強く、暗い魔力を持った、誰かが……」


敵の気配を察し、フェリシィが言った。

門番ですか、とフルーフが答える。


「城門ということは、ここがアリデバランの国都……門番が守っているぐらいなのですから、きっと、何か重要な手掛かりがあるはず……」


全員で城門の残骸に近づくと、残骸の影が、むくりと大きくなった。

――城門の前で待機していた門番が、ライラたちが近付くのを見て立ち上がったのだ。見上げるほどに大きく、肌は人間にはありえぬ青紫。鎧を着こみ、大きな兜は顔の半分を隠していた。


「この門を越えたくば、私を倒していくがよい」


低く、ひどくしゃがれた声で、門番が言った。


「……ただし。いまだこの門をくぐれた者はいない。この門に挑んだ者は皆、あそこにいる」


太い指で、門番が彼方を指す――真っ白な視界に、うっすらと……墓標の影のようなものが…。


「命が惜しくば立ちされ。我が使命は、この門を死守すること――命を賭ける覚悟のない者を、追う意思はない」


門番の言葉に、ザカートは剣を抜いた。迷いもためらいもない動きだった。


「命を賭ける覚悟か……いまさらすぎる台詞だな」


七年前の悪夢から、ザカートは否応なしに命を賭けるしかなかった。

覚悟を決めろとか、そんな言葉。ザカートにとっては、もう意味のないものだ。



だいぶ終盤には入ってます。

でも百話以内には終わらない、ということはほぼ確定しました

\(^o^)/


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ