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因縁の女騎士


プレジールの警備隊長を人質に、リラたちは王国の中心へと向かって飛び続けた。


なんとか隊長を取り返せないかと距離を取って警備兵たちは追ってくるが、竜の皮膚は頑丈で、弓や魔法もさほど効果がないし、あまりにも強力なものだと隊長を巻き込んでしまう――よりにもよって、決定を下せる人間が捕まっているというのは、考えうる限り最悪の展開である。


私に構わず撃ち落とせ!と隊長は時々叫んでいるが……。


「そう言ってやるなよ。あんたの命令に従っただけだとしても、あんたが死ねば責任を取らされるんだぜ?そういうのを引き受けるのが上の人間の役目でもあってな……下っ端には荷が重すぎるって」

「ぐぬぬ」


冷静に論破され、警備隊長は悔しそうに唸る。

だがリラも、これで問題が片付いたとは思っていなかった。警備隊長を人質に強行突破していることは、必ず報告される。警備隊なんて、プレジール軍全体で見ればごく一部でしかないのだ。


「さあて。本命のお客さんがおいでなすったぜ」


空に新たな一団が現れ、リラたちに向かってくる――天馬の迫力も数も、騎手の装備も丸きり違う。

竜の王の動揺を、リラも背中で感じ取っていた。


「もうちょっと小出しにしてくると思ったが、いきなり聖女付きの親衛隊が出迎えてくるとはな」


向こうも、リラのやり方はもう熟知しているはず。リラにあっさり天馬を奪い取られるような真似はしないだろう。

あれを人質に取るのは、至難の業だろうし……。


「聖女様の親衛隊隊長は、神槍のゲイル――我々の時のように、簡単に行くとは思わぬことだ!」


後ろ手にカーディガンで縛られたまま、警備隊長は勝ち誇ったように言う。

リラは生温かい目を向けた。


「おっちゃん……そう卑屈になるなよ。何も、自分をザコ認定しなくても」

「やかましい!」


図星を突かれ、警備隊長は逆切れしまくっていた。


「上手く隙を突くしかないだろうな――王様、覚悟を決めろよ。肉の盾があるとは言え、かなりの荒事になるぞ」

『……さらっと言ってますが、何気にひどい……』

「仕方ないだろ。こいつらを突破できれば、今度こそフェリシィのところにたどり着ける……正念場なんだ。こっちがめちゃめちゃ不利なのに、手段を選んでられるかよ」


人質を取って、そいつの命を盾にするなんてやり方、リラだって好きなわけじゃない。

絶対に退くわけにはいかないから、確実に勝つ方法を選んでいるだけだ。竜たちが、悲壮な決意でリラたちを送り出したことぐらい、ちゃんと分かっている。


聖女の親衛隊の一団は、その並びを乱すことなくリラに向かって飛ぶ。槍を持った女隊長が先頭だ――彼女が相手では、奇襲をかけて天馬を奪い取るとか絶対無理だろうな……。


「そこの娘!」


親衛隊の女隊長は、リラを真っ直ぐに見据え、凛とした声で言った。


「地上に降り、私と勝負しろ!万一にも私に勝てたら、おまえが国都へ向かうのを見逃してやってもよいぞ!」


ぽかんとしてしまったのは、リラだけではないだろう。縛られたままの警備隊長も、何言ってんのこの人、と言いたげな表情で親衛隊の女隊長を見ている。

リラにとってはすごくありがたい申し出だが、はっきり言って、正気の沙汰ではない。


「どうした?怖気づいたか!?」

「いや……オレ的には願ってもない状況なんだけど……いいの?」


親衛隊を相手に戦いながら国都まで逃げ回るより、ずっと楽な展開ではある。

……でも、一対一の勝負とか、向こうにはまったく意味のない戦いのはずなのに。


神槍のゲイルと異名を持つ女隊長は不敵に笑い、すーっと天馬を地上へ向かわせる。他の騎士たちも、女隊長に従い……まるでリラを案内するように、統率の執れた動きで地上へ向かった。


『……彼女との面識は?』


竜の王が尋ねる。


「前世じゃ顔見知り程度だな。プレジール自体、一回ぐらいしか行ったことのない国だからな……」


旅の途中、旅の経過報告をしたいフェリシィのために立ち寄った。

ゲイルと言えば、そんなフェリシィの幼なじみで、彼女のために親衛隊に入り、槍の腕を磨いていたそうだ。

フェリシィの旅にも護衛としてついて行きたかったが、当時は駆け出しの女騎士。自分の意見を訴えられる立場になく。


苦渋の思いでフェリシィを見送ったら、ライラみたいな得体の知れない女が仲間として彼女に同行している――そりゃもう、盛大に睨まれたものだ。思い出すと懐かしい。


「そう言えば、あの時も勝負を挑まれたな。負けたらフェリシィの仲間止めろみたいなこと言われて」

『おお……ということは、彼女にとってライラ様は、ライバルということですね』

「ライバルかぁ。そんな上等なものに、オレを認定してくれていたかどうか」


地上では、親衛隊の騎士たちが大きな円を描くように並び、その中心で女隊長ゲイルが待ち構えていた。

背の高い女性だが、持っている槍は彼女の身長より長い。

……前世ではライラのほうが背が高かったのに、いまは負けている。ちっ。


「本当にいいんだな?」


地面の上で戦うのなら、親衛隊相手でも負ける気はしない。勝負の行方がどうなろうと……彼女が言い出した条件が守られようが破られようが、空で戦うよりずっとリラに有利だ。


「私の身を案じる必要はない――いざ、参る!」


いちいち掛け声をかけてリラに攻撃を知らせるとか、バカ正直というか。前世で勝負した時も、そういうやつだったな……。


槍で鋭く突き、避けるリラに、薙ぎ払いで追撃する――だが踏み込みすぎることなく、ゲイルも素早く下がって、リラの蹴りを回避していた。

前世の時にも感じていたのだが、この手の武器はすごくヤりづらい。槍だけに。


なんて、誰にもつっこんでもらえないことを内心で考えながら、リラは、ゲイルは自分の正体に気付いているのではないかな、とも考えていた。


リラ戦闘スタイルを、よく把握しているような動きなのだ。


足技を主とするリラにとって、槍のようなリーチの長い武器は相性が悪い。理由はシンプルで、単純にリーチの差。

魔法や飛び道具のような遠距離攻撃ならば、持ち前の反射神経と動体視力、勘の良さで回避して一気に間を詰め、片付けてしまうのだが……。

リーチ差のある武器は、間を詰めるのも一苦労だ。そしてゲイルは、リラが間を詰めるのを許さない。


単なる偶然か、確信を持って戦っているのか――それを確かめるためにもリラは跳び、彼女の頭上に踵を落とす。

――前の勝負は、これが決め手となった。


当時のゲイルは頭上からの攻撃を槍で防いだが、ライラの脚力に敵わず、防御の上から押し切られ、脳天に攻撃を食らって敗北した。

ライラの攻撃は、生半可な防御では防ぎきれないのだ。下手をすれば、防御に用いた武器ごと破壊され、攻撃を食らう羽目に……。


やはりそうだ。

ゲイルが自分の踵落としを、槍で防ぐのではなく、受け流したのを見てリラは確信した。

……生憎、リラも勝負で負けるのは嫌いだ。絶対に勝つ。


受け流しても、強烈な蹴りの影響は残る。ゲイルも、強烈な一撃による腕のしびれに一瞬動作が遅れてしまった。

一気に間合いを詰めて蹴りを食らわせ……ゲイルは、今度はそれを槍で防いでしまった。


生半可な防御は命取り。避けるか、受け流すか――それを肝に銘じて戦っていたゲイルが、自分のミスに焦るのが見えた。でも、もう遅い。

防御した槍ごと、ゲイルは数メートル先まで吹っ飛ばされた。勝負を見守っていた騎士たちが動揺し、彼女を助けようと駆け付けるが……いらん、とゲイルが怒ったような口調で言った。


「貴様……この期に及んで手加減したな。どこまでも憎たらしい女だ」


よろよろと立ち上がりながら、ゲイルはリラを睨む。


「そりゃ、フェリシィの友達を殺すわけにはいかないだろ」

「フン。私がおまえのことを分かった上で、それを利用して戦っていることにも気付いていたクセに。情けをかけるとはな」

「真剣勝負なんだ。利用できるものはなんだって利用して勝ちに行くのが当然だろ。負けられない理由を背負ってるなら、なおさらな」


しばらくゲイルはリラを睨んでいたが、ふっと笑った。

姿勢を正し、改めて向き合う。


「お久しぶりです、ライラ様。我が主フェリシィ様より命を受け、貴女をお迎えに参りました。どうぞ国都ウェルフェアへ――フェリシィ様が、そこで貴女を待っております」


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