表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者の相棒、帰る ~召喚先は、あれから十年後の前世の世界~  作者: 星見だいふく
帰る、勇者のもと編
49/131

帰ってきた相棒


リラが右側の腕を引き受けてくれたおかげで、ザカートにもずいぶん余裕ができた。


やはり五振り目はかなり重いが……二人同時の相手で、向こうも連撃が乱れている。これなら、ザカートでも、自分でもう一本なんとか……。


「いいねぇ……完璧なコンビネーションじゃねえか!スリルがあるぜ!」


不意打ちも、二対一のハンデも、男は愉快そうに笑い飛ばす。


実際、それでも相手の男のほうがやや優勢気味なのは変わらない。

二本の剣をしのぐリラは互角以上に戦えているが、ザカートはまだ押されている。もう一本減らせれば、ザカートも互角以上に戦えるのに……。


「ちっ……やっぱ、さっきみたいに不意打ちでもしないときついか」


リラが呟く。

リラも、互角以上に戦えていても、ザカートを手助けできるほどの余裕はない。不意打ちで一本、剣を折ることができたのは運が良かった。

あの男が言ったとおり、武器は大したものではないから、しっかり狙うことさえできれば……男の猛攻が、それを許してくれない。


「ザカート――ためらうなよ!」


リラにそう言われ、何を、とザカートは目を瞬かせる。すぐに言葉の意味は分かった。


五振り目の剣が振り下ろされる瞬間、リラが強引に自分と男の間に割って入ってきて、自らの身体でその剣を――。


「ライラ――!」


悲鳴にも似た叫び声は、短かった。


胸に食い込む男の剣を両腕でしっかり押さえ込み、険しい表情でリラが睨んでくる。

……分かっている。自分にはいま、やるべきことがある――リラが作ってくれたチャンスを、逃すわけにはいかない。


「やってくれるねぇ!なかなかクールじゃねえか!」


リラが押さえ込んだ剣をザカートが叩き折ると、男は快哉する。

自分の劣勢を喜ぶとは……。


剣が二本になってしまえば、ザカートでも攻撃を仕掛けることができた。剣が四振りになってしまって、男の連撃もすっかり乱れてしまっている。

リラは負傷したまま、なんてことない顔で戦っているが……早く勝負を決めてしまわないと。


「おお、大ピンチだな!さすが勇者!」


続けてもう一本。

ザカートに剣を折られて完全に連撃が乱れ、その隙を突いたリラも右側の剣を一本。


さすがに、残り二本となってしまえばザカートとリラの優位は揺るがない。男もそれを察し、最後の攻撃を仕掛けてきた――残った二本、連撃ではなく、力を溜めて同時に振り下ろす。


男が狙ったのは、リラのほうだった。

彼女が負ける……とは思わなかったが、ほとんど反射的に二人の間に割って入り、ザカートがその剣を受けた。


手の痣が光り、薙ぎ払った自身の剣が、男の剣を二本まとめて叩き折る。男が、大笑いした。


「女にかばわれるしかできねーのかと思ったが、ちゃんと強いじゃねえか!いやあ、俺の完敗だ!」


高笑いしそうな勢いで笑いながら、男が大きく後ろに飛び退く。六本あった手は、二本に減っていた。


「自前の武器もなしに挑むのは無謀だったか――勇者を舐め過ぎたな!次はちゃんと用意してくるからよぉ。リベンジ受けてくれよな!」


大柄な体格に反して身軽に跳び回って後退していく……最後に、俺の名前はティグリスだ、と遅すぎる自己紹介だけして、あっという間に男の姿は見えなくなってしまった……。


「あいつ、何しに来たんだ……?」


去って行く男を見送った後、リラが呆れたように呟く。

――と同時に、ようやく花の焼却を終えたセラスが姿を現し、リラに火の玉をお見舞いしていた。


「ちょっ……!待て!オレ、ちゃんと元に戻ってるって!やめろ、セラス!」


火の玉は小さめだが、当たるとちょっと痛そうだ。必死に避けるリラに、怒りの形相でセラスは連発していた。


「このアホ娘!みなのトラウマを抉りおって!」

「みんなのトラウマって――仕方ねーじゃん!さっさとケリ着けないと、ザカートのほうがスタミナで不利だったし!」


逃げ回ったリラは、父親の後ろに隠れた。

助けろ、と父に訴えたが、ジャナフは娘の頭に拳骨を食らわせていた。


「いってー!なんでだよ!?」

「姉者が悪い」


長いため息をつき、カーラが言った。


「ライラさん……おかげさまで、寿命が縮みましたよ。あの時の再現をするなんて、酷すぎます」


いつも愛想よく笑っているフルーフにしては珍しく、ジト目で睨んでいる。そんな態度を取られるのは初めてで、さすがのリラもたじろいだ。


「ライラ様!すぐに手当てを……!」


フェリシィが大泣きしながらすがりつき、リラはおろおろと慌てていた。

セラスの攻撃より、ジャナフの拳骨より、フェリシィの涙がリラにはよく効く。


「平気だって!ただのありきたりな剣だぜ?致命傷はちゃんと避けたし、この町、まだ魔力が満ちてるから、いつも以上にオレの回復も早いし――いいから!治癒術使うなら、ザカートにやってやれって。あいつ、結構ヘトヘトだからさ……」


剣を収め、ザカートはリラたちのやり取りを眺めていた。


姿は変わってしまったが、中身は何も変わっていない。

……本当に、彼女は戻ってきてくれた。また、会うことができた……。


「ザカート……」


自分を見て、リラが目を丸くする。

話したいことはたくさんあったはずなのに、息苦しいぐらいに言葉が詰まって。堪えようのないものが、溢れ出てきてしまった。


「おまえ……ほんと、すっかり泣き虫になっちまったな……」


苦笑いで近付き、背伸びをしたリラがザカートの頭をぽんぽんと撫でる。

ほとんど衝動的に、ザカートはリラを抱きしめた。


「……ごめん。助けられなくて……俺はいつも、しくじってばかりだ……」

「何言ってるんだよ」


ザカートの腕の中で、リラが笑いながら言った。


「いつだって助けてくれてるじゃん。今回も、オレのこと、ちゃんと助けてくれただろ?」


帰ってきてくれた相棒を抱きしめ、しばらくの間、ザカートはひたすら泣きじゃくった。

――彼女と会ってから、自分は本当に泣き虫になってしまったように思う。




オラクル王国の国都――リラがザカートと再会した頃。

大和は、セイブル王子と対面していた。


「勇者ヤマト……あなたの働きは実に素晴らしい。ただ者ではないと思ってはおりましたが、あなたの強さを改めて思い知らされた」


称賛する王子を、大和は不信に満ちた目で睨んでいた。


自分でもはっきりとした理由は分からないのだが、この男のことは、最初から信じる気になれなかった。

なぜか、一緒に召喚されたクラスメートのほとんどは、王子をあっさり信じていたが。


大和は……とにかく、この男が気に入らない。生理的に合わない、というやつだろうか。

初対面で、ここまで嫌悪した相手は初めてだ。


「あなたが私のことを嫌っているのは分かっている。だが、私はあなたを尊敬しているーあなたの力は本物だ」

「そいつはどうも。俺の働きに感心してくれるなら、少しぐらいは俺の要望を聞いてくれてもいいんじゃないか?」

「――戦意を失ったお仲間を、元の世界に戻してほしい……でしたね」


返事はしなかったが、大和は無言の意を示した。


最初こそ、不思議な力を得て、選ばれた戦士としてはりきって戦いに行っていたクラスメートたちも、戦っていくうちに嫌気がさす者が現れ……力の差を思い知り、戦うことを恐れる者も現れた。

死の恐怖に直面し、戦いたくないと言い出す者。取り返しのつかない負傷をしてしまい、戦えなくなってしまった者……。


そうした者は、城の客室で待機することになり――ほとんど、軟禁状態だ。まるで罪人のように部屋に押し込まれ、自由を失ってしまっている。


乗り気ではなかった大和が魔竜退治を引き受けたのは、それが理由だった。

魔竜をすべて倒せば元の世界に戻れると言うから、戦えなくなってしまったクラスメートたちのためにも、自分が戦うことにした。

……相変わらず、嬉々として魔竜狩りをしているクラスメートもいるが。


「あなたの力があれば、その望みも間もなく叶うことでしょう。もちろん私も、あなたを助けたい」


そう言って、セイブル王子が剣を差し出す。

いままで不機嫌丸出しに王子に接していた大和も、差し出された剣に激しく心揺さぶられ、王子への嫌悪感も一瞬忘れてしまった。


「我が王家に伝わる、秘蔵の剣。この剣の持ち主に相応しい人物が現れたと、私はそう確信しております。どうぞこれをお持ちになり、魔竜を滅ぼしてください」


気が付いた時には、大和は差し出された剣を受け取っていた。

――だが。


大和は、憂鬱でならなかった。

セイブル王子が気に食わない、信頼できないというのもあるがそれ以上に。


魔竜を倒すことが、嫌でたまらなかった。なぜかは分からないのだが、自分は大きな過ちを犯しているような気がしてならなくて。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ