クライマックスは突然に
目を覚まさないリラのことも心配だが、まずは自分がやるべきことを……と思い、ザカートは立ち上がる。
「俺も、花の浄化を手伝ってくる。他のみんなは休んでいてくれ。残った花ぐらいなら、俺とセラスだけでも……」
ジャナフはリラの暴走でかなり消耗しているし、フェリシィたちは瘴気の残る町からは出たほうがいい。そう思い、自分とセラスで残りの花を浄化してしまおうとザカートは立ち上がりかけた。
――強大な魔力の気配を感じ、振り返って、急いで気配のもとをたどる。
魔力の格だけなら、さっきの男と変わらない。あれレベルがもう一度来襲してくるとか、オラクル王国には強い魔族が集まり過ぎじゃないか。
「おー、いたいた。おまえが勇者か――思ってたよりはチビだが、なかなかイイ男だ」
頭上から声が聞こえてくる。民家の屋根の上……複数の剣を背負った男が、こちらを見ている。
どうやら、屋根伝いに移動してザカートを探していたらしい。
チビ……一応、パーティーではジャナフ、ライラに次いで背が高かったのだが。
相手の男だって、ジャナフよりちょっと低いぐらいなのに。
「ふんふん……勇者ってだけあって、強さもなかなかのモンっぽいな。悪くねえ」
ザカートの前に飛び降りてきて、男が呟く。ザカートはまったく気乗りしないのだが、相手の男はなぜか戦う気マンマンだ。
鍛えられた身体に、顔や身体に負った傷――見た目は、ザカートより若いぐらい。生憎と、魔族は見た目と実年齢が一致しないことのほうが多い。
片手で一本ずつ剣を抜き、相手が武器を構える。双剣使いらしい。
ザカートも剣を抜いて構え、無駄だとは思うが、相手に向かって言った。
「俺たちが戦う理由はないと思うのだが……」
「おいおい、そうつれないこと言うなよ!勇者のあんたと戦ってみたくて、わざわざ駆け付けたんだぜ?まあ、実はネメシスが魔王になったって聞いて、あいつぶっ倒せば俺が魔王になれるんじゃねーかと思ってたんだけどさ。あいつのいる町には入れねーっぽいし、あんたとやり合うほうが楽しそうだからこっちに来たんだよ」
ネメシス、という名前をザカートが呟けば、男は屈託なく笑う。
「やっぱあんたも気になるよな?俺と同じぐらいの新参者のはずなのに、あいつが魔王に選ばれるなんてな。悔しいぜ、まったく。てか、魔王ってどうやったら選ばれるんだ?実力なら俺だって負けてねえのによ。なあ?」
まるで昔からの友人にでも話しかけるような気軽さで男は話し続けているが……世間話で満足して帰って欲しい。
だが男は、不敵に笑った。
「だからよぉ……勇者として名高いあんたを倒せば、もしかしたら俺も魔王になれるんじゃないかと思ってさ。魔王っつったら勇者が付きものだ」
結局そうなるのか。ザカートはため息をつく。
リラはジャナフとカーラが削った後にトドメを刺しただけだし、さっきの魔族はザカートとまともに戦うことなくさっさと逃げ出してくれた。
……だから、連戦というほどのものではないのだが。
「目的は俺だな?俺がちゃんと戦えば、勝とうが負けようが、他の人間には手は出さないか?」
「いいぜ。あんたが他のこと気にして、俺との戦いに集中できずにボロ負けなんてつまんねーオチになるのはごめんだからな。弱い者いじめは趣味じゃねーし」
どこまで信頼できるかは分からないが、割と本心の言葉であるようには感じる。
ジャナフたちはもう戦えないし、目的が自分だけなら……。
ザカートが剣を握り直すのを見て、男はさらに満足そうに笑う。
先に動いたのは、男のほうだった。
「――おお、さすが勇者。やるじゃねえか!」
一気に距離を詰めて振り下ろした剣を、ザカートが難なくいなすのを見て男が言った。
二本同時に剣を振るのではなく、時間差をつけて連続で斬撃を……一振り目に比べ、二振り目はかなり重かった……。
「最初の攻撃で首と胴体が泣き別れしちまう奴も少なくねーんだがな……二本ってのは、やっぱ舐め過ぎたか」
どういう意味だ、と尋ねかけてザカートはぎょっとした。
男の腕が四本……それぞれの手に、剣が。
嫌な予感が脳裏をよぎる。
この男、複数の剣を背負っており、剣の数は、全部で六本……。
「よし、ちゃんと四本でも死なねえな。武器はそのへんで拾った適当なモンだが、それでも悪くねえ反応だ」
男が振り下ろしてくる四本の剣を返したが、やはり、一振り目よりも二振り目……斬撃が続くたびに、威力が増している。両手でしっかり剣を握っているのに、四振り目を受けた時には手が軽く痺れた。
これが六振りになったら……。
「全力で戦えるってのは楽しいよなぁ?期待しただけはあったぜ」
予想通り、男の腕が六本に増える。それに合わせて、剣も全部で六本。
六振り全部をしのげるか……四振りでこのザマでは……。例え防げても、攻撃できなければ結局自分のスタミナが尽きてやられるだけ。だが、しのぐのに精一杯で攻撃している暇なんて。
「くっ……術を解け、カーラ!」
「断る――いまのオレの術も解けぬ状態で、助太刀に入っても無駄だ。盾にすらなれぬ」
ザカートと二人目の魔族との戦いに参戦しようとするジャナフを、カーラはすぐに呪術で縛り付け、止めた。
……いまのカーラも、瘴気の影響と術の連発で大きく体力を削られた状態だ。そんなカーラの呪術が解けないなど……ジャナフも酷く消耗しているのだ。せめて盾役にでも、と飛び込んで行こうとする父に対し、カーラも譲らなかった。
ジャナフがやられれば、ザカートも動揺してしまう。限りなく低い勝率が、消え去ってしまう。父を喪いたくもないし、カーラも必死だ。
セラスはこの騒ぎに気付いているが、すぐに花の焼却に戻ってしまった。
――彼女も消耗しており、さほど戦力になれないし、魔族に魔力を与える花を消し去ってしまわないと、本当に勝ち目がない。大して力を使わなかったと言っても、ザカートは連戦なのだ……。
「フェリシィさん、ダメですよ。もう、あなたも術を使うのは禁止です」
フェリシィも、フルーフの道具によって治癒術を封じられていた。
おそらく、彼女も平時だったら道具による封印なんて解いてしまえるだろうに……それができないぐらい、いまは消耗しきっている。
最初の魔族の罠にまんまとはまって無駄に消耗させられたのが大き過ぎた。たぶん、まともに動けるのは、途中から参戦したザカートぐらい……。
六本の腕を持つ男が、剣を振り下ろしてくる。
六本同時にではなく、時間差をつけて……一振り目、二振り目と、次が来るたびに威力が増していく。
四振り目で腕が痺れ、五振り目は自分が持っている剣を弾き飛ばされないようにするのに必死だった。六振り目を受け切れるのか――いや。
六振り目で、この攻撃は終わるのか。どこかで断ち切らないと、七振り目へ繋いでくるのでは……。
「ぐっ――おいおい、なんだぁ!?」
思いもかけぬ方向から攻撃を食らい、魔族の男が顔をしかめた。
六振り目はザカートに振り下ろされず、乱入者によって剣をへし折られてしまっていた。
ザカートとの一対一の戦いのはずが――ザカート以外に、動ける者はいないはずだったのに。
「おいコラ、女!不意打ちで俺様の剣をへし折ってくれるとは、面白い真似すんじゃねーか!」
大声で叫びつつも、男は愉快そうだ。
ザカートのそばで身構えるリラは、ちょっと困惑していた。
「……いや。てめー!よくも親父とカーラを攻撃させやがって!と思って飛び掛かってみたら、全然違う相手で正直ビビってる……」
リラの言葉に、ザカートはガクッとこけてしまいそうになった。
さっきの魔族だと思って、攻撃したらしい。そういうところも変わらない――ザカートは苦笑いする。
「ケンカを売る時は、せめて相手を見極めてからにしてくれ」
リラも苦笑いで返し、ザカートももう一度剣を握り直した。
「右側は残り二本……任せるぞ」
返事は必要ない。何も言わなくても、彼女なら自分の期待に応えてくれるし、自分はただ、それを信じていればいいだけだ。




