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勇者の相棒、帰る ~召喚先は、あれから十年後の前世の世界~  作者: 星見だいふく
帰る、勇者のもと編
46/131

主人公登場


――戦い方が変わった?

突然の変化に戸惑いつつ、オルターは彼女の攻撃をかわしながら改めて相手を分析する。


さっきまでは蹴りや足技がメインだったのに、急に拳での攻撃に切り替わった。

しかも……普通は蹴りの威力のほうが上だろうに、彼女は拳を振るったほうが強い――専用のブーツまで履いているのに、素手のほうが強いだなんて。


それに、なんだか様子がおかしい。彼女も……周りの連中も。


殴り掛かってきた拳を、両腕でガードする。

多少、力は受け流したはずなのに……さすがに、これは何発も食らうとまずい。ガードしても、その内、こちらが耐えられなくなって押し切られてしまう。


そうしてオルターがリラの攻撃を防いだところに、セラスの魔術が飛んできた。

オルターが仕掛けた魔力強化の影響で、特大の火炎球が――え。これ、普通にこの子もヤバくない?


蔦で防いで魔術の威力を落としてかわす。リラのほうは、強引に火炎球を殴りつけて突破していた。


「ちっ……!人の術を、そう易々と叩き潰すでない!」


やはりそうだ。

セラスは、リラも巻き込むつもりで術を放ってきたのだ。リラごとオルターを仕留めるため……。

……いや。


むしろ狙ったのは、リラのほうでは。

そんな推測を裏付けるかのように、ジャナフが攻撃を仕掛けたのはリラのほうであった。


当然ではある。術を受け、リラは矛先をセラスに変えたのだから。

セラスでは、リラのスピードに追い付けない――リラもまた、魔力強化の影響でいつも以上の身体能力を発揮している。いまのリラのスピードと攻撃に拮抗できる相手など、オルターかジャナフぐらい……。


「はあ、なるほど。砂漠のライラ姫は魔族だって説があったけど、あれは本当で……あの子、普段は魔族としての本性を抑えてるタイプなのね。魔族化しちゃうと、見境なく敵を攻撃しちゃう」


悠長に解説するオルターに、セラスが再び魔術を放ってくる。この反応で確信した。

いま自分が口にしたことは事実。オルターにとっては、実に都合の良い展開だ。


恐らく、ああなってしまった彼女をもとに戻すのは容易なことではないのだろう。そして、あの状態の彼女を放置しておくと、パーティー全壊……それどころか、この町の人間全員が危なくなる――ジャナフがオルターよりも彼女を止めることを優先しているということは、そういうことだ。


もっとも厄介なジャナフとリラが互いに潰し合ってくれるのは有難い。どちらが倒れようが……うまくトドメだけかっさらえれば、その魂はオルターのもの。どちらの魂も、オルターを強化してくれる。

一人でも殺せればラッキー、ぐらいにしか考えていなかったけれど。ジャナフとリラを完全に無視して他の人間を殺せばいいなら、考えていた以上に楽な仕事になりそう……。


「わらわのことを忘れるでない!」


構わず瘴気に弱っている人間を狙おうとしたら、セラスに怒られてしまった。


でも正直、彼女は敵じゃない。

一対一の真っ向勝負で術を撃ち合ったら負けるかもしれないけど、自分の術をコントロールしきれず、周囲への被害を気にしているような状態で、オルターが負けるはずがない。


「アタシよりあっちをフォローしてあげたら?可愛いお嬢ちゃん相手じゃ、いくらジャナフでも本気出せないみたいだし」


リラはためらいなく殺しにかかって来るのに対し、ジャナフのほうはリラを殺すことができない。向こうも苦戦気味だ。

それは反論できないようで、セラスも睨みつけるばかり。


ふと、魔族化して暴走するリラと戦っているのは、ジャナフだけではないことに気付いた。


メインはジャナフなのだが、カーラがフォローに入っている。

そう言えば、ジャナフは結界に入っているカーラを呼びつけていた。結界を張っているのはカーラだろうに、それをわざわざ……。


「ふーん……弟くんが相手だと、あの子の暴走もちょっと和らぐわけね」


リラが攻撃しようとすると、カーラが間に割って入ってくる――いくら呪術師と言っても、あの馬鹿力を真正面から防ぐ術はない。呪術で防いでみようとしても、圧倒的な力で術ごと吹っ飛ばされるだけ。


でも、カーラはいまも動けている……ダメージ蓄積しているようだが。

たぶんそれは、リラのほうが手加減しているから。正気に戻ったわけではないが、弟の存在は、リラに幾分か動揺を与えるらしい。


「どうやってあれを止める気なのかは知らないけど……呪術師があの子の相手で忙しいってのは悪くないわ」


リラの相手をしているのなら、呪術師は結界を張っていられない。なら、聖女たちは無防備に……。


「……て、あら。アンタも結界張れるのね」


狙いが定まっていないセラスの魔術をかわしながら聖女たちのいる場所へ飛び込めば、聖女たちの周りには結界があった。呪術師カーラが作るものよりは弱々しいが。


中にはぐったりとした小さな竜を抱える聖女と、マスクを外した賢者――よく見てみれば、賢者フルーフが身に着けていたマスクを、いまは呪術師が身に着けている。

瘴気を防ぐマスクはあれ一つだけ……結界は、フルーフが作り出している。


「また便利道具?アンタ、用意が良すぎるわよ」


あの結界も、カーラから引き継いで持ってきた道具で作り出しているようだ。さすが、知識の国グリモワールの王。


……だが人間が作り出した道具には、限界がある。

人間ならば、まれに限界を超えることもあるが……道具には、それは有り得ない。


「呪術師の結界よりは楽そうね。どれぐらい耐えられるのかしら――大丈夫よ。アタシ、無用に痛めつける趣味はないから。時間をかけるのって面倒くさいし、さっさと片付けましょう」


町中に張り巡らせた蔦を動かして、しばらくセラスの相手をやってもらおう。すぐに全部焼き払っちゃうだろうけど、自分がこの結界を破る時間稼ぎにはそれで十分……。


そう考えてオルターは笑い……不愉快な感覚が背筋を駆け巡った。


ヤバい。

一番相手したくない人間が来ちゃった。




リラは、ひとたび敵に回るとこれ以上ないぐらい厄介な相手だった。

それはジャナフもカーラも身を持って痛感しており、できることなら次がないことをいつも願っていた。


そうは言っても、魔族化してしまったら止めないわけにはいかない。

リラに人殺しをさせたくないし、人類の敵にもなってほしくない。


ライラだった時は、ザカートが止めてくれたから大きな被害は出なかった。ザカートの力に頼れないのは苦しいが、十年の間、ライラの暴走を止める方法は考えておいた。

……もうそんな方法を考える必要もないのに、と自虐的な想いに駆られつつも。


「このバカ娘……!カーラばかり贔屓しおって!ワシにも少しは手加減せんか!」


殴り掛かってきたリラの拳は重い。


ジャナフ相手には、本当に容赦がない。

……というか、この状態のリラがわずかに動揺する相手が、カーラだけなのだ。カーラにだけは、攻撃を躊躇う様子を見せる。


ちょっぴり、面白くない、という嫉妬心もあったが、いまはその隙を利用してリラを抑えないと、こちらが持たない。


「カーラ、さっさと魔力を奪え!防戦一方の戦い方というのは苦手なのだ!」


リラの攻撃を防ぎ、しのぎながら、ジャナフが叫ぶ。


カーラが手にした短剣――フルーフの研究と、カーラの呪術によって作られた、相手の魔力を奪う武器。


なるべくライラに被害を出すことなく鎮圧するには、魔力を一気に奪ってしまうのがよいのではないかと考え付き、共同研究していたもの。

魔族の力を奪うのであれば、ライラが相手でなくても需要はあるだろうからと言い訳して作っていたものだったが……まさか、本当に彼女相手に使う日がやって来るとは。


「町中に膨大な魔力が満ちていて、迂闊に使えん!姉者にこれで直接攻撃できれば……!」

「難しい注文だな……!」


とにかく勘が鋭くて、直接攻撃なんか全部カウンターを食らわせてくるような女だ。短剣でちょっと攻撃、なんて気楽にはいかない。


おまけに、時間が経てば経つほどジャナフたちに不利になってくる――ジャナフとて、瘴気の影響は受けている。普通の人間より、効果が及ぶのがずっと後というだけで。

カーラは……あのマスク、そう長い時間、防げるものでもないはず。リラが多少手加減していると言ったって、カーラにとっては相当なダメージだし、攻撃を食らってマスクも傷ついている……。


「カーラ!短剣はワシに寄越して、おまえは結界に戻れ!そのマスク、もう効果を失っておるのだろう!?」


ジャナフの言葉に、カーラは返事をしない。でも、マスクから見える顔で、返事は十分だった。

マスクはもうほとんど瘴気を防がなくなっており、カーラをすぐにでも結界に戻さないと危険だ。


「……せめて、花だけでも焼却して……」

「要らん!ワシの心配なんぞしていないで、自分の身を守ることを優先しろ!」

「親父殿とて……もう限界だろう……」


瘴気に、暴走するリラの攻撃。頑丈なジャナフも、もう限界寸前のはず。

フェリシィも治癒術を使う余裕がないし……せめてもう一人、動ける人間がいれば……。他ならぬ姉が、そのフォロー役になるはずだったのに……。


「やだやだぁ!もう、信じられない!」


投げやりな声が聞こえてきて、カーラは驚きながら魔族の男に振り返る。

軽薄そうな振る舞いとは裏腹に冷静な男が、突如焦り出した――その理由は、カーラにもすぐに分かった。


かつての旅の仲間には、全員カーラの呪印が施してある。姉や父とはまた違った種類のもの――単純に、気配を追うために付けておいた呪印。

それが……ひとつ増えた。


花が薙ぎ払われ、建物に絡みつく蔦と共に吹っ飛ばされていく。ごく一部が浄化されただけだが、それでもかなり瘴気が和らいだ。

――やはり、勇者の力というのは伊達ではない。


「ジャナフ!カーラ!無事か!?これはいったい――」


ジャナフとカーラは、彼に会うのは久しぶりだった。飛び込んできた勇者は、見えるものに戸惑っている。


真っ白な髪の少女。見た目はかなり変わったが、雰囲気は以前のもののまま。

……恐るべき魔族としての本性も、昔と同じ。


「ライラ……」


リラを見て、勇者ザカートはそう呟いた。

勇者の相棒は、ついに勇者と再会したのである。


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