仲間たちと再び
「――それで。結局、誰を選ぶのじゃ?」
質問を戻し、悪戯っぽく目を輝かせながらセラスが再び問う。
からかうなよ、とリラは困ったように反論した。
「それより、セイブルのこととか、オラクルのこと、もっと気にしてやろうぜ。あの国に、新しい魔王がいるかもしれないんだぞ」
足元で話題にまざるわけにもいかず、おろおろしている竜を抱き上げる。
ぬいぐるみのような扱いに、セイブルは困って小さい翼をパタパタさせてちょっとだけ抵抗していた。
「初めて会った人間や、行ったこともない国のことを心配してやるほど、わらわは暇人ではない。おぬしらはお人好しが過ぎるのじゃ」
「そう言ってやるなよ――おまえだって、なんだかんだ言ってお人好しなくせに」
リラが言えば、セラスは不満げに鼻を鳴らしながらも否定しなかった。
「……即断即決のおぬしにしては珍しいのう。いまだに返事が定まらぬとは」
どうしても、その話題がしたいらしい。
十年前も、セラスにはそういうところがあった。年寄りくさい話し方をするくせに、ちょっとミーハーというか……フェリシィと一緒に、女の子らしくはしゃぐことを好む傾向があった。
年の近い女の子と、キャッキャウフフするのが楽しいようだ――実年齢は、女の子、と呼べるものではないはずだが。
「そりゃ……軽々しく答えていいもんじゃないし。オレだって、それぐらいは弁えてるよ。人生で一番悩んでるって言っても過言じゃないんだからな」
「そうじゃろうなぁ。お気楽なおぬしにとっては、死ぬほどの悩みかも……」
言いかけて、セラスが口を噤む。短い沈黙の後、じろりとリラを見つめてくる。
「……おぬし。まさか、それに悩んでうっかり命を落とした……などと。そんなふざけたことは言わぬであろうな」
露骨なぐらいに笑顔が引きつり、リラはサッと目を逸らした。クワッと、セラスが目を見開く。
セラスの視線から逃れるように、リラは思わず腕の中のセイブルをぎゅっと抱きしめた。
「な、なんという……おぬしはどこまで阿呆なのじゃ!?」
「仕方ないだろ!オレからすれば、死ぬほどの悩みだったんだよ!マジで!」
ザカートたちから告白されて。
その夜、リラは悩みに悩み、ろくに眠ることができなかった。明日は魔王との対峙が控えていると分かっていたが……正直、勝てるだろう、みたいな驕りがあったとは思う。
勝った気でいたから、戦いが終わった後のことで悩んでしまって……。
……などということをバカ正直に打ち明けたら、セラスは怒りで顔を真っ赤にし、プルプルと震えている。
腕に抱いたセイブルをさらにぎゅっと抱きしめ、リラは半分ぐらい小さな竜で顔を隠した。
戦々恐々としながらセラスの反応を待ち構えていたが、それより先に、部屋にカーラたちが戻ってきた。ケーキが載せられたトレーを持ち……明らかに、ケーキは人数分よりも多い。
「カーラ、フルーフ!この阿呆は、おぬしたちから告白され、その返事に悩むあまりろくに眠ることができず……その状態で魔王クルクスに挑んだそうじゃ!」
「あ、こら!バラすなよ!こいつらが気にするじゃん!」
弟たちには打ち明けるつもりのなかったことを、あっさりと暴露され、リラは焦る。
あの戦いで命を落としたのは、自分が弱かったから――リラはそう思っている。誰のせいでもない。
ザカートを守りたくて……でも、ちゃんと助けるだけの実力を持っていなかったから、命を落とした。それだけだ。
だが、カーラたちがこのことを知ったら、きっと責任を感じる。自分の気持ちを素直に伝えただけなのに――それが悪かったとか、思わないでほしかった。
驚いたし、めちゃくちゃ悩んだけど……彼らの勇気はリラも尊敬していたから。
「ああ……まあ、そんなことだろうとは思っていた」
カーラとフルーフの反応は、あっさりしたものだった。気まずそうにしてはいるが、動じる様子はなかった。
「色々悩みましたよ。僕たちも。もちろん、後悔もしました。何度も――自分たちが余計なことを打ち明けたせいで、ライラさんを悩ませ、不調に陥らせてしまったのではないか……間接的に、僕たちがライラさんを死なせてしまったのではないか。悩むなと言うのが無理な話です」
自分の言葉を聞いてしゅんと落ち込むリラをフォローするように、フルーフは続けた。
「あの時、あの場にいた誰もがそう思ったはずです――自分のせいだ、と」
「おまえらに責任なんかないよ。オレが弱かっただけ――」
「そうですね。ライラさんがそう思ったように、僕も、カーラさんも……ザカートさん、フェリシィさん、ジャナフさん……セラスさんも、自分のせいだと責めたんです。こればっかりは、どうしようもないことです」
セラスの名前が挙がり、リラは落ち込む気持ちも忘れて目を瞬かせ、思わずセラスを見た。
なんじゃ、とセラスはどこか拗ねたような、嫌そうな顔をする。
「そうそう。フルーフくんのいう通り。セラスもものすごーく落ち込んでね――自分に力がなかったばかりに、ライラちゃんを助けられなかったって」
各々のケーキを用意しながら、ミカがにこにこと話す。
「あれから、セラスは本気で魔術について学ぶようになったんだよ。それまでは、自分の知的好奇心を満たすための気まぐれなものだったのが……もしまた同じ状況になった時、必ず仲間を助けられるよう、本気で」
「……余計なことを話すでない!」
ミカが差し出すケーキの載った皿を乱暴に奪い取り、セラスが言った。
はずみで、柔らかいケーキがぐしゃっと潰れてしまう――セラスは構わず、フォークを乱暴に突き立ててむしゃむしゃしていた。
「セラス……」
「勘違いするでない!わらわは、クルクスごとき小物に負けたのが腹立だしかっただけじゃ!」
リラが万感の思いでセラスを見れば、セラスはそう怒鳴る。
これが照れ隠しなのは、誰の目にも明らかだ。ミカはにこにこしているし、カーラとフルーフも意味ありげに笑っている。
「む……だから、違うと言っておる!そのような目で見るな……!」
それ以上追及すると、セラスが本気で怒り出しそうなので、誰も何も言わずに笑うだけ。
……そのことも、セラスは面白くないようだ。拗ねた表情のまま、ケーキをやけ食いしていた。
『ライラ殿と共に旅をして……まだ短い期間ではありますが、それでも、みなさんの間で結ばれた強い絆を感じます』
用意されたケーキを見つめ、竜のセイブルがぽつりと呟く。
『もはや伝説として語り継がれる勇者ザカートたちの勇名……どのような御人なのか、私も常々想像しておりました。ライラ殿が話された通り、普段のみなさんは、我々とさほど変わりなく……仲間と共に泣き、笑い……多くの困難を乗り越えてきた人たちなのだと実感させられます』
「そう御大層なものでもないけどな」
相変わらず自分たちを褒め称えるセイブルに苦笑しながら、ライラが言った。
『いいえ。やはり、素晴らしい人たちです。力だけでなく、心もお強い……。私も、みなさんのような強さが欲しい……強くならなくては』
「心掛けは立派だけど、そう気負うなって。オレたち、一人で強くなれたわけじゃないからさ――だからおまえも、何もかも一人で頑張ろうなんて思うなよ。おまえのこと、待ってくれてる人たちのためにもな」
リラが言えば、セイブルが顔を上げる。竜だから、表情は分かりにくいが。リラが笑いかければ、かすかに照れているように見えた。
「セラスにも会えたし、これで残るはザカートだけだ。この調子なら、きっとザカートにもすぐ会える。もうすぐ、オラクルだって救われるさ!」
「相変わらず姉者は楽観的だな」
呆れたように言いながら、カーラも笑っている。フルーフも、愛想笑いではない笑顔だった。
「それがライラさんの良いところです。あらかじめ色々と考えておくのは僕らの役目ですし――彼女にそれを期待するのは無駄ですから――ライラさんには、あれこれ考えるより僕らを引っ張っていく役目があるのですから、このままでいいんですよ」
「……さらっとバカにしなかったか?」
さりげなくけなされたような気がして口を挟むが、フルーフは涼しい笑顔で受け流す。カーラはフルーフを咎めることもなく、愉快そうに頷くばかり。
やれやれ、とセラスがため息をついた。
「相変わらず、目の離せぬ小娘じゃ。仕方がない……おぬしらだけでは危なっかしいし、またわらわも同行してやるか」
呪術師カーラ、賢者フルーフ、大魔導士セラス――かつての仲間が揃い、セイブルのため、オラクルのため、リラは改めて旅をすることになった。
きっと、ザカートにもすぐ会える。
そんな予感が、さらに強くなるのであった……。
なんとか勇者ザカートを除く全員と再会できて40話……。
おかしいな……これぐらいで完結してる予定だったんですが……。




