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仲間たちのその後


「マルハマ王ジャナフの遣いだ。身分証明書と、王の親書を……」


グリモワール王国の関所でカーラが警備兵に身分証明書を提示し、リラたちはあっさりと入国することができた。

今回は平穏な入国ということで、セイブルも秘かに胸を撫で下ろしている。


「近くのプレジールが大変なことになってるから心配したけど、グリモワールはあんまり変わってなさそうだな」


空を飛ぶセイブルの背に乗って森を見下ろしながら、リラが言った。


「この森も懐かしいなぁ。たしか、フルーフと会ったのもこんな感じの場所で……」

「待ちやがれ!このくそガキがぁ……!」


昔よりかなり遠い距離からだが、昔と同じような台詞が聞こえてきて、リラも目を瞬かせるしかなかった。

いったいどこから……と注意深く森を観察してみれば、木々の合間から小さな女の子がちょこちょこと逃げ回る姿が……。


「カーラ」

「分かっている。セイブル王子、高度を下げてくれ」


竜のセイブルが高度を下げ、大きな身体を木々に近づける。これぐらいなら、とリラは飛び降りた。


「返せ!俺たちの獲物だぞ!」


昔と一言一句違わぬ台詞で女の子を追いかけ回しているのは、これまた見るからにならず者といった風貌の男たち。女の子は自分の小柄さを生かし、生い茂る木々の合間を逃げて男に追いつかれないよう必死だ。

だが、小さな身体では圧倒的にスタミナで不利だ。疲れから足がもつれ、転倒してしまった。


それに、女の子は懐に入れている何かが気になるみたいで、すぐに立ち上がれない。そんな女の子に手を伸ばそうとする男に、落下の勢いをつけて蹴りを食らわす。


男は吹っ飛び、他の連中も突然のことに目を奪われ――その隙に、転移術で降りてきたカーラの呪術で捕縛されていた。


「大丈夫か?」


倒れ込んだままの女の子を起こし、足や服についた泥を丁寧に払い落とす。

きゅ、という聞き覚えのある鳴き声が女の子の胸元から聞こえてきた。


「グリモワールの聖獣か。あいつら、それを追ってたんだな」


女の子の服から、聖獣ハミューがちょこんと顔をのぞかせている。十年経っても、この聖獣は密猟者に狙われているらしい。


「ライラ、大丈夫か」


カーラが声をかけてくる。返事を仕掛けて……カーラが自分の名前を?と目を瞬かせた。


「カーラ様、助けてくださってありがとうございました」


ぺこ、と女の子が頭を下げる。

ライラというのは、この女の子の名前か。


「おまえもライラって名前なのか」


面白い偶然だな、とリラが笑っていると、誰かがこっちへ駆け込んできた。


「ライラ!」

「ライラ様!」


やたらとライラの名前が呼ばれているが、これは自分じゃないだろう。それにしても、一人、聞いたことのある声がまざっていたような。


「ライラ……こんなところにいたんですか。ダメですよ。一人で勝手に行ってしまっては」


記憶にあるよりもずっと背が高く、男らしくなったけれど……でも、やっぱり男にしては中性的な顔立ちだと思う。相変わらず、リラより綺麗な顔をしている。


「ごめんなさい。この子を見つけたんです。見失う前に保護したくて――カーラ様たちが助けてくれたから、大丈夫でしたよ」

「ハミューですか。まだこの森に生息してたんですね」


女の子の無事を確認し、青年は改めてカーラたちに向き合った。

人の好い笑顔だが、リラを見て、意味ありげに笑う。


「カーラさん、助けてくださってありがとうございました。そして……その方が、いまのライラさんなんですね。僕も、早くお会いしたいと思っていましたよ」

「オレのこと、知ってるのか?」


彼はやはり、かつての仲間――賢者フルーフと呼ばれた少年。すっかり大きくなって、その成長と変化はカーラ以上だ。


「フェリシィさんから話を聞いていたんです。いつ僕のところに来てくれるのか、そわそわしながら待っていました」

「そっか。また会えて嬉しいぜ――再会を喜びたいんだけど……この子は?」


懐かしい仲間に会えたことは嬉しい。

本当はもっと再会の喜びに浸っていたかったのだが、目の前の女の子が気になって仕方がない。ああ、とフルーフが笑う。


「可愛い子でしょう?」

「うん……可愛い。オレと同じ名前なんだ?」

「はい。この子の母親が、亡き親友にあやかって、彼女のように強く、優しく、愛情深い女性に育ってほしいとの願いを込めてつけたんですよ」


フルーフの説明に、あれ、とリラは目を瞬かせた。


「この子は、フェリシィさんの娘さんなんですよ。プレジールは大変な状況ですし、余震も続いているので、うちに避難してきてたんです」

「なるほど。フェリシィが……十年経ってるんだもんな。あいつも母親になってても不思議じゃないか」


フェリシィが母親なら、女の子に自分と同じ名前がついてるのも納得だ。

ちょっと照れくさいけど、嬉しいものだ。


「フェリシィさんはライラさんに会えた嬉しさで頭がいっぱいで説明するのを忘れていたんでしょうが……カーラさんも人が悪い。わざと話しませんでしたね?」


フルーフがからかうように言えば、たまにはな、とカーラもにやりと笑った。


「姉者の驚く顔が見たかったのだ。おまえも、オレと同じ立場になったら同じことをするだろう」


カーラの言葉にフルーフは返事をせず、意味ありげにクスクス笑いをするばかり。

年が近いからか、カーラはフルーフに対して、姉や父に対するものとは違った気安さがあった。物心ついた時から傭兵一団で育ち、自分より年上の相手とばかり接してきたカーラにとって、同い年の男友達というのは貴重な存在――十年経って、より友情は深まったようだ。


「フルーフ様。そろそろお城へ戻りませんと……ご友人方も、ご一緒に」


フルーフと共に幼いライラを探していた者たちが、そっと声をかけてくる。

そうですね、とフルーフは同意した。


「こんなところで立ち話もなんですから、国都ターブルロンドへ向かいましょうか。あちらの竜も、ライラさんのお連れさんなんですよね?」


森の上で、リラたちを心配しつつも、大きな身体では着地できる場所もなくて上空を旋回している竜を見ながら、フルーフが言った。


なんでそれを、と言いかけて、すでにフェリシィと話をしていたのを思い出す。フェリシィが、竜のことを説明しておいてくれたのだろう。

幼いライラは、空を飛ぶ竜を見つめている。


「乗りたいんですか?」


フルーフが尋ねれば、女の子はちょっとはにかんで頷いた。

なら乗るか、とリラが言った。


「あいつも、女の子一人乗せるぐらいは了承してくれるだろうし」

「とは言え、全員が乗るのはきついな。オレはグリモワールの天馬に乗せてもらえるか」


カーラがフルーフに向かって言い、もちろん構いませんよ、とフルーフも了承する。

リラは幼いライラを抱きかかえ、カーラに竜の背まで転移術で飛ばしてもらおうとして……そう言えば、とフルーフを振り返る。


「この子の父親って誰なんだ?オレの知ってるやつ?」

「ええ。よく知っている相手だと思いますよ」


リラの質問に対し、フルーフは面白がっているような声色で答えた。

わざともったいぶって教えなかったな、ということを察しつつ、誰だよ、とリラはさらに尋ねる。


「私のお父様は、リュミエールという名前です」


幼いライラが、にこにこと言った。可愛らしい笑顔は、母親のフェリシィによく似ている。


「……うん?その名前って」


たしかに聞き覚えのある名前だ。リラが十年前の記憶を掘り起こしていると、フルーフが説明を付け加える。


「我が不肖の兄です。一時期、みなさんがうちで居候していらっしゃったでしょう?あの頃に、兄はフェリシィさんと親交を深めていたみたいで」

「おお、そうだったのか。それでライラの避難先がグリモワール」


プレジールから近くにある仲間の国、というだけでなく、父親の国。母親と離れて暮らすのなら、他に行く理由がない。


「ん……?おまえの兄貴って、グリモワール国王だよな?てことは、フェリシィはグリモワール王妃になったのか?」


あまり政治に詳しくないリラでも、それって可能なのか、と首を傾げる。予想通り、いいえ、とフルーフは答えた。


「プレジールの聖女が、他国に嫁ぐなんてありえません。だから兄はグダグダ悩み続けてうっとうしくて」


フルーフは、にっこり笑って続ける。


「あまりにも目障りだったので、僕が王位を簒奪し、兄を国外追放しました。行き場のなくなった兄はプレジールに拾われ、フェリシィさんのもとに婿入りしたというわけです」

「相変わらず仲の良い兄弟だな。カーラにも負けないぐらい、おまえって良い弟だよ」


フェリシィへの愛と、王としての責務に悩む兄のため、フルーフは玉座に就いたらしい――国王なんてそんな面倒くさいもの、絶対なりたくないと言っていたのに。


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