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勇者の相棒、帰る ~召喚先は、あれから十年後の前世の世界~  作者: 星見だいふく
決戦編~相棒、帰る~
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最後の戦い、そして決着


『ちょっと姿が変わったぐらいで、勝った気でいるのか――小癪な……!』

「その台詞、そっくりそのままお返しするぞえ!」


左の首が、再び光線のような炎を吐く。セラスの周囲で渦巻いていた魔力が黒い炎となり、黄金竜の炎を防ぐ。

少しセラスのほうが圧されているが……ネメシスのほうも、この攻撃は連発できない。それを完全に防がれて、ネメシスが焦るのが見えた。


『ボクの力が――オラクルの連中の血を研究し、ここまで強化したんだぞ!それを……弱虫グリードの娘なんかに!』

「努力は十分報われておるではないか。そのような姿にまでなって得た力じゃ。誇るがよい――本物の天才には敵わぬだけ。我が父が歴代最弱……どうやら、それも今日限りのようじゃな!」


セラスが煽り、挑発している。ネメシスの攻撃を自分が引き受けようと、囮になってくれている。

それを理解して、リラも竜の首を一つでも沈めようと攻撃を仕掛けているのだが……。


「ザカート!どっちかの首は任せられないか!?」


右の首を狙ったのだが、飛んでいる相手への攻撃はなかなか難しいし、真ん中の首がかばおうと妨害してくるから思ったようにダメージを与えられない。

せめて、ザカートがもう一方を引き受けてくれればなんとかなるのだが。


「すまない。やはりこの剣ではダメか……!」


ザカートも攻撃を仕掛けてはいるのだが、空にいる相手には攻撃が届きにくいのもあるし、聖剣でない武器では威力がガタ落ちだ。予備に持っていたこの剣だって、性能は悪くないのに……


悔しそうにザカートが呟くのを見て、大和も自身の剣を握り締める。

――あの聖剣のことを言っている。それは、大和にも分かった。


自分の剣のために、勇者だった彼は自身の聖剣を失ってしまった。それで、彼は大幅に戦力がダウンしてしまった。そうまでして得た剣なのに、自分は使いこなすどころか、せめて足を引っ張らないようにネメシスに狙われないようにするので精一杯。

塔で竜たちと戦い続けてきたとは言っても、戦闘経験値が違い過ぎて、彼らの戦いについて行けない。もっと自分がしっかり立ち回れていれば……あの黒髪の女性も、リラも、大和のために黄金竜の大勢を崩し、隙を作ろうとしてくれているのに……。


「ヤマト、待て――!」


大和が自分の不甲斐なさを歯がゆく感じているのは分かっていた。自分の無力さに焦り、罪悪感すら抱いてしまう気持ち……ザカートには、とても覚えのあるものだ。


だから、何とかしようと無謀に飛び出して行ってしまう大和を、責められはしなかった。

大和を止めるのではなく、自分が彼をフォローしないと――。


「ザカート様」


大和を追おうとするザカートに、フェリシィが静かに呼びかける。

この状況で、どうして――そう思い振り返ると、祈るように目を閉じていたフェリシィが、目を開けて真っ直ぐにザカートを見つめる。その眼差しの強さに、ザカートは息を呑んだ。


「勇者……ザカート様」

「俺は、もう勇者じゃ――」

「いいえ。あなたさまは間違いなく、勇者様です。魔王セラスの対として選ばれた」


フェリシィの言葉に、ザカートは黄金竜と戦っているセラスを見上げた。

たしかに、セラスの力はネメシスにも劣らない。もともと魔力が高くて、魔術に長けた少女だったが、その力はこの十年でさらに成長した。


いまの彼女は……それこそ、魔王と呼べるぐらいに。




「どうやら、ザカートは再び勇者に選ばれたようだな」


地上にいるザカートとフェリシィに視線をやり、セラスが愉快そうに言った。何をふざけたことを、とネメシスが吠える。


『やつは、魔王クルクスを倒す勇者だろう!もう、勇者としての使命は失っているはずだ!』

「たしかに。クルクスを倒すという役目は終わっておる。だから、新たに選ばれたのではないか――新たな魔王と共に」


セラスの言葉の意味を察し、ネメシスが息を呑む。

バカな、と否定するが、焦ったような声色が、何よりも事実を物語っていた。ネメシスも気付いているのだ。


新たな魔王が、誕生しようとしている。

でも、それなら自分は……?


『すでに魔王がいるのに、新たな魔王が現れるだと……そんなこと、有り得ない――』

「まったくじゃ。同じ時代に、魔王は二人も要らぬ――おまえが消えろ!」


すべてを焼き尽くしてしまいそうな黒い炎。ネメシスも、最高火力の炎を吐いた。

溜め時間を作らないと、魔力の消耗量がエグくなってしまうが仕方がない。魔術の撃ち合い――自分こそが王だと証明するためには、この馬鹿みたいな殴り合いから逃げるわけにはいかない。




勇者の痣が光を放つ。クルクスを倒して、勇者としての使命を終えても、勇者の力の一部は使えた。ザカートの想いに応えてくれた。

でも、こんなふうに光を放つのは久しぶりだ。魔王クルクスを倒して以降、失われていた輝き。


「勇者ザカート様。私は、女神デルフィーヌの神託を受けた聖女として、あなたさまをいま一度聖剣へとお導きいたします」


そっと、彼女がザカートに向かって手を差し出す。フェリシィの手も、ほのかに光っていた。

ザカートも手を伸ばして、彼女の手に触れる。痣の光がいっそう輝きを増して、ザカートは腰に提げた剣を見下ろした。


折れてしまった聖剣。その剣が、何かを訴えているような気がして。

痣のあるほうの手で剣を引き抜くと、鞘から出た刀身は眩しく光り輝いていた。


折れたはずの剣が、かつての姿を取り戻している。それを呆然と見つめ、ふっと笑ってしまう。


「どうやら……まだまだ頑張らないといけないみたいだな。俺たち」


この相棒とは、まだコンビ解散とはならないようだ。自分に向かって微笑むフェリシィに笑顔で頷き、ザカートは改めて魔王ネメシスと向き合った。




「やばっ――大和!避けろ!」


右の首に攻撃を仕掛けて失敗したリラは、真ん中の首が明後日の方向を狙っているのを見て焦った。

真ん中の首が狙っている相手は大和だ。リラの呼びかけに大和も逃げ出そうとしたが、真ん中の首が吐く炎の吐息は範囲が広い。大和の脚では逃げ切れない――。


ズドン、と爆音がして黄金竜が苦痛に悶え、態勢を崩す。


ザカートか、と思ったが違った。

――フルーフだ。


塔に向かったはずのフルーフがいつの間にかこの部屋にいて、大筒のようなものを両手に抱えてネメシスを狙っている。おかげで大和への攻撃はキャンセルされたが……いったい、いつ。


フルーフの登場で呆気にとられ、ネメシスの次の攻撃を許してしまった。

真ん中の首が、フルーフに向かって球体の炎を吐いく――あんな武器を持っていては、フルーフも素早く動けない。自分が助けに行かないと……と思ったが、フルーフの姿は瞬間的に消えた。

……転移術。ということは、カーラもこの部屋のどこかに……。


カーラを見つけるよりも先に、玉座の間の壁が轟音を立てて崩れ落ちる。同時にジャナフが飛び込んできて、ジャナフがぶち破った穴から竜のセイブルが飛び込んできた。


「ザカート様、ヤマト様。私の背に乗ってください!空を飛ぶぐらいなら、私だって!」


二人に呼びかけ、セイブルが高度を下げる。ザカートと大和は、セイブルに飛び乗ろうと急いだ。

リラは……急に視界が暗転し、馴染みのある感覚に着地の態勢を取った。


今度こそ間違いない。転移術だ。

弟の転移術は、ライラだった頃から何度も経験してきた。カーラがどう自分を飛ばすつもりなのか、考える必要もない。


「ライラ!タイミングを合わせるぞ!」

「分かってるっての!親父こそ、遅れんなよ!」


ジャナフと二人、ありったけの力でそれぞれ首をぶっ飛ばす。

カーラによって転移させられて黄金竜の頭上へ。体格差、体重差でジャナフのほうが先に落下するから、真ん中の首がジャナフの拳に殴りつけられて怯んだところを右の首ごと……踵落としで、地面へと叩き落とした。


地面に叩きつけられた黄金竜を、上空――セイブルの背から二人揃って飛び降りて。

ザカートと大和。どちらを攻撃するべきなのか、大きすぎるダメージを引きずりながらネメシスは考えた。

そして……大和を狙った。


例えザカートのほうが強くても、魔王ネメシスを倒す使命を持って選ばれた勇者は大和。大和を始末してしまえば、自分を倒せる人間はいなくなる。

左の首を何とか持ち上げ、光線の炎を吐く。セラスと炎の撃ち合いで威力は落ちてしまったが、ザコ勇者の大和ぐらいなら……!


『くっ――くそおおおおおお……!』


大和の姿が、ザカートのものに変わった。

二人まとめて攻撃するしか、選択肢はなかった。転移術を使える呪術師がいては、攻撃が当たるはずがない……彼らのことは研究していたのに、そのことをすっかり忘れていた……いや、二人揃って攻撃したところで、ザカートにはいまの自分の力は及ばない……どちらにしろ、打つ手はなかった。

聖剣で、ザカートはあっさりとネメシスの炎を防いだ。勇者の力を取り戻したザカートとの差は、こんなにも……。


ザカートと場所が入れ替わり、これが転移術というやつか、と戸惑いながら大和は着地した。


さすがに魔王に勝った勇者だけあって、ザカートは着地場所もよく理解している。

黄金竜の弱点をしっかり見抜いて、その場所に着地するよう飛び降りた――黄金竜の背中。三つの首が生えている付け根当たり。竜の鱗……一部が変色し、隙間のようなものができている。

ここに、聖剣を振り下ろせば……!


『あああアアアァァ……やめろぉおおオオオ!』


ゲームにはありがちな悪あがきの台詞も無視して、大和は聖剣を振り下ろした。

竜を殺すために作られた武器。その武器を作った本人が竜となり、この武器で殺されることになるとは。皮肉というか、滑稽というか……。


断末魔は一瞬だった。大和の剣を受け、黄金竜の身体が眩しく光り、爆発した。

爆風に吹っ飛ばされた大和を、カーラが転移術で自分のもとに引き寄せる。部屋中に光の粒が降り注ぎ、しばらく、全員が呆然となってそれを見上げていた……。


次回、最終話!……の予定で書いていたんですが、長くなったので分割

あと二、三話で本編は完結です

……二、三話でちゃんとまとまるよね……?(不安)

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