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夜闇の語らい


リラ創作の勇者ザカートの物語。

やっぱり物書きのプロでもない自分が書いた作品だから、ちょっと粗っぽいというか、拙いというか。


それでも幼いライラは喜んで紙芝居を見てくれて。

読み終わった後、リラは得意料理を披露することにした。


「なんだか良い匂いがしますね。何を作られていらっしゃるのですか?」


甘い匂いに誘われ、母親のフェリシィもやって来た。

クレープです、とライラが説明すると、フェリシィが不思議そうに首を傾げる。


「ライラ様の世界にも、クレープは存在したのですね。でも、私たちが知っているものと違うような……」

「オレの世界だと、こっちのクレープはガレットって呼ばれて、ちょっと違うお菓子なんだよ――本当はお好み焼き作ろうと思ったんだけど、さすがにお好み焼きソースは自作できなくてさ」


クレープとガレット。

生地の材料が違うだけで、お菓子の種類としては同じ料理だ。その生地も、こちらの世界で手に入るものばかり。だから、クレープならリラでも作れる。


お好み焼きソースは……あれは、やっぱり素人の自分が作れるものじゃないと思う。向こうの世界で暮らしていた頃、ソースを自作するという発想はなかったし、既製品じゃないと無理。


「こっちの世界だと、皿に飾り付けてフォークとナイフで食べるのが普通だけど、オレの世界だと……こうして、手に持って食べるんだ」


とりあえずお手本として、チョコとクリームのシンプルなトッピングをし、手際よく巻いてみせる。

家で時々、母親と一緒にクレープを焼いて食べていたから、こういった作業は慣れっこだ。さすがに、店で作るものほど綺麗にはできなかったけれど、幼いライラは目を輝かせている。


「ぎゅっと持つと中身が飛び出るから、そっとな」


幼いライラのために、小さめに焼いたクレープ。ぱくっとかじりついて、美味しそうにライラは食べていた。


「フェリシィの分も焼いてやるよ。今度はみんなでトッピングしようぜ。お城の人たちに頼んだら、果物とかもたくさん持ってきてくれてさ」

「はい。ぜひ」


リラが生地を焼き、フェリシィとライラが生クリームや果物のトッピングで飾りつけていく。フルーフやセラスも食べたがるだろうと、二人の分を作っていたら、結局全員分作ることになって。

三人で楽しんでいたら、もう一人、お客が現れた。


「お父様!お帰りなさい!」


父親の姿を見つけ、大喜びで幼いライラが駆けて行く。飛びついてきた娘を抱き上げて、リュミエールもこちらへやって来た。


「美味しそうな匂いがするな」

「ライラ様に、異世界のクレープを作って頂きましたの」


フェリシィが作ったクレープを見せれば、とっても美味しいんですよ、とライラも続ける。


「プレジールから戻って来たのか?」


リラが尋ねると、フェリシィが差し出したクレープを手に、ああ、とリュミエールが頷いた。


「プレジールは、ようやく本当の意味での復興が始まったばかり。とは言え、女神デルフィーヌが戻ってきてくれたおかげで、いままでとは比べものにならないほどスムーズに進んでいる。今年中には、ライラもプレジールに戻れるようになるかもしれないな」

「よかったな、ライラ。おまえもずっと、プレジールのことを心配してたもんな」


それに、プレジールに戻れるようになったら、幼いライラは両親と一緒に暮らせるようにもなる。

幼いなりに気遣って、ライラはワガママを言わないが、やっぱり両親と一緒に暮らしたいはず。


「ライジェル叔父様は、お元気にしていらっしゃいますか?」

「ああ。一日でも早く、ライラと……ハミュエルがプレジールに戻って来れるように、とても頑張っている」


やっぱあの聖獣は連れて帰るのか。

リラは苦笑した。


「フェリシィ。せっかくだから、リュミエールとライラと、三人で食べて来いよ。オレは、他のみんなにも配ってくる」

「ライラ様……すみません、気を遣わせてしまって……」


親子三人、家族水入らずで過ごしたいだろうと思い、リラは仲間の分のクレープを持って言った。

フェリシィは申し訳なさそうにしているが、幼いライラの笑顔が見れて、リラも十分満足している。気にすんな、と笑って部屋を出た。


「さて……誰かに会えるかな」


探し回るよりも、お城の人たちに頼んで、みんなの部屋に届けてもらうのが手っ取り早くて確実なのだが……。せっかくなら、直接渡して、相手の反応を見てみたい気もする。


「お。あのパタパタ影は……」


ラッキーなことに、リラはすぐに相手を見つけることができた。

廊下の向こう、曲がり角。パタパタと動く小さな影。


セイブル、と呼びかければ、竜のセイブルが振り返り、リラに向かってすいーっと飛んできた。


「ちょうどいいところに。これ、フェリシィと小さいほうのライラと一緒に作ったんだ。みんなの分あるから、おまえにも差し入れ」

「私にも、ですか?ありがとうございます!」


差し出された料理を見、セイブルは嬉しそうに礼を述べる。

どこかで座って食べるか、とリラが誘い、二人で中庭のベンチに座った。見上げた空はすっかり暗く、星が輝いている。


「こうしてると、おまえと二人で旅に出た頃のこと思い出すな。まだ何も分からないことだらけでさ。名前すら、オレは知らなかった」

「懐かしいですね――でも、昨日のことのようにも思い出せます。長かったような……あっという間だったような……私も、竜の姿がすっかり様になってしまって」


自虐するセイブルに、リラも思わず笑ってしまった。

だって、小さな竜の姿で、セイブルは器用にクレープを持って食べている。両手……竜の身体だから、もしかしたら両足かも。


「伝承でしか知らなかった勇者様と、そのお仲間たちに会い、助けられ……まるで私も、彼らの一員のように共に行動し……とても楽しい日々でした。ライラ様――私は、一生あなたを忘れません」


リラをまっすぐに見上げ、セイブルが言った。


「あなたがオラクルに来てくださったこと……私に会ってくださったこと。それこそが、私にとって最高の幸運……最高の奇跡でした」

「そこまで言われると、さすがにオレも照れるぞ」


感謝してくれるのは嬉しいが、リラ自身は大したことをしてないだけに、さすがに恐縮してしまう。


「ライラ様は、気付いていらっしゃらないのでしょうね。私が、どれほどあなたに救われたか」


絶望しかない闇の中。差し込んできた光が、力強く自分を闇の外へと引っ張り出してくれた。


勇者ザカートのことだけではない。

真っ暗な世界に閉じこもって、うなだれていただけの自分を、彼女が導いてくれた。明るい未来を信じ、顔を上げて見てみた世界は美しく。

オラクル王国に必ず平和を取り戻し、美しい他の国々も劣らぬ国にしたい――そう思えるようになった。


「……皆様が、とても羨ましいです。強い絆で結ばれて、私には、入り込む余地もない」

「何言ってんだ。おまえも、もう立派なオレたちの仲間だろ?」


リラが笑って言えば、セイブルはリラを見上げ、ぱちぱちと目を瞬かせる。

どこか呆けたような彼の手から――手にしたクレープから、ぽろりと苺が落ちて。


「おいおい、落ちてるぞ」

「あっ」


幸いにも、苺が落ちたのはベンチの上。拾ってぱくっと、セイブルは苺を食べる。

その姿を見て笑うリラに、セイブルが不思議そうな顔をする。


「ごめん。おまえ、きっと育ちのいい坊ちゃんだっただろうに、オレたちと旅をしてガサツなところがうつっちまったっていうか、逞しくなっちゃったよな」

「……そうですね。昔だったら、こんなことしなかったかもしれません」


落ちたものを拾って食べるだなんて。セイブルも笑い、しばらく二人で笑い合った。


「元の世界に戻るって決めたけど……おまえの本当の姿を見れないのは残念だな。それぐらいの猶予はあるといいんだけど」


オラクル王国で会った、偽者のセイブル王子。あれは、本物のセイブルと同じ姿なのだろうか。

美形ではあったが……ちょっと嫌な感じだったから、あのまんまじゃないといいな、と思ってみたり。


「私の姿ですか……ライラ様にはぜひ見て頂きたいと思う反面、ライラ様の中の想像の私がものすごく美化されていて、実物を見るとがっかりしてしまうのではないかという不安があります」


ちょっとしょんぼりしながらセイブルが言い、まさか、と笑い飛ばしつつも、彼の言うことに一理あるかもしれない、と思ってしまうリラだった、


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