奇跡を起こす勇者の伝説
「それは勇者ザカートの詩か」
花売り少女が口ずさむ詩を聞き、旅の男が声をかける。
少女から花束を一つ買い、男は話を続けた。
「君は、勇者に憧れているのか?」
「うん!だって、勇者様は世界を救った英雄だもの!私、勇者様の仲間たちの詩も全部覚えてるのよ」
「それはすごいな。俺は……そうだな、勇者の相棒ライラの詩が好きだ」
「ライラ姫?私も好き!勇者様を守ったマルハマのお姫様なのよね。お姫様なのに、とっても強くてかっこいいの!」
目を輝かせて語る少女に、ああ、と男も同意する。
「強くて美しくて……ザカートが本物の勇者になれたのは、彼女のおかげだ」
話し込んでいる二人のもとに、いかにもガラの悪い、ならず者を絵に描いたような連中がニヤニヤ顔でやって来る。
少女は怯え、旅の男はその様子に気付いてさりげなく少女をかばった。
「おい!誰の許可を得て、ここで商売してやがるんだ!」
リーダーらしきならず者が恫喝し、旅人は急いで弁解した。
「俺が呼び止めて話し込んでしまったんだ。この子は、ここで商売をしていたわけじゃない」
「うるせえ!余所者は黙ってろ!おい、ガキ!ここで商売するなら、それなりの対価は払えるんだろうな!?」
少女につかみかかろうとするならず者の手を、旅人が素早くつかむ。
小癪な真似をする旅人を睨みつけ――ひっ、と小さく悲鳴を上げた。
先ほどまでの優しそうな――なよなよした雰囲気が消え、鋭く自分を睨むその顔には、迫力があって。声色にも、小心者たちをすくみあがらせる凄味があった。
「最初から、難癖をつけるのが目的だったのか。ならば俺も、対応を変えよう――」
それから数日後。
小さな町は、喜びに満ちていた。
ズローバ一味が出て行った――彼らから賄賂をもらい、不正を横行させていた役人も逮捕され、新しくやって来た役人のおかげで町に平和が訪れた……善良な町の人たちみんな、それを喜んでいる。
「私、知ってるわ。勇者様がズローバ一味と悪いお役人さんたちをやっつけてくれたのよ!」
花売り少女は今日も花を売りながら、いつものように大好きな勇者のことを語る。
花を買いながら、大人たちは苦笑した。
「本当だもん!勇者様の手に、ちゃんと勇者の印があったのよ!私、見たんだから!」
自分につかみかかろうとしたならず者たちの手を押さえ込んだ時に、彼の手にあった――勇者の印が光り、少女は間違いなくそれを見た……。
「おまえさんが話す勇者ってのは、勇者ザカートのことだろう?そんなわけあるか――だってザカート様といえば、アリデバランの皇帝陛下じゃないか!なんで陛下がこんな町に……」
大人たちは誰も信じてくれないけれど、少女は信じている。
英雄ザカート――彼は、私たちにも勇者の奇跡を起こしてくれたのだと。
今回は割とサクッと終わる物語にしたい(希望)
結末は決まってますが、かなり見切り発車の連載です
長くはならない予定ですが、どうぞゆるく見守ってやってください