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ガチャ勇者  作者: 名前はまだない
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一章 アベル

すいません、リアルの方で少し忙しかったので更新後止まってしまいました。決着がついたので更新の頻度をあげていこうと思います。

「……っ!!」


一瞬、思考が固まっていた。


天使、様なんて、物語での挿絵でしか見たことがない。けれど、この人は確かにそれに類する存在だってことが分かる。人は宙に浮かない。そんな俺の今までのあたりまえを、この人は、自然に存在するだけで壊してくる。それに、透き通ったような美しさは明らかに尋常ではない。目の前にいるのは、確かに、自分とは縁がないと考えていた超常の存在なんだ。それに確か天使は神様の使いで教会の偉い人しか会うことができないなんて聞いた。教会は、様々な国にまたがって存在する。商人さんの話だと、時と場合によっては王様よりもえらいことがあるのだとか。つまり、この天使様はそんな偉い人のさらに上の存在なのだ。そんな偉い人?に対してどう話せばいいのか、わからない。


口を開けばパクパクと意味にならない音が漏れ出てくる。そんな俺を、天使様、B=アベルは微笑んだままじっと眺めてきた。目をにっこりと閉じたままなので目の動きなどはわからないはずなのに、なぜか見られているという感覚は確かにある。その視線は俺の顔から、首、胸へと下がっていき、手に至った時、視線がそこで止まるのを感じた。


「ああ、こんなにボロボロになってしまって……!」


あの化け物との戦いで傷ついた右手。せめて傷口は抑えようとカイがハンカチを俺の右手に巻いてくれたが、今のところそれだけの処置しかしていない。真っ白だったハンカチは、昨日の作業の中で血がにじんでしまっていた。


「頑張ったのですね……もう大丈夫ですよ」


すっと、天使様は俺に近づき抱き寄せる。


「えっ……」


顔をうずめさせられるのは圧倒的な質量。それは今までに感じたことのない柔らかさを持っていた。


思考の停止が再度訪れる。


……………………?


なにか、違和感を感じたような。


鼻を引くつかせる。


こんなに至近距離にいるのに、何のにおいもしない……?


その時、すっと後頭部にやさしい感触がする。撫でられているのだ、頭を。


「おいっ!何してるんだ!」


カイの声が聞こえる。やけに焦ったような……。


「ラルク!しっかりしてくれ!そいつ、なんだかおかし……!」


何を言っているんだ……?よく聞こえない……。


繰り返される頭部をなでられる感覚。その手が一往復するたびに、心地よさが体をどんどん包んでいくようだった。


「なるほど……この形なら……」


天使様が何か小さくつぶやいている。少し顔を上げると、その顔は微笑んだまま変わってはいなかった。


次第に瞼が下がっていく。心地よさに眠気がつられたのか、意識を保つことが難しい。でも、このまま心地よく眠るのもいいかもしれない。昨日からずっと、寝てないんだ。いやきっと、昨日の今日で心地よく寝るなんてできなかった。けれど、この心地よさはそれすら流して……。


心地よさに身を任せる。視界が薄まる。


「おやすみなさい、ラルク」


天使様の声が聞こえた。けれど、それすらも遠く感じる。


完全に視界が暗くなっていく。眠りに落ちる。


そういえば、天使様はずっと微笑んだままで、その目を一度も見れていないな……。



夢を見た。透き通るような青空の下、赤青黄色と色とりどりの花畑の中、少女が笑っていた。あの子だ、俺が守れなかった幼馴染が楽しそうに、幸せそうに微笑んで俺を呼んでいる。ああ、その笑顔だ。三年前、鬼ごっこ俺を捕まえた時と同じ、去年の誕生日に、商人さんからこっそり買ったリボンを渡した時と同じ、俺が好きな顔。それが、また見れた。


待っていてくれ、きっといつか、取り戻すから。けれど今だけは。笑顔のキミと過ごすことを許してほしい。


俺は幼馴染に向かって駆け出した…………。


夢を見ていた。それも、すごくいい夢を。目を開けた時、そこにあったはずの何かがないことに強く悲しみを覚えたから。きっとそうだ。


気が付くと俺はベッドの中で寝ていた。


ここは……?


おぼつかない思考と視界で周囲を見回す。


木組みで作られた壁、見覚えがあるような……?


「おや、お目覚めになったんですね、勇者様。よかった……!」


耳に届く、滑らかな女性の声。


声のした方を向くと、そこには黒の長髪をして、ごく普通の布の服を着た女性が立っていた。


ああ、この人は_______


「アベルさん」


「はい、ラルク様。よくお眠りでしたよ」


そう、あの石像からもらった「取り戻す力」とやらで、カイと同じく生き返った人。


眠る前に、自己紹介もした。優しい声音と表情が特徴的だったな。


「すいません、会ってすぐ寝ちゃって」


「いえいえ、むしろラルク様はよく頑張ったのですよ?休むのは当然です」


「あ、ありがとうございます」


アベルさんは遠くの国で暮らしていた普通の平民の女性だ。平和に暮らしていた村に、突如あの化け物がやってきてアベルさんも……ということらしい。


「それにラルク様、私に敬語はおやめください?どうかカイ様と同じく、砕けたように話していただけると嬉しいです」


アベルさんは微笑みながらそう言った。確かに、そうだな。特にアベルさんは同じ平民だから問題ないはずだよな……?なんでか自然と丁寧に話してしまっていた。アベル、が自分よりも年上の女性だからだろうか。


「ごめん、アベル。でもそれならアベルだって丁寧語じゃないか」


「ああ、そうね。ふふっ。ごめんなさいうっかりしていたわ」


そういってアベルは優しく微笑んだ。

アベル

辺境の村で平和に暮らしていた年若い女性。

優しげな声音をした、微笑みを絶やさない素敵な女性。

特技は回復魔法。その腕で村の人々を癒していたらしい。

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