一章 二人目の仲間
二人の手が重なり、強く握られた、その瞬間。
突然、二人の胸の辺りからオレンジの光の線が発射された。
それは、一本に留まらない。何本、何十本も続けざまに放出されていく。
そして、呆然とそれを見る俺たちの目の前で、それらは合わさり、形をなしていく。それは手のひらで握れる程度の大きさで……。
「っ……!」
この色、この大きさ。
知っている。カイが現れたときに壊れた石と同じ……!
線が像となり、次第に形をくっきりとさせていくなか、あのときのことを思いだし、期待する。
そして、体からの線の放出が完全に止まったとき、俺とカイの間、ちょうど握手をしたところのすぐ真上に、オレンジ色の石が浮いていた。それを、無意識に俺はつかんでいた。
「こ、これは、あの時と同じ石!」
「っ、本当!?」
「あ、ああ、カイをここへ呼んだのと同じものだ!」
「ということは、これで生き返らせられるかもしれない……!」
それぞれの脳裏に大切な人の顔が思い浮かぶ。
この石はきっと、あの石像がくれた、取り戻すための力。カイと同じように死んだ人をこの世界に呼び戻す力を持っている……はず。だよな?
「お、落ち着け!まだ確証はない!」
「そういうラルクこそ!手が凄い震えてるよ!」
本当だ、自分では気がつかなかったけど手の震えがひどい。生まれたての小ジカみたいだ。
「りょ、了解。とりあえず落ち着こう」
「うん、こんな動揺した姿お嬢様には見せられない」
と二人して一息つく。
そこで気がついた。
「……これ、どうやって使うんだ?」
「……」
暫しの沈黙。あのときは、あの化け物の光線で壊れてしまった。そして、壊れたときにオレンジ色の光が溢れだした。
「こ、壊してみるか?」
「……っ!僕の時はそうだったみたいだね。でも、でもだよ?もし本当は壊れるのと違う理由で僕が呼ばれたんだとしたら?偶然そのタイミングで壊れちゃっただけだとしたら?もし壊してなにも起きなかったら、人一人生き返らせられるとんでもない力がパーだよ!?」
「そ、それもそうだな!とりあえず、他にないか考えてみるわ!」
あの時、あの時……?壊れる以外に何かしたか俺……?あっそうだ。
バッ。
足を広げ、右手に石を持ち前につき出すようなポーズをとる俺。
あたりは、静寂に包まれた。……なにも起こらない。
「……何してるんだい?」
「う、うるせー!あの時こういう感じにしてたんだよ!」
その後も、手が反対だったとか、ねっころがって見るとか色々なことを試した。
「な、なにも起きないね…」
「やっぱり、壊すしかないんじゃないか……?」
そうだ、もうそれくらいしか思い付かない。それに、一回壊れた小の石はもう一度手に入ったんだ。二回手に入れられたなら、三回目だってきっとあるさ。自分にそう言い聞かせ決意を固める俺。よし、やるしかない!!やらなきゃ始まらないッ!!
「カイ、強化魔法をくれ」
右手を横に差し出す俺。
この石はあの怪物の光線をある程度耐えた。たぶん生半可な力じゃ壊せない。
「ほんとにやるんだね……。うん、それしかないか」
スッとカイが右手に取り出したのは、青い紋章のかかれた木製の棒。もう一つカイが持っていた鉄の棒、銃と同じ形をしているが、その用途は全く違うらしい。その名を魔導機銃。射出に重きをおいた、魔法使用補助器機。本来は自分にしか使えない強化魔法を、魔導機銃を介して射出することで他人にも付与できるようにした、とかなんとか語っていた。魔法とはほぼ無縁だった俺にはよくわからなかったが。
カイはその魔導機銃の先を俺の右手に向ける。
伸ばした人差し指を折り畳む動作をするカイ。それがこの道具の発動の合図らしい。
魔導機銃の先に小さい魔方陣が二重に現れる。その色はどちらも黒。
そこから延びた黒い光が俺の右手へと吸い込まれた。
魔方陣と同じ黒を帯びる俺の右手。これが、強化の印。先程の化け物との戦いでも助けられた。
その右手を地面においた石に向けて、思いきり振り込むッ……!
ズガァンという大きな音と共にえぐれる地面。
そして、その破壊の中心にいた石にヒビが入り……
強烈な光を、放ち出す!
「来たッ!当たった!」
ひび割れた石から溢れ出すオレンジの光。それは次第に人の形を作り出し……。
視界が白む、強烈な光。
視界に色が戻ったとき、そこには、天使がいた。
頭から腰まで、さっと伸びた美しく白い髪。複数に集まった線の集まりであるはずのそれは、まるでそういった形に作られたかのように整えられ、完成された美しさを感じさせた。
髪と同じく白いまつげは光を放っているように輝いており、そのまつげを伏せた表情は優しさに溢れているように見え、まるでこの世のすべてを愛しているようだった。
そして、思わず目をそらしていたのは、その白い肌で彩られた豊満な体。肩からかけられた布切れをおへその前でクロスさせるように止めた、最低限度の服装を押し上げる胸部の大きさ。もはや、服の機能は最低限度では無いかもしれない。
そして、何より目につくのはその頭部の上に浮いている光の輪。
さらに、その衝撃を越えるように、その女性は宙に浮いていた。
「てん、し……?」
まさに天使。商人さんが昔見せてくれた物語の挿し絵で見たのと同じ、天使の輪っかを身に付けた空から舞い降りる美しい女性……。
呆けて口を開ける俺。それを見てか、天使は口を開き、優しい音を響かせる。
「ふふふ…、可愛い子ね、美味しそう……。……いえ、なんでもないわ、よろしくね?可愛い勇者さん?」
B-アベル
★★★★★
『開示情報1』
柔和な笑みを浮かべる、天使のような女性。
その表情は世界のすべてを愛しているように感じられる慈悲に溢れたもの。
その実彼女はすべての人類を愛している。
その愛が、どういった形であれ。