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ガチャ勇者  作者: 名前はまだない
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序章 始まりは絶望とともに

ガチャで引いたキャラクターが登場するのは次話となります。

石が砕ける。

溢れ出した光の束はそのうねりを増していき、やがて人の形を作り出す。

そして、最後の一瞬。

あまりにも強い光が俺の視界を白く焦がした。

色が戻ったとき、そこには_________




始まりは小さかった。

゛南の島にある国が滅びたらしい゛

時おり村に訪れる商人が、ある時口にした。

魔族の仕業だろうか、恐ろしい、俺たちはそんなことを言いながらも誰一人として危機感なんて抱いちゃいなかった。

だって、海を隔てた先にある南の島国なんて、山奥のこの村からしたらあまりにも遠くの話だ。

滅んだ国のことより魚の干物が入ってこなくなることの方が心配されてたことは、今となっては笑いが込みあげてくる。

次に来たとき、商人はこう言った。

゛海沿いの町が滅びたらしい゛

その次はこうだ。

゛国境の砦が破られた。相手は魔族じゃない゛

その時の商人の顔は青ざめていて、服もボロボロだった。

村人たちは心配して引き留めたものの、商人は来た道を引き返していった。

その後、その商人が来ることはなかった。

村人たちはここでやっと不安を覚えた。

正体不明の何かが迫っているのだと。

逃げるべきだ、そう主張する若者がいた。

逃げてどうする、そう村の老人が返した。

山のなかで細々と暮らす小さい田舎の村だ、他の場所へのつてもあまりない。なにより、長い間暮らしてきたこの村を捨てることが彼らにはできなかった。そして彼らが動かないのであれば、俺たち子供にとっても動きようがないことだった。

なあに、なんとかなるさ、そう不安から目を背けて、そんな大人たちの言葉をただただ信じて、結局俺たちはここにとどまった。

やったことは粗末なバリケードを建てただけ。

魔族との闘いもない山奥の村では、危機感というものがそもそも足りなかったんだ。

だから……終わりがやって来た。

バリケードなんて、一秒ももたなかった。

それどころか、村を囲っていた木々もバタバタと倒れていき、奴らが進むのをほんの少しもとめられなかった。

奴らは、巨大だった。

遠くからでも木よりも高い位置にその頭先が見え、それが大地を揺らしながら進んでくる。

それは、一つの山に見えた。

その形はかつて一度だけ見たことがある、宝石というものに似ていた。一筋の傷もなく、磨きあげられたひし形の人工物。

けれど、それは宝石のように光輝いてはいなかった。ただただ暗く、その冷たさを伝えてきた。

巨大なそれに、同じく鉱石のように無機質な足が六本ついていた。それをわさわさと動かして移動する姿は、まるで蜘蛛のように感じられた。それには、顔はない。四方どこから見ても足の有無しか違いが無い。だが、そのモノにとっての正面がどこなのかはすぐにわかった。

ちかちかと、それの一面に赤く光る小さな点があったのだ。そるはちょうど、それの進行方向を向いていた。

想像の埒外からの侵略者に対し、村の大人たちはたまに出る獣用の武器を握って立ちはだかった。

彼らの顔は皆必死だった。

必死で、この村を守ろうとしてくれていた。

だけどそれは傍目から見たら、手のひらで大河の流れを変えようする位馬鹿みたいなことに思えて、現実感のなさに笑えてきた。

村一番の力持ちの振るった斧がやつに触れたとたんに斧は砕け、反動で倒れた村一番が、ぐしゃっと踏み潰されるのを皮切りに一方的な掃除が起こった。

一瞬、一閃。

村を守るように立ち並んでいた大人たちは、赤い点から延びてきた赤い光が左から右へ動いたかと思うとその胴体と足を切り離した。

そのとき、やっと俺は事態を理解した。

隣のおじさんが、兄的存在だった人が、中身をぐちゃぐちゃにしているのを見てやっと、逃げなきゃと、思った。

それは本能的な危機的意識。

死にたくないと、心が叫んだ。

その一心で俺は走り出した。

ただ、なんでかわからないけれど。

俺はその時隣にいた幼馴染みの手をとった。

走る。

気ゅっと俺の手を握ってくる彼女の手のひらがやけに熱く、そこから熱いものが俺に流れてきているような、よくわからないけど、そんな感じがする。ただ、思う。

この熱を放してはいけないと。

村から外へ、あれの反対側へ。

はあはあと息が荒くなる、これは俺と彼女、どちらのものだろうか。

村を囲むボロボロの板切れが邪魔だ。俺たちを守るためのもののはずなのに。

一刻の猶予もない、俺は走る勢いのまま肩で板に体当たりをした。

戦の知識もない村人たちのたてたそれは、簡単に壊れ、道を開ける。

握った手をもう一度強く握る。

震えを隠すように強く。それはお互いに。

緊張のあまり声を出すことすらできない俺たちの感情表現。

怖い、きっと逃げることなんてできない。

けど、この温もりがある間は、俺は走っていられる。そんな気がする。

村を越え、森を走る。

整備などされていない獣道。

幼い頃から走りなれた俺たちですら思わず転んでしまいそうな道を、ただ一心不乱に。

かつて、おじさんに聞いたことがある。この道をずうっと進んでいけば国の王都につくのだと。

どれだけ行けばいいのかわからない。

きっと何日じゃすまない。

それでも、高名な騎士が多くいるとされる王都にたどり着けば、きっと。二人とも_____


びぃんと、音がなった。


とんっと、背中に加えられる力。

押されたのだ、彼女に。

なんで、どうして。

急いで振り返った俺の目の前で。


赤い一線が、彼女を上と下に分断した。

ぬくもりがうしなわれた。



おかしくなりながら、なにかを叫びながら森の中を、転びかけながら走ったんだと思う。

気づけば、森の奥深く、ちょうど地面の中にできた窪みのようなところに転がっている自分がいた。

「ここは…?」

村を取り囲む森のことなら、小さい頃から駆け回ってよく知っていた。

なのに、俺はこの場所に見覚えがない。

大分遠くまで来たんだろうか……?

そして、俺は気づいた。

頭をあげたその先に佇む、一つの小さな石像に。

「なんだ、これ……?」

恐らく女性を型どったもの。長い神と柔らかな表情が、苔や劣化の中に辛うじて見てとれる。

なぜかその時、石像が俺を呼んでいる気がした。

石像に触れる。


「えっ……?」

そのとたん。

俺の視界は白に染まる。どこまでもどこまでも、定期的に冬に起こる霧を思い出させる、すぐ目の前にある白。まわりにあったはずの木々や岩は、完全に無くなっていた。

この白い世界に俺一人だけ……ではない。

俺の目の前の白の中にだんだんと影が浮かび上がってきている。

はじめは朧気な塊でしかなかったそれは、やがて形がくっきりと目に見えるように濃さを増していった。

「人……?」

いや違う、人の形をしているが人ではない。あれは、石像だ。

先ほど見た小さな石像。それが、大人と等しいほどの大きさになっているのだ。

苔もなく、欠けもなく、完全な姿となったその石像は、静かに笑みを称えていた。そのからだの灰色には一辺の継ぎ目のような線もなく、色が灰色でなければ、生きている人間のようにも見えただろう。それくらい、美しく精巧な彫像だった。

そう、まるで宝石のように。

石像が完全に形をなし、その姿をあらわにしたとき。声が聞こえた。


『……ようやく、三人目』


石像は微塵も動いていない。その口はいまだに笑みを浮かべて引き結ばれたままだ。それなのに、俺には、間違いなくその石像が語っているのだと理解ができた。

「あなたは……?」

『……時間がありません、申し訳ないですが、あなたの問いに答えている時ではありません』

口が閉じる。なぜだか、口を開くことができない。

『……全ての始まり、命の源たる、原始の大釜が悪意に溢れました』

『……原因はわかりません、ただ、このままでは世界は悪意に飲まれるでしょう』

悪意。それが俺の村を襲ったあの化け物を指していることは分かった。

『……あれは、世界中に解き放たれています』

『……すでに世界の半分の命が失われた』

……俺の村のように。あの娘のように。

『……残された希望は、細く、儚い』

『……その希望のひとつをあなたに託します』

『……どうか、世界を完成させて欲しい』

何を言っているのか分からない。

希望?世界の完成?俺に託す?

俺はただ、山奥の小さい村で生きていた一人の子供にすぎない。伝説に聞くような魔族を蹴散らし、竜を打ち倒した英雄ではない。唯一助けたかった人も目の前で失ってしまうような……

ずきりと胸が痛む。最後の瞬間、彼女はどんな顔をしていただろうか。きっと、不甲斐ない俺に向けた失望の色だったろう。顔を落とす。

だが、石像は俺の気持ちなどお構い無しと、話を続けていく。

『……希望とは力』

『……三つの力』

『ひとつは、立ち向かうための力、あなたは逃げるだけではなくなるでしょう』

『ひとつは、繋げるための力、今はまだ散り散りの希望、それらを繋げなければなりません』

『ひとつは、取り戻すための力、魂の円環を越え、そこにたゆたう失われたもの。それを取り戻すための力を貴方に』

失われたものを、取り戻す。

それは________


『……さあ、もう時間がありません』

『……始まりの時です』


その言葉を皮切りに、石像の姿が、急激に薄れていく。終わろうとしているのだ、この邂逅が。

待って欲しい、聞きたいことがたくさんある。

取り戻す?俺はなにを……?

『……ごめん……い、我が……よ、力無い私を……』

微かに聞こえる声、だがそれも途切れ途切れになり。

『……あ……のきず……これが……のひとつ……』

完全に途絶えた。

そして気がつくと俺は森に戻っていた。

そうだ、石像は……!

俺の目の前に触れていたはずの小さな石像。

それは中程から砕け、倒れていた。

「おい、どういうことだよ……」

石像に触れる。なにも起こらない。

「もっと!教えてくれよ!!取り戻すって!」

思わず石像をつかもうとした時、俺の左の手のひらに一つの石が握られている事に気がついた。

オレンジ色に輝く、内から光を放ってる不思議な石。宝石のように整えられたものではない、粗削りの、自然にできたような。

「なんだよ、これ……!」

これが力だって言うのか。これで何をしろって言うのか。

手のひらの石を握りしめる。

それは、かすかなぬくもりを持っていた。

全く関係の無いはずなのに、彼女のことを思い出して、俺は力無く笑った。


ずがぁん!!


その時だった。すぐ後ろで大きな音が鳴り響いた。なぜ気がつかなかったのだろう。

俺がここまで逃げてきていたであろう道。

微かな光が差し込むくらいだった森が明るくなっている。

その原因は、空が見えているからだ。

あいつら、あの石像が悪意と呼んだ、宝石みたいなばけものが、木々をなぎ倒していたんだ。

そして悪意は俺の目の前にまで迫っていた。

六本の足をのそのそと動かし、その度に自然をえぐりとっていく悪意は、確かにその赤い点を俺に向けていた。

きっと俺は死ぬ。あの娘と同じように。

それも、いいのかもしれない。無意識にでも守ろうとしたものすら守れなかった俺は、きっともう希望なんて抱けない。

悪意の赤い点が光を増しているのがわかる。

もう一秒もない。赤い一線の前に俺は生存を諦め________


『ひとつは、取り戻すための力、魂の円環を越え、そこにたゆたう失われたもの。それを取り戻すための力を貴方に』


…………!

赤い点の光が最大限に、もう狂い出すほどに高まった瞬間、俺は、自然と左手を前に差し出していた。

左手に握った、オレンジに輝く石を。


次の瞬間、赤い一戦と、石がぶつかる。

手が熱い、ものすごいエネルギーに腕がぶれそうになる。きっとおかしい、俺は子供組のなかでは力はある方だが、所詮は子供の力にすぎなかった。なのに何故か、人を撃ち抜き、木々を何本も貫いた光線を前にして、腕を保っていられている。

だがそんな拮抗は長くは続かなかった。

石にひびが入っていくのを感じる。

それは、石全体へと広がっていく……!

終わった。

そう思った瞬間。


石が砕ける。

そして、石から光が溢れ出す……!

光は赤い光線を弾き、打ち消し、さらに渦のように回り始める。

溢れ出した光は束となり、そのうねりを増していき、やがて人の形を作り出す。

そして、最後の一瞬。

あまりにも強い光が俺の視界を白く焦がした。

色が戻ったとき、そこには_________

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