ランプの魔神ジェイク3
使用お題『終末』
長時間バスに乗った末、辿り着いたのは『蓬莱堂』という看板のついた店だった。長い間ランプの精として仕えたせいで、ジェイクはアラビア語くらいはなんとか読める。何人目かの『ご主人様』が学者で、研究の手伝いにあれこれ叩き込まれたからだ。だが、このランプに入って海を渡ったことはない。商人の多い地帯だったため言葉は一通り喋れるが、読み書きとなるとまた別問題だった。
「『ほうらいどう』。儂はこの骨董品店を営んでおっての。あの国には買い付けに行っておったのじゃ」
「ふーん。まぁいいけど。それにしてもこの国って、みんな不用心なのな。財布とか、スリ放題じゃね?」
軽口程度にそこまで言うと、何がおかしいのか老人は笑う。
「ほっほっほ。まぁ、他の国に比べれば治安は大分良いからの。それにほら、ここは田舎じゃから」
「あっそ」
「言っておくが、真に恐ろしいのは人間じゃからな。ここで下手な行動を取れば、三日もしないうちにウワサが広まるぞ。あっという間に村八分じゃ」
「村八分?」
「まぁ、簡単に言うと除け者っちゅうことじゃ」
「へぇ」
特に興味もないので、適当に頷いておく。老人は肩を竦めて店の裏に回った。
「おう」
そんな驚いたような声が響いたのは草むらから出てきた影が、老人の背後に回ったからだ。
ここは、出て行かない方が良いな
そんな野生の勘で、ジェイクは老人の行方を確認する。どうやら、老人を捕らえた男は老人にナイフを突きつけ扉を開かせたようだ。店の中に入っていく二人を見届けた後で、ジェイクはランプから出る。
「オイオイ。『治安が良い』って言ったのは、誰だよ」
そう溜め息を吐くと、ジェイクはそのまま壁をすり抜ける。店の中に入ると、案の定老人が縛られている最中だった。驚愕した老人の表情が見られたのは、良い副産物とするか。
「安心しろ。俺の姿はアンタが生きてるうちはアンタにしか見えねぇよ」
それだけ言うと、ジェイクは老人を捕らえている男の首筋にフッと息を吐く。
「うっ、うわっ!なんだ?!」
驚いたような声の男に、老人はたちまち悪い笑みを作る。
「お主、どうやら氏神様の逆鱗に触れたようじゃの」
「へ」
・・・ウジガミ?
「この山には、儂の家が代々祀っている氏神様が住んでいての。よそ者の気配には敏感なんじゃよ」
そう言って、老人はジェイクに目配せをする。
あー・・・、そういうことね
ジェイクはその辺にあった家具を手当たり次第に掴んでは投げる。
「ヒ、ヒィッ!」
男はたちまち腰を抜かし、脱兎のごとく店から出て行った。
・・・
「いやぁ、助かった。オイ、ランプの。悪いが、この縄を外してくれんかの」
飄々としたその言葉に、もはや向ける言葉もない。
「タチ悪ぃ」
それだけ結論として溜め息と共に吐き出すと、ジェイクは指を鳴らし老人を拘束していた縄を消失させた。
「おお、見事じゃ。ついでに、店も片付けてくれんかの」
「調子に乗るんじゃねぇよ・・・」
ジェイクは、やっとのことでその言葉を吐き出した。
そんな一癖も二癖もある老人との暮らしが終末を迎えたのは、八つ目の冬が巡ってきた頃だった。その頃には、足腰が弱りすっかり立つのが億劫になった老人に変わりジェイクが店を切り盛りしていた。店の看板を『CLOSED』に代え老人の元に戻ると、ガスストーブの近くで揺り椅子に座ったままうなだれている彼を発見する。
「オイ、ジーサン。店閉めた・・・ぞ」
老人の傍に寄ると、呼吸がないことを知る。そうか。ついにこの時が来たか。
「まぁ、ジーサンも、なかなかの『ご主人様』だったんじゃねぇの」
そう言って肩を竦めると、ジェイクはつけっぱなしのストーブを消す。
「さぁて。件の孫娘ちゃんとやらは、どんな子かな」
それだけ呟くと、ジェイクはランプの中に戻った。
END.




