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堕ちる日・3

???


何もない黒。そう、その空間は黒だった。闇とは表現出来ない。本当に目前が真っ黒なのだ。

謎の声を聞いた瞬間、今まであった光が突然消失し、先程までよりも濃い黒に包まれていた。


「・・・なんだってんだよ。これも向こうの神様の趣向ってわけか?」


「いやぁ、あれと比べられるのは些か不快だなぁ!!!僕はわりかしそういったことに造脂が深い自負があったからねぇ!!!」


瞬間、背後から聞こえたボリューム破りの発言を受け、優人は咄嗟に振り返った。

まず真っ先に目についたのは虹。目の前に立つ人物のその両目に宿る鮮やかな虹彩であった。

めまぐるしく、一瞬の時を置かずに変わるその瞳は、まるで幻想世界に誘うかのように、優人の視線を釘付けにした。


「んー?おやおやおやぁ?実際に会ってみて再認識したけどぉ、君は凡庸!!!まっこと凡庸な青年だねぇ!!!これが世界を渡る際に力を得る器なのかい?いやはや、500年前の勇者(・・)とは天と地ほど差があるなぁ!!!」


「・・・」

目の前の、突如として現れた存在に、優人は反応を返すことが出来なかった。

雪のように色を失った白い髪、身長は170後半の自分と変わらず、身に纏う衣装は知識の中にある法衣といった様相で、目まぐるしく色彩を変える瞳が優人を捉えてはなさなかった。


「いやはや全く!!!聖教国のボンクラ共も!!!もっと早く召喚の儀を執り行ってくれればよかったものを!!!おかげで世界(・・)を渡る羽目になった上に!!!君のような存在の元に直ぐに駆けつけることができない!!!あぁ!!!なんと残酷なことか!!!」


大袈裟なリアクションをする件の男を観察しながら、優人は音を捉えた。


カチカチカチカチカチカチカチ


リズミカルに鳴るその音の発生元を探していた優人だったが、瞬間、それが自身の口から発せられていると理解した。


「そんなに震えられると傷つくなぁ!!!いやはや、私はこんなにも君との出会いに打ち震えているというのに!!!あ、そういう意味では私も震えているか・・・ハハハ!!!これは一本取られた!!!」


目の前の何かが口にする言葉など一切頭に入ることなく、優人はただただその人物に釘付けになった。

脳がその存在を認識しようとしない。見ただけで分かる、これは先に会った神が可愛く見えるほどの化物(・・)であると。

優人に話しかけた何かは、まるで標本の生き物を観察するかのようにその虹色の瞳で全身を睨め付け、乾いた笑いを発すると言葉を続けた。


「いやいや!!!陣への干渉を察知されて幾星霜!!!聖教国も馬鹿じゃないから召喚は行使しないと思って諦めてたけど・・・存外、今の教皇は馬鹿なのか、若しくは勝てる算段があってのことか、はたまた欲に目の眩んだ凡愚か・・・あ、これじゃ1個目と同じ意味か♪ハハハ!!!」


「あ・・・あ・・・ッ!!!」


呼吸の仕方を忘れたかのようにえづく優人を横目に、その男は何が面白いのかクルクルとその場で体を踊らせていた。


「おっと失敬失敬♪このままではせっかくのチャンスが台無しになるところだ!!!ここは一つ、抑えよう♪」


パチンッと一つ男が指を鳴らす、それだけで今まで感じていた死の気配が四散する。

解放された体が酸素を求めて荒い呼吸を繰り返す。今の状況は酸素の足りない頭では全て理解し得ないが、優人にも1つだけ分かることがある。


今自分の生殺与奪の権利は、この目の前の化け物が握っているのだと。


「さてさて・・・君は勇者召喚によってかの世界に召喚された!!!本来であれば、聖教国の召喚の儀の間で、他の転生者達と、何とも頭の悪いこの世界が危機云々の、長っっっったらしい講釈を右から左へ聴き流すという無駄な時間を送っているはずだった!!!では何故?こんな空間で私と愉快なトークに勤しんでいるかと言うなら・・・全て私の仕業さ♪」


「・・・ッ、アンタが、何か、干・・・渉し・・・た・・・ってことで、いい・・のか・・・?」


「その通り♪理解のある子は嫌いじゃないよ♪」

鼻唄混じりにそう話す男は、優越感溢れる笑顔で徐ろに優人の頭を撫で付ける。


・・・首を捩じ切れられると思ったのが優人の正直な感想だ。


「しかし本当に惜しい!!!私は既に其処(・・)には居ないし、君は後数刻で私の指定した場所に転移してしまう・・・おうおう・・・なんと悲しきかなぁ・・・折角のチャンスを見逃してしまう結果になってしまうとは・・・」


そう言っておいおい泣く男に、優人は動揺を隠せない。話を聞くに、この男は先刻会った神と同等・・・いや、それ以上の力を持っていると感じる。これだけ可笑しな存在が、自分のこの先の行動に干渉出来ないと言うのだ。


「ッ!!!・・・お、教えて、ほ、ほしい・・・俺、は・・・これから、どうな、るん、だ・・・?」


未だに震えの収まらない口をやっと動かし、優人は男にそんな問いかけをする。


―――血のように紅い三日月と錯覚するかのように、男はにぃ・・・ッ!!!と笑顔を魅せる。


「君にはこれから、私の住んでいた島に転移してもらうのさ♪いやはや・・・本来なら転移の気配を察知して、私が君を救助(・・)に行くのがセオリーなのだがねぇ・・・すまないが、何とか生きのびてくれたまえ♪」


「きゅう・・・じょ・・・?」


か細い優人の声を聴き、男はオーバーリアクションを持って答えた。


「そうさ!!!君はこれから、私の作った箱庭へとVIP待遇で強制転移させられるのさ♪だが!!!あぁ悲しきかな、彼の地は君にとって安らぎとはならないだろう・・・だから、私から1つ、最良のアドバイスを贈ろう」


人差し指を顔前に立て、男は囁くように


「虹に覆われた屋敷を目指したまえ・・・凡庸なる君が、彼の地で生き残る唯一の安息地がそこだ・・・私が戻るまで、せいぜい死なないでおくれ♪最良の器」


そう告げると、トンッと優人の胸を軽く叩いてみせた



ーーー刹那


「ッ!!!」


それまであった足場が消失し、優人は奈落と見紛う黒の中へその身を投げ出していた。



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