堕ちる日・2
(頭の整理が追いつかない・・・は?神が把握できないスキル?それは固有スキルの範疇で収まるのか?神って言ったら絶対の存在だろーが・・・)
言われた事実に脳内ショートした優人は、ただただ目の前の神を凝視して固まっていた。
当然、固有スキルについても具体的な説明があるものと思っていた弊害である。
「すまんのう、そんな反応が飛んでくるじゃろうと思っとったが、事実は事実じゃ。こればかりは行った先で確認してくれ」
「ま、待った!!!ここで確認できないのかよ!!!」
恥も何もかなぐり捨てそう叫ぶも、発せられた言葉は
「無理じゃの。この世界では理に反しすぎとる。向こうの世界に行くまでスキルの行使は出来ぬ」
あんまりな現実であった。
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「・・・わかった。そっちの事情も大いに理解した。だから後数点質問させてくれ」
「ほっほ、主が停止してから数分、なかなか貴重な時間を無駄にしたものの、まだ猶予はあるの。よかろう、言うてみい」
神の発言に苛立ちを覚えつつ、優人は頭でまとめた疑問、質問を投げかける。
「第一に、向こうの世界では勇者召喚によって呼び出されたわけだよな?」
「うむ、その認識で合っとるわい。ただ、何故勇者という己の世界の枠外の存在を召喚したのかは分からぬがの」
最初の問いに対する答えは、まぁ望んだ回答の50%といったところか。少なくとも向こうは直ぐに召喚者を害する・・・それこそ生け贄的な立ち位置で異世界人を呼んだわけではなさそうだ。
「第二に、向こうの世界の人間の意思に絶対に従わなくてはいけない・・・なんて強制力は働いてないんだよな?」
「ふむ、着眼点はなかなかよの・・・安心せい、少なくとも、現状そのような強制力は働いておらんわい」
(・・・現状ときたか、くそったれ!!!)
現状、それはまだ向こうの世界の干渉の外での物言いだ。この空間を出て、いざ召喚の間にいったらどうなるかなんて分からない。それに、目の前の神はそれを感知していない。多分例の上位神云々の影響だろう。でなければ、そんな憐れんだ目で自分を見ることなんてない。
「・・・第三、スキルの使い方は向こうに行ったら分かるもんなのか?」
「そこは安心せい。スキルは己の力、頭で思い浮かべれば自ずと使い方を知るじゃろうて」
(・・・あぶねぇ。見知らぬ地に行って、咄嗟にスキルのことなんかど頭に思い浮かべるか?いや、普通の人間なら状況を判断しようと回りの観察から入る。どんなスキルであれ、初動で使えるかどうか、それで生存率は格段に変わる。
じいさんは何気ない発言だったろうが、この一言で向こうの身の振り方が左右される。もらった身体強化がどの程度なのかは分からないが、少なくともかけてるのとかけてないのとでは違いがでるはずだ。)
優人はそう判断し、最後の質問に移った。
「・・・これが一番重要だ。向こうに行ったとして、帰る手段はあるのか?」
「・・・まぁ当然の問いかけじゃな。結論から言えば・・・ある」
思わずガッツポーズが出る。やはり救済措置はあるのだと優人は心から安堵した。
だが、次の言葉で現実を突き付けられる。
「しかし、レベル1の主らでは行使どころか、発見すら難しいじゃろうて。ちなみに方法は口外出来ぬよ、流石に許容外の情報じゃ」
「・・・あぁ、そんなことだろうと思ったよ」
優人も期待していなかった訳ではないが、予想の範囲内の回答であった。
わざわざ世界をまたにかけて拐ってきた人員を、そう易々と元の世界に帰す等、よっぽどのバカだ。
「質問は以上かの?なら、そろそろ転移の軸に戻すぞい。ほっほ、時間ギリギリじゃて」
そう言って笑う神は、好々翁染みていて、まるで自分と同じ人間と錯覚するくらいであった。
「あーっと、なんか色々すまないな、神様。アンタも好きでこんな役回りしてる訳じゃないだろうに」
「なんじゃ今更になって、気にしておらんよ。もとはといえばわしらこちらの神がきちんと境界を管理出来ていれば起きなかった問題じゃ・・・まぁ、上位神相手に抵抗も何もありゃせんのだがのう」
そう言って儚く笑う目の前の神は、今にも消えそうだった。
「久瀬 優人・・・選ばれてしまった異世界転移者よ。わしらが出来るのはここまでじゃ。どうか、どうか自分を見失わず、無事に此方へ帰ってくることを祈っておるよ」
「・・・約束するよ。何年かかっても、アンタにまた会いに来るって」
出会いは最悪、時間も僅か。でも、優人は目の前の1柱が目に見えない範囲で、優人達転移者に権限ギリギリの範囲で助力してくれたのだろうと判断した。
立場、力関係では相手は圧倒的強者であると分かりつつも、それでもせずにはいられなかった。
「・・・ほ?」
「握手。神様の世界では、そういう概念ねーのか?」
気づけば己が右手を差し出していた。神は優人の右手と顔に視線を数度往復させ、その皺を蓄えた顔を思いきり破顔させ、
「ほんに、生意気な子供もいたもんじゃのう」
優人の右手を、顔同様皺だらけの自身の手でしっかりと握りしめたのだった。
**********
「優人よ、覚悟は決まったかの?」
あの後、やや照れ臭さを残しつつも、優人は現状可能な限りの情報を確認し、眼前に広がる、つい数刻前に目にした転移陣の前に立っていた。
「決まったも何も、どうせここで行かなかったら、後で足元に展開されて強制的に連れていかれるんだろ?覚悟云々の問題外じゃねーか」
「ほっほっほっ、理解してもらえて説明の手間がないのは有り難いのう・・・では、始めるかの」
そう言って、手元の杖を地面に打ち付けた途端、転移陣が優人を包み込むようにその大きさを変えた。
これから行くは未知の地、だが優人は存外、心に焦りはなかった。
「・・・なぁ神様」
「なんじゃ?」
そう言った後で数瞬、優人の口から出た言葉は
「行ってくるわ、またな」
別れの挨拶ではなく、再会の挨拶だった。
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優人が消えた神界領域、そこで男神は余韻に浸るように佇んでいた。
「無事に行ったようじゃの・・・さてさて、向こうで立派にやっていけばよいのじゃが」
上位神の干渉があったせいもあり、録な施しをせずに旅立たせた己が子供に思いを馳せつつ、男神は体を反転させる。
瞬間、
「っ!!!?」
男神の体に言い知れぬ悪寒が走り、思わず優人のいた場所を振り返った。
ただそこには何もなく、風に揺れる足元の草が生えているだけであった。
「・・・今のは神の眼ではない・・・いったい、何者が覗いていた・・・?」
男神の問いかけに、答える声はない。
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???
優人は男神と別れた後、暗闇に射す一陣の光に向かって歩を進めていた。
「・・・こういうのって、普通強制的に体が引っ張られるとかじゃねーのかよ・・・はぁ、何で自分の足で、向かいたくもない場所に行かねばならんのだ・・・」
そう思うも、横に逸れて歩を進めても一向に進む気配もないのだから仕方ないと、自分を何とか納得させて歩を進める。
自分の足が重いせいか、はたまた距離があるせいか、中々光との距離は縮まらない。
まぁ、いづれ着くであろうと思い歩を進める最中、ふと違和感を感じた。
(・・・視線を感じた?こんな場所で?)
異世界への境界でそんな馬鹿なという思いで頭を降った瞬間、
「みーつけた♪」
そんな声が聞こえ、視界から光が消えた。