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堕ちる日・1

某所 0:38


仕事をこなした深夜、連日の疲れが抜けきらない体を無理矢理押し込め終電に滑り込んだ男は、疎らに埋まった席の一角、空いているそこに重たい身を預けた。

金曜の深夜帯、常ならもう自宅に戻って風呂に入り、疲れた体を労いながら一杯やっていてもおかしくない時間だが、悲しきかな、この2年で職場での立ち位置が、体の良いそつなく仕事をこなせる若手というなんとも不名誉な称号を得てしまったが為に、今日も今日とて先輩からのありがたいご褒美を頂戴してしまったわけで。


(野郎、10年後に前頭部があり得ないくらい後退する呪いかけてやるからな・・・)


30前半の、今日どうしても外せない用事があるとかで自分に仕事を押し付けてきた先輩社員の顔を思い浮かべながら、男は車内を何気なく見渡した。


飲み会帰りだろうか、友人と声を大にして笑う大学生だろう一団、こんな時間までふらふらしてて補導されないのかという感想が思い浮かぶ女子高生、自分と同じく午前様であろうくたびれたスーツを身に纏う40代くらいの男性・・・日本が人種のるつぼという話は聞いたことがあるが、これはその縮小された姿だな等と、くだらないことが頭の片隅に過った。


明日も休日出勤が確定している身だ。こんなことを考えている暇があるなら、最寄り駅までの数分でも目を閉じて体を休めるのが得策だろうと目蓋をおろす間際、視界の端に光を見た。


(・・・なんだ?)


そう思って視線をそちらに向けた一瞬の後、車内を突如として謎の揺れが襲った。


「うおぉっ!!!なんだなんだ!!!」


「え?え?何々?」


「んえぁ!!!?何事だ!!!?」


車内が騒然とする。男も勿論焦ってはいるが、眼前に光輝くそれ(・・)に目を奪われていた。


「・・・なんだ、あれ?」


それは果たして男の声だっただろうか。それとも乗客の誰かか。

乗客達の視線の先・・・車輌の床に、幾何学模様の円陣が発生していた。

皆突然の出来事に体を止め件の陣に目を向ける中、男は学生時代に読み漁ったライトノベルの事を思い出していた。


(いやいや、そんな非科学的な・・・)


頭では分かってはいるものの、目の前に広がる光景が、それを真っ向から否定してくる。

脳裏に繰り返し木霊するそれは、現代社会ではまるで根拠のない夢物語。だが、現実逃避の部材として最も重宝されるそれである。


そんな事を考えていた刹那、バスケットボール大だった円陣が一際輝き、一瞬の内にその大きさを変えた。

それは男の席を軽々と超え、乗っていた車輌全体を包むまでに成長した。


(!!?やば・・・っ!!!)


本能だろう。男は咄嗟に席を立とうとするものの、足は地面に縫い付けられたように微動だにせず、それは他の乗客達も同様であった。


「な、なんだよこれ!!!い、いったいどーなってんだよ!!!」


「し、知らねーよ!!!お、おい!!!これどーにかしろよ!!!」


「ちょっと!!!なんなのさこれ!!!悪ふざけが過ぎるじゃん!!!」


車内に怒号が響く。当たり前だろう、男も叫びたい衝動にかられるも、未知の出来事にただただ戸惑うばかりだ。


(これがもしテンプレなら、俺達は・・・)


そんな事を思った直後、足元の円陣が一際輝き、車内にいた乗客達の姿がぶれる。

先程まで和気藹々と友人達と話をしていた大学生グループ、気だるげにスマホを眺めていた女子高生、鞄を抱き舟を漕いでいたサラリーマン、その他の乗客達の姿がノイズのように映っている。

ハッとした男が自身の手を見ると、回りの乗客のようにその手にはノイズが走っていた。


(・・・マジかよ、月曜朝イチの見積もり、明日やるつもりだったんだけどなぁ)


そんな下らないことを考えた男は次の瞬間、他の乗客達と漏れなく、その身を車内から消失させた。


翌日の各社報道機関がこぞって特集を組んだ「集団神隠し事件」は、その後捜査の進展がないまま、やがて人々の頭の片隅に追いやられた未解決事件となった。



???


「・・・ここ、は?」


車輌の件からどれだけの時間が経っただろうか。男、久瀬(くぜ) 優人(ゆうと)は頬にあたる風を感じ、その目蓋を開いた。

眼前に広がるのは果てない草原。少なくとも先程まで自分が乗っていた無機質な電車とはかけはなれた光景だった。


「・・・あー、これはあれか?説明もなしに放り込まれるタイプの召喚か?」


「ほっほっほっ、お主、中々肝が座っておるのう・・・この状態で第一声がそれとはのう。良く図太いと言われるじゃろ?」


一人言のつもりで呟いた一言に返事が返ってきて、優人は即座に声の発生源である後ろを振り返った。

草原の緑に一際浮く白。白いローブに身を包み、これまた白い髭をたくわえ、年のいってるであろう老人の体を支える握られた杖は魔法使いのそれで、優人の想像する()とはこのような存在かも?と思うくらいには、自身の脳内に構築された()その一柱が佇でいた。


「・・・あんたが神様ってことで良いのか?」


「ほっほっほっ、こちらの問いかけに答えず、自身の疑問には答えが貰えるという傲慢さ、正しく人間だのう」


優人の問いに答えるでもなく、老人はそういうと近場にあった手頃な岩に腰を落とした。

更に向かえに杖をかざし地面を数度叩けば、なにもなかったそこに老人が腰かけているサイズの岩が突如として現れた。


「ふむ、立ち話もなんだ、先ずは腰を落ち着けようではないか」


「・・・」


老人はそういうと、目の前の岩を手に持った杖で軽く叩いて見せた。どうやら座って話をしようというらしい。

現状他に出来ることもなく、優人は渋々指定された岩に腰をおろした。


「うむ、では改めて自己紹介というこかの。察しの通り、わしは主らの世界でいう神その一柱で間違いない。ただ最初に断っておけば、主らを包んだあの転送陣、あれはわしの仕業ではないぞ」


「・・・それを簡単に信じろと?」


「まぁそう言われても簡単には信じぬじゃろうて。しかしこれでは話が進まぬ故、敢えて流させてもらうがの」


優人の問いかけにそう返した神は、肩をすくめてため息を吐いた。


「言ったようにこの転送・・・まぁ召喚じゃな。これはわしら神の預り知らぬところで進んでおっての、察知したのは転送される間際、このまま向こうの世界に行ったとて、何の力を持たぬ主らでは直ぐ儚くその命を散らしてしまうと思うての。強引に干渉し、今この場が設けられておる」


どうやらこれから自分は見知らぬ世界に召喚されるらしいことを教えられた優人は、それでも腑に落ちない思いを吐露した。


「神様ってくらいなら、この召喚ってやらを阻害出来るんじゃないのか?それにわしらってことは、アンタ以外にも神様ってやつがいるってことか?」


「うむ、現状を把握しようというその気概は中々どうして好意的に思うが、ちと説明がいるのう。長くなるが構わんか?」


神の問いかけに一つ頷く、情報は大事だ。


「なら話そうかのう・・・まず干渉についてだがの、こればかりはわしらでは無理じゃの。この理には界位というものがあっての、今主が呼び出されてる世界はこちらより上位の界位なのじゃ。上位異界にはこちらからは限定的にしか干渉出来ぬ」


「限定的」というからには、現状はその範疇なのであろうと当たりをつけ、優人は先を促した。


「理解が早いのは有り難いが、主は突出しておるのう・・・まぁよい、続けるぞ。話した通り、上位異界からの召喚ではわしらはここに一時止める他に方法はなかったのよ。それで主に召喚前の諸々を供述しようとした結果がこれよの」


己の指を回す神に対し、優人はそんなものかという感想しか浮かばなかった。現実味がないのだ、それも致し方ないだろう。


「主には色々伝えねばならぬことがあるが、まずはスキルとステータスよの」


神からの一言に、優人は凡人のそれな反応を示した。それもそうだろう。優人とて一般のそれであるからして。


「ステータスって、あれだよな?なんか特別なスキルとか、そんなんが見れるんだよな!!!」


「うむ、異世界に送られるのだ。子らが死なぬように努めるのがわしらの采配であろう?ほれ、自身のステータスを見るが良い。わしからの必要最低限・・・上位神に阻害されぬ程度には干渉しておるからの。安心するがよい」


どうやら目の前の神はこれから転移される世界の神より下位の存在らしい。まさか自身の世界の神が他の世界の神より格が下とは思わず、いらない知識にダメージを受ける中、先程言ったステータスという言葉に僅かなときめきを覚え、優人は眼前に掌をかざし・・・静止した。


「・・・ステータスを確認するには?」


「ステータスと唱えるだけじゃよ。主くらいの年齢なら言わずとも理解すると聞いておったんじゃが、違うのかの?」


どこか嫌みったらしい発言を受けつつ、優人は自身の原色を確認するため、一言呟く。


「・・・ステータス」


瞬間、眼前にプレートが顕現した。優人の過ごした日常ではあり得ない現象は、否が応でも自分が未知の出来事に遭遇していると再確認させられた。


***************

久瀬(くぜ) 優人(ゆうと)

Lv.1

種族:人間

ジョブ:勇者(仮)

固有スキル:魔改造

スキル:異世界言語理解・極

鑑定・極

身体強化・Lv5

***************


率直な感想としては未知の情報量が多い。ステータスというからHPやMPの類いを想像していた身としては、まさか数値的な情報がレベルのみとは思わなかった。更にジョブの仮表記、固有スキルの俗物的な名称等々。


「・・・あー、色々質問したいことが増えたんだが?」


「ほっほっほっ、であろうな・・・時間は有限である、あとほんの数秒でどうこうなるというわけはないが、手短に話そうかの」


そう言って、神は手元の杖を地面に打ち付ける。瞬間、先程まで優人が見ていたステータス画面が眼前にスクリーンのように浮かび上がった。


「まずレベルと種族については問題ないかの?戦闘経験自体ないのじゃから当然じゃろうし、主は人間辞めた自覚はまだ(・・)無いじゃろ?」


(この神は何を言ってるんだ?見た目通りボケてるのか?もしくは駄々滑りのギャグか何かか?)


思わずにいられない疑問をグッとこらえ、優人は一つ頷いた。


「まぁここまでは予定通りの反応よの。では残りの項目じゃが・・・スキルは異世界で生きていく上で必要最低限持っておいたほうが良いだろう3つをわしらで厳選して付与したのよ。上位神の妨害もないし、まぁ許容範囲内だったのじゃろうて。ジョブについては主がこれから呼ばれる世界での役割ゆえ、この世界では未だ仮の状態というわけよ。ここまでは良いか?」


神の問いかけに頷く。問題は最後、固有スキルだ。字面で全く予想が立たない。


「最後に固有スキルじゃが・・・こればかりは主の歩んだ人生観というかのう・・・個々人の来歴によって効果が違っていてのう・・・ワシにも詳しくはわからん」



・・・は?


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