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インディゴ  作者: 鼻息
4/5


 俺は、その条件を呑んだ。

 その日、小さな農村が、俺と妻子を残し消えた。




 ピィイ!甲高い警戒の笛の音が此処まで、届く。これは不味かもしれない、とこの職に着いて云年の勘が言っていた。御用改めである!ゴツい装飾華美の非実用の鎧に飾られた人間が大儀そうに、そわそわ落ち着かない風情の旅人たちの頭をさ迷う。


「おい!お前!」


 小さな覚悟が胸内を付いた。ありきたりだが歯に仕込んだ毒玉の位置を確認する。俺の素性は、表も裏も驚愕至極で、どちらも混乱をきたすだけである。


「何でしょう?」


 あくまで、素知らぬ風に怪訝に問えば、華美鎧男は、旅人たちを見回しながら言う。


「博打屋、此処最近流れて来た見慣れぬ‘見目の良い旅人’はおるか?」


 びくんと、集団の幾人かが反応した。


「はて?最近も何も、今は祭ですから、どこもかしこも見慣れぬ者ばかりです」

「そうだな、2、3日前の裏門から来た灰色の目をした奴だ」

「さて、灰色など珍しく有りませぬが花街裏門を通り2、3日前のと言うなれば」


 俺は、微細に不審な反応をみせる幾人を無視して、何かを探すように辺りを見渡した。古い、敷物を敷いた、広い空間。罪が有るもの無いもの、欲望、無欲なんでも混じってそこにある。俺は、この広い空間を取り仕切る、1年前に雇われた‘賭博師’である。この空間で、賽子、おはじき、駒など様々な道具の賭事を取り仕切る者だ。


「ああ、あの娘が最近入った寝泊まりの子だ」


 裏門から近いこのやたらデカい建物には、賭博以外に寝床として使う者もいる。賭博師も短期契約の者は、何人か、此処で寝泊まりしていた。


 俺が指差した先には、絶望的な眼で此方を見る、灰色の瞳の若く美しい娘がいた。途端に華美鎧男は舌なめずりするような目で、娘を見た。


「間違いない、アイツだ」


 娘は、引っ立てられ、引きずられるように兵士たちに連れて行かれた。俺は、顔に苦さを滲ませ、今日はなんだと仕事仲間に聞く傍らで安堵する。


 2、3日前から流れ出した彼らの、又はこの領主の悪行。領主取り纏めにばれて、責任に領主が打ち首となった情報は、俺が流したものである。今のは、元領主腰巾着とお付きの皆様方だ。お上の手が自分に伸びる前にと情報を売ったスパイを探し出し、復讐をするつもりだろう。この国端にも、第16妃の王子が囲ったスパイの情報が漏れ伝わっていたらしい。何年もスパイをやれば、また、何年もかの人の執着が1人にあれば、噂も煙も立つ。

 だが、しかし。その寵愛を受けている人物の姿はいまだに正確に伝わりきれないようだ。


 王子が執着する。では、美人なのだろう。それでは、寧ろスパイが通用しない。

 どうやら灰色の瞳らしい。では、灰色の目の美人なのだ。一般に灰色の瞳人口率は10人に6人である。


 妄想、いな想像か。それと事実がごっちゃになりながら伝わっているのだ。


 俺が王子に要求されたのは、なんのしがらみも無いが、人質が効く、欲の無い駒である。


 その変わり、俺の娘は、王子が独学で編み出した変異の魔法で瞳の色を変え、王子の愛人の子として隠される。王子の愛人は、俺の妻だ。妻は、俺を恨んでいる。村も、今や妻らの祖国さえも王国に呑み込まれた。



 1人、華美鎧男取り巻き後ろで、ぼんやり突っ立っていた平兵士が戻って来た。気安い仕草で、俺を指差し手招く。

「賭博屋、賭博屋。ちょいと書類の話が有るから館事務屋まで来てくれよ」

 ああやな予感は、まだ続いている。俺は、あいよ、賭博師の男を演じて、立つ。





「単刀直入に言いましょう。おれは、貴方の父上の駒です。かの方は、決断されました。藍の妃を取り戻すに役に立たぬと16妃を見限ったのです」


「また、危険、愚鈍、邪魔を揃う者共の一掃を考えておられです。残されるのは第1妃とその王子、第16王子とその家族です」



 母は女にモテた。父に嫉妬されるほど。では、父はどちらに嫉妬したのだろう。

 無駄に狡猾策の上手い王子らは、さて誰の血か。



「王宮は血に染まる」

第1以下第16以上の妃や王子王女も記憶噂違わねば、虎より竜より蛇に近い。どうして今まで大人しくしていられるというほどに。なるほどそれが大人しくさせられていただけだとわかった。だから気付いた。自己防衛による大量の死者が出る。

思わず、非難すると、その駒は唇を吊り上げた。

「もとより染まっております」



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