表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
虹色の扉 番外編  作者: ひめみや
7/23

My Dearest One ~王都散策~

王都は歩いてみると、自分たちが見知っている街であるコークや、ましてや自領地とはまるで違う。毎日祭りでもあっているのかと思う程に人出が多い。店の種類と数も比較できないほどの多さだ。


オスカルはただ街を散策するだけで充分とのことなので、通りをつづら歩いているのだが、それだけでも充分楽しい。ドロヘダ通りにてミリアムは店をいくつか見て廻った。


因みにこのドロヘダ通りは、十七世紀後半になると、道路拡張後にサックヴィル通りという名に代えられ、王都ダブリンの表通りとなる。そして、二十世紀初頭、オコーネル通りと再度名を代え、ダブリン市屈指の観光地となるのであった。


中食ちゅうじきは食堂で簡単に済ませ、食事中、オスカルがミリアムに言った。


「お嬢様、先程、街を歩くだけでよいと申しましたが、行きたいところを思いつきました」


「どこへ行きたいの?」


「聖パトリック大聖堂に。よろしゅうございますか?」


「もちろんよ」


「前回参りました時に、お嬢様方とご一緒したきりなので、再度行きたくなりました」



こうして、大聖堂へとやって来た。一一九一年建造のこの国最大の教会だ。二人は先ず祈りを捧げ、そして椅子に腰かけた。


オスカルは大きく息をつき、荘厳としか言い表せない内観を見ながら、小さな声でミリアムに言った。


「素晴らしいです」


「本当ね」


しばらく無言のまま、思いを巡らせていた二人だったが、ミリアムがその沈黙を破った。


「クリストルが言ってたけど、今の首席司祭様はかのジョナサン・スウィフト卿なのですって」


「『ガリヴァー旅行記』の?」


「そう。オスカルも読んだでしょう?」


「はい、それは何度も」


「わたしもよ」


「お嬢様は小さい頃、よくその話をしていらっしゃいましたよ」


「知らないくにの話や旅行記は大好きだもの。いつか自分でも行けたらよいと思うわ」


「行けますでしょう」


「そうかしら・・・」


ミリアムの表情に少し陰りが見てとれることに気付いたオスカルは、


「ミリアム姫様」


と、いつもとは違う呼び名で改め、


「まだお話になるご準備はできていらっしゃいませんか?わたくしはそんなに信用できないのでしょうか?」


と、真剣に問うてみた。ミリアムはじっとオスカルの整った顔に見入ってから、小さく笑みを作り、


「わたしね、これまで何の疑問もなく十七年間生きてきたけれど、ちょっとね、最近考えるようになったの」


「・・・・・・」


「家を継ぐことや、自分が女であることとか、当たり前だと思っていたものが、もしかしたら自分の意思とは違うのではないかと・・・。


オスカルは思ったことあった?パトリックと同じように代々受け継がれてきたから自分もそれをしないといけないことについて、疑問をもったりしたことなかった?」


「ございませんでした」


と、即答したオスカルに、ミリアムはくすっと笑って見せた。


「愚問だったわね。お前は自分の仕事を嫌々ながらやっているとは思えないもの」


「わたくしは、己が身の丈を存じておりますので・・・。お嬢様は爵位を継ぐことがお嫌なのですか?」


「そうは思わないの。でも、そうね、自分の意思とは別のところで物事が決められているのがなんだか、それは本当に正しいことなのかしら、と思いだしたのね。そうした義務のある家に生まれて、わたしは長子だから父さまを継ぐ。それでは、わたしのしたいことはどうなるの?例えば、海の向こうの国へ行ってみたいという夢や希望は叶えられないままとなるの?」


「お家を継がれても行けないことはないと思いますよ」


「女に生まれても?」


「はい。女性にょしょうでも外国とつくにへ行かれる方はたくさんいらっしゃいます」


「それもそうね」


「さしずめ、旦那様にクリストル様へ会いに英国へ行きたいとおっしゃってみては?英国もれっきとした外国でございますよ。お嬢様が行くことになれば、マウラ様も必ずご一緒なさるでしょうし、まあ、クリストル様にお会いにとなれば、マウラ様は矢も楯もたまらず、と、おなりでしょうが・・・」


オスカルがマウラのことを言うと、ミリアムはいたずらっぽく笑い、


「お前の言う通りね。英国ならここに来たのとそう変わらないものね。マウラは先頭切って行きたがるのが目に見えるわ」


「学のないわたくしが申すのは差し出がましいでしょうが、外国を見に行くことはお嬢様なら難なく可能なことかと。見知らぬ土地へ行き、見聞を広め、あらゆる経験をしていく。そうしたことをお嬢様はなさりたいのでしょう?旦那様、奥方様、そしてクリストル様、みなさま、援助して下さるのではないでしょうか」


オスカルがそう言うと、ミリアムはきっと唇を一文字にしたまま頷き、


「そうね。帰ったら、父さまにご相談してみるわ」


と、言った後、笑顔をオスカルに向けた。


「実現したら、お前も一緒に来るのよ」


「もちろん喜んでお供させていただきます」


オスカルは胸に手を充てながらそう答え、微笑み返したものの、脳裏に引っ掛かるものがあった。


(これを気に病んでいらしたのか・・・。なれど、何かきっかけになることがあったはずだ。先日届いた文、そして、すぐに出された返事。加えて、このところのお嬢様は、よく物思いに耽っておられるご様子。城に戻ったら、父上にご報告せねばなるまい。旦那様へのご報告は父上にご相談の上としよう)


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ