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虹色の扉 番外編  作者: ひめみや
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先生とのランチ

「先生、おかえりなさい」


「ただいま、けいちゃん」


一時帰国された先生、もう先生ではないのですが、出会ってからこの二十年、ずっとそう呼んでいるので、そのままなのです。今日は楽しみにしていた先生とのランチ。午前中は教え子だった子達が数人うちに遊びに来ていて、今日は憧れの先生と会うから、と早目に帰しました。


「卒業してからもけいちゃんに会いに来るんよね、その子たち。悪かったね、もっとその子たちとゆっくりしたかったんやない?」


「とんでもないです。先生は帰ってきてからも予定が詰まっているから。あたしは教え子たちとはいつでも会えますし」


「けいちゃんが保健の先生を辞めてもそうして会いに来るなんて、慕われとった証拠よね」


学生時にちょっと斜めに歩いていた子達が不思議とよく来ます。斜め歩きの理由は大抵家庭環境なのですが、卒業後は真っ直ぐの道を歩んでいったり、そうでなかったり、それぞれです。


「それより、先生、聞いて下さい!今年はいろんな展覧会に作品を提出していたのですが、全て入選して、極めつけは県知事賞をいただきました」


「ええー!?けいちゃん、それはすごい!おめでとう!」


子供の頃から続けている書道で、今年は当たり年だったようでした。先生はパスタを口にしてから、とても喜んで下さいました。


「けいちゃんの書く字は、あたしがこれまで出会った人の中でダントツ一番の美しい字。それが認められて、自分のことのように嬉しいよ」


と、褒めてくれる先生の字も実は味わいがあって、わたしはとても好きなのです。忙しい日々のせいで回数こそ少なくなったものの、先生は手紙を書いて送って下さいます。わたしはいろんな記念切手を集めていて、先生に送る手紙に使っているのです。先生はそれをとても楽しみにして下さっています。


電子メールにチャット・アプリでの簡単な交流はとても便利ですが、相手を思い、便箋や封筒、切手を選ぶ。すべてが簡単になったからこそ、こういう手間をかけたことを大事にしていきたい、と先生もわたしも思っているのです。


先生が旅行先から送って下さる外国からの絵葉書には、わたしが行ったことのない世界を垣間見せてもらえます。アイルランド、イタリア、イギリス、スイス、など、雑誌やテレビでしか見たことのない国から先生の文字が届くのです。たった一枚の絵葉書がわたしの日常の中に入ってきて、束の間だけど、遠い土地に夢と想像を膨らませ、一緒に旅したような感覚を経験させてもらえるのです。学生だった頃と同じ。



「で、ですね、記念品が授与されたんですが、四十年以上前に造られた墨でした」


「あたしたちよりも年上の墨!」


「郵送されてきて、開ける前からすごく良い香りがして、はじめ、お香かなと思ったんですけど、墨だったんです」


「当時の職人が心を込めて造った墨がけいちゃんのもとに今、届いたわけやね」


「そうですね。四十年間待っていて、あたしのもとに来てくれたわけですね」


「それはものすごいご縁。その墨を使って、もっとよい作品を生み出してほしいという書道の神さまからのメッセージかもね」


先生はそう言って、にこやかに微笑んでおられました。


「よーし、じゃあ、デザートにケーキを食べに行こう!けいちゃん県知事賞受賞のお祝い~♪というか、何もなくても食べに行くけどねー」


二十年経っても、先生とのケーキの習慣は廃れていません。先生が帰国される度に美味しいものを食べに行って、ケーキやパフェをデザートにして、お互いの近況報告に興じます。


先生は相変わらず自由です。枠に囚われず、ご自分の頭でものを考え、実行してらっしゃいます。自分の心を軸とし、好きなことだけやる。そして、世界を飛び廻っているけれど、日本人としての誇りを忘れないよう生きておられます。


そんな先生からはいろんなものをいただいています。家庭教師と生徒という関係から始まったこのご縁を、わたしはとてもありがたく思うのです。


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