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第三話

 まさか彼女は変態だったというのか……?!

 だからこそ、男たちのねっとりとした目に見つめられるために態と、ミニスカートを履いていた……?

 そう考えれば全ての辻褄が合う……。


 ここは、そう見られて喜んでもらえた。つまり脈アリなんだ!やったーと喜ぶべきなのか、彼女は変態なのか……とドン引きすべきなのか……。

 僕はそもそも変態でも彼女のことが好きだと言えるのだろうか?

 いや、確かに惚れたのは見た目からだけど、変態なのはちょっと……。でもここで好きじゃなくなったと言えば、それは人としてどうなんだ?あれ?見た目で判断してないって意味ではいいんじゃないか?うん?ちょっと意味がわからなくなってきた。


 とまあ冗談はさておき。

 さておき。


 好感を持ってもらえたのは嬉しい。

 でも出来るならば詳しい内容を知りたい。そういった思いを込めて、話を促すように僕は彼女の方を見る。


「なんというか、そういう目を向けないようにしてくれているのですよね?だったら元からそういう気持ちが無いよりも、凄いことだな、と思います」


 うん。なるほど。凄い?凄いことだろうか?自分ではよくわかってない。

 ただ、僕は、橘さんに嫌われたくないから……。

 ってそうか、この気持ちがバレていないなら、たしかに。凄いことなのかもしれない。

 他人を気遣って、変な目を向けないようにする。それはきっと大人のする事だ。

 けど僕は大人なんかじゃなくて、ただ、橘さんの事が好きなだけに過ぎない、年相応の男子だ。


 なんだか、過大評価されてる気がしてならない。好きな子に好かれるのはいいことなんだろうけど、なんだろう……。

 この評価はこの評価で、正しく自分を見て貰えない気がして、なんだかモヤモヤする。


 ただ、真っ向から否定して、突っ込まれても困るのはこちらだ。だから僕は、

「いや、そんなことは無いですよ……」


 と曖昧に否定することしか出来なかった。


 それを謙遜と受け取ったのか、

「そうですか」

 とサラッと流されるし。

 まあこればかりはどうしようも無いか。


「はぁ」

 彼女にバレないように小さくため息をつくと、コンコン、とノックの音が聞こえた。


「どうぞ」

「失礼します」


 そう言って入室してきたのは、先程この部屋にいたメイドと、メイド長だ。


「なにか御用でございましょうか?」


 と聞いてきたものの、これは形式的なものだろう。メイドに呼び出された時に、ある程度の状況は把握しているはずだ。

 だから、率直に言う。


「父はパーティーを計画していたのか?」

「ええ、なさってました」


 なるほど。これで謎は解けた。しかし、新たな謎が生まれる。


「では、何故、それを僕に言わなかった?」


 答えによっては彼女を解雇しなければならないかもしれない。いや、彼女に限ってそんなことはないと思うけど。もし仮になにか企んでいたとしても、上手いこと言い訳してみせるだろうし。


 じゃあ何故、態々聞く必要があったのかと言うと、舐められない為、である。

 両親が死んだ今、この屋敷の主は僕である。

 ここで舐められたら、好き勝手されてしまうかもしれない。それではいけないのだ。

 いや、まあそんなことは無いと思うけど。


 ただ、せっかく、家の主になったなら、威厳が欲しい。ただ金を持ってるだけの屋敷の主、にはなりたくないから。

 両親のお金なんだから、僕が偉そぶるのは違うのかもしれない。

 けど、いいように利用されて、両親の形見である金を奪われて、何も無くなって、生活に困るよりはマシだ。


 一つ、問題があるとすれば、

 僕が凄んだ程度で、目的:舐められないようにする。を達成できるのかどうか?という点である。

 チラリとメイドと橘さんの方を見ると、二人は少し脅えているようだ。

 橘さんを脅えさせてしまったのは申し訳ないが、上手くいっているようだ。

 メイド長は、これぐらいものともしないだろう、きっと平然とした顔で理由を述べるに違いない。

 そう思い、目線を戻すと……。


「そ、それは……」

 と口篭り、目を伏せた。


 ……なんだ?この反応は。そのまま受け取れば怪しいことこの上ないけど、まさか……メイド長が……?

 いや、なにかやましいことがあったとしても、メイド長程の人なら、こんなあからさまな反応はしないだろう。


 じゃあこれは……?誰かに指示された……?順当に考えるなら父親だけど……。父親に僕には黙っているように指示された?のだろうか?

 しかし、死んだ父の命令を守る必要はあるのか……?

 いや、それは無いだろう。死んだ時点で、彼女の雇い主は僕なわけだし、僕に伝えない理由はそれだけじゃ成り立たない。

 となると、メイド長自身も僕には話さない方がいい、と思った……?のかもしれない。

 もしそうなら、僕に話さない方がいいと思った理由、は僕にとって嫌な理由なのかもしれない。

 それなら彼女が今、口篭っているのも頷ける。


 と、予想することは出来ても本当のことはわからない。彼女にきちんと説明して貰えない限りは。

 いくら父が言おうとも、僕にとって不利益であろうとも、僕自身が彼女にしつこく聞いていけば、彼女は答えざるを得ない……筈だ。

 可愛がられてる自覚はあるしね。彼女には悪いけど答えるまで質問攻めにしてやろう。


 そう、決意し、口を開く。


「なぜ答えない何かやましいことでもあるの?」

「……いえ、そう言う、訳では……」


 絞り出すような声がますます怪しい。

 これ、まさか……本当に何かある訳、じゃない……よな?うん?なんだろう。この彼女らしくないハッキリとしない態度は。


「じゃあどういう訳なんだ?」

 苛立ちからなのか、混乱からなのか、自然と、声が少し大きくなる。

 それでも尚、彼女は目をふせたまま、何も答えない。

 視界に入った二人が、伺うような顔でこちらを見ているのも何だか腹が立った。


「なんとか言ったらどう?」

 僕は立ち上がり、メイド長を睨んだ。


「えーと、ちょっといいですか?」

 橘さんは話に入りずらかったのか、はたまた癖なのか、手をおずおずと挙げた。

 なんとなく三人の視線を感じたので、僕は、

「どうぞ」

 と話の続きを促す。


「はい、では」

 話す時には、立ち上がるのだろうか?と疑問に思ったが、さすがに座ったままの体制で話すらしい。まあ、ここは学校じゃないからね。


「えっと、西園寺さんの両親って亡くなったばかりなんですよね……?」

「ええ、それが……?」

「だったら、やっぱり言わなかったのも何となく分かる気がします」

「どういうことです?」


 橘さんはメイド長の方に目配せをする。それを受け取ったメイド長は、何かを決意したかのように小さく頷き、こちらの方を向いた。


「私からお話します」

 緊張した面持ちでゴクリ。と唾を飲みこみ、おもむろに口を開く。


「本来ならば真っ先に伝える必要があったと思います。ですが、旦那様や奥様が急に亡くなられ、元気のなかった嶺希様にそのような話はとてもではありませんが、出来ませんでした。本当に、申し訳ございません」

 メイド長は深々と頭を下げる。


「このことを知っていたのは私だけですので、罰を与えるなら、どうか、私だけを……」


 え、あぁ、そっか。なるほど……。確かに、母と父が死んでからは自分が冷血人間だと気づいたショックで部屋に閉じこもっていたような気がしなくもない。


 それが両親が死んだショックで、泣いていた、と受け取られていたのか……。

 結果オーライ、というか、運がいい、というか、うん。運が良かったな。

 僕には悲しさなんて欠片もなかったから、その発想はなかったけど、普通は両親が死んだ後に部屋に閉じこもったら、悲しんでる、と思うよな……。

 そして、悲しくて閉じこもってる主人に話しかけるのは、確かに躊躇われるだろう。

 ……なんだ。メイド長がなにか企んでたわけじゃないのか。それどころか、僕に有利な勘違いをしてくれているし……。

 ……はぁ。


 今まで怒っていたのが、馬鹿らしくなってきた。肩の力を抜き、倒れるように椅子に座り込む。

 ……あ。


「その理由で口篭る意味がよく分からないんだけど……。なんでそんなに躊躇ってたの?」


 ……と、新たな疑問を見つけたものの、抜いた力を入れ直す気にはなれなかった。

 メイド長の事だ、きっとこれにも納得できるような理由があるんだろう。そう思っていても聞いたのは、ただ自分が安心したかっただけ。少し芽生えた不信の芽を摘み取りたかっただけなのだ。


「え?」

 思わず声の上がった方を見る。橘さんも自らの声に驚いたのか、肩を跳ね上げ、両手で口を押さえた。

 彼女は、理由がわかっているのか……?

 メイドもメイド長も、ポカン、という顔をしている。しかし二人がみているのは、橘さんの方ではない。僕の方だ。つまり、二人は橘さんの声に驚いた訳ではなく、僕の発言の方に驚いた……ということか?


 なにこれ。僕だけ仲間はずれってこと?

 なにかまずいことでも言ってしまったのだろうか?自分が言った言葉を何度も反芻するものの、答えは見つからない。


「……では、私の考えすぎだった、とそういう事なのですね」


 メイド長は、ふう。と息を吐いて、安堵の笑みを浮かべた。

 いや、その笑みに込められていた感情は安堵だけでは無い。自分はなんて無駄なことをしていたのだろう?という、自嘲も含まれているような気がした。


「ええと、話が全然読めないんだけど……?」

 三人はそれぞれ顔を見合わせた。

 どこから説明すればいいのだろうか?というような空気を肌で感じる……。

 いや、なんだろ。

 理解力悪くて、ほんと、ごめんなさい……。


「西園寺さんは、メイド長さんに気を使われて話をして貰えなかった、って知った時、どう思いましたか?」


 一番僕とは付き合いの短い……言ってしまえば部外者である彼女が聞いてくる。

 ここで口を出すということは、困った人を無視できない、優しい性質を持っているのだろう。

 僕なんかとは正反対だ。


「どうって、素直に嬉しいと思いましたよ?メイド長に優しくして貰えてってことで」


「ほら、やっぱり大丈夫そうですよ」


 この言葉は僕に向けたものでは無い。恐らく、メイド長に言ったものだろう。

 メイド長の方を見ると、彼女は目を細めていた。


「そうですね」

 そう言うと、こちらを向き直し、ぺこり、とお辞儀をした。


「まずは、優しくして貰えて嬉しい、と言って頂き、ありがとうございます。その言葉で今までやってきたことが無駄じゃないんだな、と思えます」

「そ、そんな……大袈裟な……」

「大袈裟ではありませんよ?」


 上げた顔はものすごい真顔だった。「何言ってんのこいつ?」とも言いたげなような……。

 ……これ以上突っ込むと、薮蛇な気がするので、そっとしておこう。


「こほん、それでですね、本当に私の妄想だったので、あまり言いたくはないのですが……」

「うーん、恥ずかしいかもしれないけど、こっちとしてこれだけ引っ張られると気になって仕方がないんだよね……」

 言外に早く話せよ、と言う意味を込めると、メイド長はふふふ、と笑った。


「そうですよね、すいません。大丈夫です。心の準備はできましたので」


 メイド長は目をゆっくり閉じて、息を吸った。

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