知らないことは教えられない
翌日の朝、二人は朝食を済ませ片づけをしていた。
「アーノルドさん、魔王と話し合う事って出来ないんでしょうか?」
「無理じゃねぇか?」
「でも、人間を滅ぼしても魔王にメリットなんか無いですよね?歴史の授業で習ったんですけど、大昔に人間の国同士で戦争してた頃も賠償金とか領土割譲とかで終わらせてたみたいですし・・・」
「魔王が人間の金とか領土を欲しがると思うか?」
「でも、何とか平和的に解決できないかなって・・・」
アーノルドは少し考えこみ、何かを決断したような顔つきになった。
「なぁ、グレイス。魔族って知ってるよな?」
「はい。旧文明末期に大量発生した人型モンスターです。御伽噺でも魔王の配下として登場します。それと、現代でも稀に発見されると教わりました」
「発生ってどこからだ?」
「分かりません・・・でも、魔王だから不思議な力で生み出すのでは無いですか?」
「じゃあ、魔族はどんな姿をしている?」
「人間の身体を大きくして角とか牙とか鋭い爪を生やしたような姿をしているそうです」
「じゃあ、イノシシとキラーボア、人間と魔族を並べて思い浮かべてみろ」
グレイスはアーノルドに言われたイメージを頭に浮かべ、すぐに絶望的な表情を浮かべた。
「アーノルドさん、まさか・・・で、でも、人間はモンスターにならないって・・・」
「なるぞ。ならない場所に住んでるだけだ」
「えっと、どういう事ですか?」
「魔素ってのは魔王から漏れ出るもんだ。魔王に近けりゃ全属性が混じってるから、魔素溜まりは出来ねぇ。だから、安全エリア内なら独房に入ってようが、寝たきりだろうがモンスターにはならねぇのさ。鶏舎に閉じ込めてる鶏もモンスターにならんだろ?」
「でも、冒険者は危険エリアに入りますよね?」
「危険エリアは余裕を持たせて設定されているから、大抵の冒険者は魔素溜まりが出来るような奥地には行かねぇんだ。行ったとしても冒険者は基本的に動き回ってるし、寝てる間にモンスター化するほどの濃い魔素溜まりなんてものはそうそう無い」
「なるほど・・・」
「たまに見つかる魔族ってのは、奥地で怪我かなんかで動けなくなった奴が、たまたま魔素溜まりに居続けてモンスター化したんだろ」
「怖いですね・・・でも、それと魔王と交渉できないのって何か関係があるのですか?」
「魔王の目的はな、人間を魔族にする事だ」
「えぇっ!なんでそんな事を・・・」
「人間と魔王の戦いってのはな、聖神と魔神の代理戦争なんだよ。魔王ってのは魔神の使徒だから、この世を魔で満たす事が唯一最大の使命だ。それ以外に興味は無ぇし、その為なら死んでも構わないって奴だ」
「そんな・・・でも、動き回っていれば平気なんですよね?」
「魔王が一つの属性の魔素だけを一気に放出すれば、その辺りは異常に濃い魔素溜まりになっちまって、近くにいる人間なんかあっという間に魔族にされちまう。魔力量の多い奴は多少耐えられるが、それでも限界はある」
平和的解決は絶望的と思い知らされ、グレイスは暫し言葉を失った。
「あぁっ!」
「大声上げてどうした?」
「あの、わたし達が修行していたところって・・・かなり奥地ですよね?」
「まぁ、そうだな・・・」
「魔素溜まりは大丈夫だったんですか?」
「俺が調整しておいた」
「え?」
「俺は五属性持ちだ、それもかなり強力な」
「えぇっ!」
五属性持ちと言えば、一万人に一人のかなり貴重な存在だ。
そして、アーノルドが自分で”強力”というのだから、相当な魔力だろう。
「驚いたか?」
「はい・・・」
「ついでにもう一つ驚かせてやる」
そう言うと、アーノルドは近くの巨岩を片手で持ち上げ、その下の窪みから何重にも布で巻かれた何かを取り出した。
「それは何ですか?」
たっぷりと油を染み込ませた布を取り去ると、巨大な両手剣が姿を現した。
「ファーザーズソードだ」
アーノルドは両手剣を天にかざしながら懐かしそうに、そして少し哀しそうに、その名を言った。
「お父様は剣士をされていたのですか?」
「いや、ソロで旅をしていた冒険者から貰った剣だ。本当のオヤジはすっかりジジイに戻っちまってたから、短い間だったが父親代わりに色々と世話になった」
「いい人だったのですね」
「あぁ、いい人だった・・・」
アーノルドは油をぬぐい取り、華麗な魔導剣技を披露した。
その腕前はグレイスですら及ばない程だ。
「えっ!アーノルドさんって魔導剣も使えたのですか?」
「俺が知らんものをお前に教えられるわけないだろ?その人に教わったんだ」
「そうだったんですか・・・でも、どうして今は止めてしまったのですか?」
「筋肉が無いと話にならん」
「うふふ、アーノルドさんらしいです」
「魔王はな、魔法じゃ倒せねぇんだよ」




