アーノルドの故郷
二人は拠点から反時計回りにアーノルドの故郷に向かっている。
模擬戦闘を繰り広げながら、モンスターを見つけた場合は容赦なく駆除しているのは、修行と駆除を兼ねた旅だからだ。
「グレイス、急に剣速が上がったな」
「はい、二属性でも反発するのを上手く制御できるようになりました」
「なるほど、ウィンドでの加速を途切れさせずにヒートを発動してるのか?」
「はい、そうです」
「やるじゃねぇか」
「ありがとうございます!」
「さて、そろそろ村だな」
「楽しみです!」
「あんまり期待すんなよ?」
二人は村へ向けてコースを変えた。
「あの、あれは何ですか?」
グレイスが指さしたのは見慣れない巨大な建物だった。
「旧文明の遺跡だ」
「変わった形ですね」
「他の遺跡もあんな感じだぞ」
「へぇ、そうなんですか!」
この時代にとっては見慣れぬデザインだが、旧文明末期ではありふれた建物だ。
「この川沿いに進めば村だ」
「分かりました!」
そして二人は村の跡地へと辿り着いた。
その後も入植された形跡はなく、痩せた土のせいで樹木が生い茂る事も無く、朽ち果てた状態のままだ。
「な?なんにも無ぇだろ?」
「そうですね。アーノルドさんのお家はどこですか?」
「こっちだ」
アーノルドは村の外れに近い場所へとグレイスを案内した。
そこに在ったのは、崩れて朽ち果てた木材の残骸だけだった。
半ば見捨てられた辺境の村の更にその外れにあった老夫婦の家なので、もともとが粗末な作りであったせいで原型は全く保たれていなかったのだ。
「ここですか・・・」
「何にも無いだろ?」
「そうですね・・・あれ?」
「どうした?」
「あそこに何か埋まっていますよ!」
「そうだな」
「ちょっと掘り返してみます!」
グレイスが掘り出した物は何かの容器だった。
「見覚えはありますか?」
「たぶんだが・・・例の食い物が入ってた入れ物だな」
「これがそうなんですか!」
「ガキの頃の記憶だから確かじゃないけどな」
「結構重いですけど、何が入ってるんでしょうか?」
「さぁな。まぁ、金貨がザクザクって事は無ぇな。開けてみろ」
「はい・・・これは銅貨・・・ですよね?何かのおまじないですか?」
容器には緑青にびっしりと覆われた銅貨が詰め込まれていた。
「いや、貯金だな。無理しやがって・・・」
「え?」
「辺境のジジババにとっちゃ、これっぽっちの金でも貯めるってのは大変なんだよ」
「そうなのですか・・・」
辺境の村では、働き盛りの者でも自分の子供にひもじい思いをさせないのが精一杯だ。
モンスターが現れた時に最初に食われる事しか期待されていない老夫婦が現金を手に入れる事など、普通ならあり得ない。
アーノルドが成長してから狩ってきた獲物を、自分の分はなるべく食べずに他の村民に売っていたのだろう。
辺境の村に生まれた者にとって極貧生活から抜け出す一番手っ取り早い方法は、冒険者になる事だ。
しかし、その為には免許を取る必要があり、現金が必要となる。
老夫婦はアーノルドの為にコツコツと貯金をしていたのだろう。
「あっ!」
「どうした?」
「蓋の裏に旧文明文字が刻まれていますよ!」
「へぇ、見せてくれ・・・って、なんじゃこりゃ?」
「ミツジュウ領の祖先の文字です」
「これが文字なのか?模様にしか見えん・・・」
「現代語とは全然違いますから読める人は少ないですね」
「だいたい何でミツジュウ領の文字がこんな村にあるんだ?離れすぎだろ?」
「この辺りは大昔はミツジュウ領だったんです。属性ヒュージゴーレムに対抗する為に大規模な領地替えが行われて今の場所に移ったと歴史の授業で習いました」
「て事は、領地替えより前に作られた物だったのか」
「そんなの食べたら熱くらい出ますよね・・・」
グレイスは呆れ顔になったが、辺境の老夫婦の過酷な生活を知らないからだろう。
小さな鼠の死骸ですら滅多にありつけないご馳走なのだ。
「ところで、お前は読めるのか?」
「家庭教師の先生に習いましたけど、あんまり難しい言葉は分かりません」
「なんて書いてあるんだ?」
「魔法みたいです。えーっと、三属性・・・だけど零属性?」
「は?」
「ちょっと何言ってるか分からないですね。えっと、発動には水・風・火属性が必要みたいです」
「お前なら使えそうだな」
「うーん、風はプレスで火はヒートだから大丈夫だと思うのですが、水魔法が見たこともない魔法ですね・・・えっと、水のもとは雨ですよね?」
「井戸とかも可能性としてはあるが、普通に考えりゃ雨だろうな」
「それで雨のもとは雲ですよね?」
「そうだな」
「それでは雲のもとって何でしょう?」
「雲のもと?なんか勝手に空に湧いてくるよな?」
「そうなんですよねぇ・・・どうも雲のもとを作り出す魔法みたいなんですけど・・・」
「やってみりゃ分かるんじゃねぇか?」
「そうですね、一度試してみます」
グレイスは緊張した面持ちで魔法を発動させる。
”しかし、なにもおこらなかった!”
グレイスは頭をひねりながら何度も読み返して試してみたが、結局、何度試しても何も起こらなかったのだった。
「変ですね・・・」
「何か書いてないのか?」
「ちょっと先を読んでみますね・・・えーと、理論上は三つを同時発動させれば可能だけど、誰も成功していない・・・らしいです。」
「なんだ、未完成なのかよ。ところで、なんていう名前の魔法なんだ?」
「えーと、訳すなら・・・デヴァインウィンドですね」
「聞いたこと無ぇな」
「わたしもです。ちょっと書き写しておきます」
「どうすんだ?」
「王都の図書館なら辞書があると思いますから、もうちょっと調べてみます」
「勉強熱心だな」
「えへへ、ありがとうございます」
「とりあえず、今日はここで野営だな。ちょっと山に柴刈りに行ってくる」
「はい。わたしも写し終わったら川に水汲みに行ってきますね」
「俺のジジババみたいだな」
「えっ!あ、はい、そうですね!」
グレイスはほほを染めながら嬉しそうに返事をしたのだった。




