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弟子から金を巻き上げろ

「らっしゃい!」


鍛冶ギルドに入ると、威勢のいい声が掛けられた。

入口近くは鍛冶仕事で作り上げた武器や防具、それに各種道具類を販売するスペースなので、自然と商店のような挨拶になるのだろう。

なお、この街も含め大抵の街では鍛冶ギルドは冒険者ギルドの近くに設置されている。

非常時には冒険者が大量の武器をすぐに調達できるようにする為だ。


「冒険者ギルドからの紹介状を持って来た。ギルド長に渡してくれ」

「あいよ!ちょっと待っててくんな!」

「活気がありますね」


しばらく待っていると店員が戻ってきて奥の部屋へと案内された。

中に入ると、そこに居たのはギルド長らしき人物と見知った髭面だった。


「お前、やっぱりそうか」

「久しぶりだな」

「あ、問屋の親父さん!」

「嬢ちゃんも元気そうだな」

「なんだ?お前ら知り合いなのか?」

「ウォルフラムソードの兄ちゃんだ。で、こっちは鍛冶ギルド長だ」

「初めまして、准冒険者のグレイス・ケラーと申します」

「俺のことは聞いてるみたいだな。アーノルド・スタローンだ」

「ギルド長のケン・スガワラだ。あんたが作ったウォルフラムソードのせいで鍛冶師の面目丸つぶれだぜ」

「その割には嬉しそうじゃねぇか」

「ふん、恥ずかしながらこの俺もウォルフラムなんか加工できる訳がねぇと思ってた一人だ。鍛冶師でもねぇのにいとも簡単にやった奴に会えりゃ、嬉しいに決まってるだろ?」

「そんなもんかねぇ?」

「名前で分かるかもしれんが、俺はミツジュウ領出身だ。ここいらとはちょいと価値観が違うかもしれんな」

「まぁ、職人向きの考え方かもな。名前と言やぁ・・・」

「まだ伺っておりませんね・・・」

「まぁ、ヒゲでいいだろ」

「勝手に人の名前を変えるな!俺の名前はブンタ・タカクラ、こいつとは同郷だ」


「自己紹介も終わったようだし、さっそく本題に入ろう」

「で、俺はどうすればいい?」

「ブンタも残っててくれ」

「分かった」

「嬢ちゃんの装備を作りたいって事だが・・・」


皆の視線がグレイスに向き、やがてある一点に集中した。


「こりゃあ、替えないとな・・・」

「お前・・・まさかわざと?」

「んな訳ねぇだろ!」

「あ、あの・・・あんまり見ないでもらえますか?」

「しかし、わざわざケンへの紹介状まで出させるって事は特注品だよな?」

「見かけによらず強いらしいぞ。あのスティーブンが完敗したと書いてある」

「はぁ?このゴリラならともかく・・・」

「黙れヒゲ」

「だから、俺はブンタだ!」

「まぁ、ともかく、サイズだけじゃなく性能もいいのが欲しいって事だな?」

「いや、俺の記憶じゃあ、一年前は”胸だけは残念な感じ”だった。そうだよな?」

「間違いねぇ」

「て事はだ、これからもでかくなる可能性が高い。そこんとこも考えなきゃならんだろ」

「しかし、ある程度は調整できるようにしても限界はあるぞ?」


グレイスは顔を真っ赤にしながら耐えている。

恥ずかしくはあるが、真面目に装備の仕様を話し合っている以上、邪魔はできないからだ。


「性能の方はどうすんだ?こいつ、思った以上に腕を上げてるから、出来るだけいいもんにしたいんだが?」

「そうだな・・・ウォルフラムじゃいかんのか?」

「硬いが重すぎるだろ?こいつはスピードファイターだ」

「となると、軽い金属か・・・ケン、あの不思議なアルミを使うか?」


不思議なアルミとは旧文明の超々ジュラルミンの事だ。


「うーん、たしかに重量当たりの強度は鋼鉄より高いんだが、同じ強度を出すには分厚くなるぞ?」

「そうか・・・軽くなっても動きを邪魔しちゃ意味はねぇな」

「そういや、高すぎて売れねぇってぼやいてた素材があっただろ?」

「そうだ!タイタン鋼があったな!」


この時代では高度な科学技術が必要な素材は旧文明からの発掘品頼りだ。

古代から精錬されてきた金のように自分たちでどうにか出来る代物ではない為、発掘量が少ない素材は金と同じかそれよりも高い値段が付けられることになる。

ちなみに、この時代でタイタン鋼と呼ばれている金属は旧文明のチタン合金の事だ。

ウォルフラムことタングステンと同様に非常に希少な発掘品であるが、値段はタイタン鋼の方がずっと高い。

これは発掘される量の多寡ではなく、ウォルフラムと違ってタイタン鋼は加工できる実用素材と認識されていたためだ。


「そんなに高いのか?」

「まぁな、だがタダでいい」

「はぁ?」

「ウォルフラムソードが王家に馬鹿みたいな値段で売れたんだ。それに比べりゃタイタン鋼なんざ安いもんだ。この際、胸当て以外もタイタン鋼にしちまいな」

「じゃあ遠慮なく貰うとするか。ところで加工はできるのか?」

「かなり難しい素材だが出来る。鍛冶師の誇りに掛けて最高のもんを作ってやるよ」

「えっと、その・・・代金はお幾らくらいに?」


加工の難しい超高級素材を使って鍛冶ギルド長が最高の物を作るとなると、値段が気にならない方がおかしいだろう。


「ん?ギルド長からギルド長への紹介だから、工賃は別に要らんぞ?」

「え?そうなのですか?」

「ギルド間での貸し借りみたいなもんだな。お互いに得意な事を融通しあうようになっているんだ。冒険者ギルドにはいくつか借りがあるから気にすんな」

「紹介状にそんな意味があったなんて・・・」

「まぁ、普通はギルドのトップクラスでもなけりゃあ紹介状なんてものには縁が無い。知らなくてもしょうがないだろ」

「あ、でも、素材の代金は・・・」

「わしは要らんぞ。ウォルフラムソードが高く売れた礼にアーノルドにやるもんだからな」

「じゃあ、俺がもらう。大金貨1枚よこせ」


アーノルドはさり気なくケンとブンタに目配せをした。


「がめつい奴だな!」

「お前、弟子から金とるのかよ!」

「うるせーな!貰えるもん貰って何が悪い!」

「いえ、冒険者はタダより高い物は無いって考えるようにと教わりました。ですので、払わせて下さい!」

「嬢ちゃん、あの時の事を覚えてるんだな」

「こいつは頭いいからな」


グレイスは頭はいいが、人も好過ぎる。

キリリモードでは無かったので、一連のやり取りですっかり騙されてしまったのだ。

タイタン鋼は比較的発掘されやすい金属であるが、それでも値段は金と同じかやや高い。

つまり、素材代としては同じ量の金で作るのと同等であり、大金貨1枚程度ではタダで譲るのと同じだ。

アーノルドとしては、ブンタからタダでもらった素材を弟子にタダでやるつもりだったが、グレイスを納得させるために、わざと金をむしり取るかのように言ったのだ。

目配せをされた二人はそれに上手く乗ってやったというところだ。


「で、時間はどれくらい掛かるんだ?」

「一週間はくれ」

「わざとか?」

「いや、タイタン鋼だからな。俺以外にも回せそうな連中を全員使って必死になってもそれが限界だ。だが、一週間で仕上げなきゃ、スティーブンの顔を潰しちまう事になる。やるしかないだろ?」

「そうか、信用しよう」


これは嘘では無い。

本来なら納期として一か月は欲しい案件だが、相当な無理をして一週間と言ったのだ。

ギルド長間の紹介状の重さはそれほどだ。


「それならタイタン鋼は今日中に持ってきてやるよ」

「すまんな。じゃあ、さっそく採寸して設計しねぇとな。依頼書を出すからちょっと服飾ギルドに行ってくれ」

「え?え?服飾ギルドまで?」

「あぁ、勘違いするなよ?紹介状じゃなくて依頼書だ。ちょっとした事を頼んだり相談する時に出すもんだ。若い女のオーダーメイドとなると、鍛冶ギルドの野郎どもじゃ採寸を嫌がられるんでな、だいたい服飾ギルドに頼むんだよ」

「あ、そうだったんですか。わたしったら早とちりしちゃって・・・」

「ま、お前なら紹介状なんかなくても歓迎されるだろうけどな」

「あいつならそうだろうな」

「ん?どういう事だ?」

「行けば分かる。さ、これ持って行け」


ケンは書き上げた依頼書に封蝋を施し、グレイスに渡した。


「はい。それではよろしくお願いします」

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