プロローグ
立っている事すら困難な急峻な山を一人の男が駆け上っている。
ボサボサの髪をしたガチムチゴリマッチョ体型をしており一見すると獣のようだが、腰に適当に巻きつけた動物の皮が辛うじて彼を人間だと示している。
「あー、腹減ったな・・・」
男は周囲を見回すと、山頂の方を向いてニヤリと笑った。
「なかなか大物だな」
満足げに独り言を言いながら男は腰のポケットから握り拳大の鉄球を取り出すと大きく振りかぶる。
常人の目では捉える事は出来ないが、その視線の先10kmには巨大な獲物が横たわっている。
「ふんっ!」
男にとっては全力からは程遠いが、それでも大気の断熱圧縮により赤熱した鉄球は衝撃波で地面を抉りながら凄まじい勢いで飛んで行く。
そして3秒後、獲物の頭は吹き飛んだ。
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「結構頑丈な奴だったんだな。ま、回収の手間が省けて助かったぜ」
男は反対側の頭蓋骨に張り付いて止まっていた鉄塊を回収すると球状に丸めた。
「こいつも大分小さくなっちまったな・・・」
元の鉄球はスイカほどの大きさだったのだが、投げる度に小さくなってしまうのだ。
特に今回は獲物が予想以上に硬かったせいで破片が四散してしまい、握り拳大からピンポン玉程度にまでなってしまっている。
「しょうがねぇ。街まで出るか・・・」
男は獲物の尻尾を掴むと山道を下り始めた。
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街まであと半日ほどまで近づいた時、家ほどの大きさだった獲物は大腿骨一本になり果てていた。
「さて、デザートと洒落こむか」
男は大腿骨をへし折り、骨髄を吸い出す。
味に無頓着なこの男が顔を綻ばせ、そして少し残念そうな表情を浮かべた。
「ふぅ、美味いオオトカゲだったな。また見つけたら仕留めるとするか」
その時、荒野に絹を裂くような悲鳴が響き渡った。
「金も無いし丁度いい。一仕事するか」
男は悲鳴のした方向へと走り始めた。