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一話

光が見えたと思ったらすぐにそれは途絶えてしまう。

実際には途絶えたのではなく、ただ俺の意識が飛んでしまっただけなのだが。しかし、その時の俺はいきなり起こった出来事を受け入れる事が出来ずにそんな風に思いこんでしまった。

その誤解が解けたのは次に目が覚めてから。目覚めた場所はいつもの部屋では無かったけど。







「救済者様。起きてください。」


「ん……。まだ、もう少し。」


「後はあなた一人だけですから、早く。」


その言葉を合図にふっと意識が覚醒する。

俺は寝起きが良くないので、こんなにすんなりと起きるのはないはずなのだが。

良くない、というか悪い。それは自分でもよくわかっている。俺の頭は目覚ましに反応せず、起こしに来てくれた母ちゃんとよく乱闘になったもんだ。

そんな事を考えられる余裕があるくらいには脳が仕事をしていた。きちんと仕事をしていた脳でもこの状況は分からなかったけれど。


「ああ、やっと起きましたね。では、そこの席に着いてください。説明しますから。」


だって目の前に広がっていたのは明らかに日本らしくない城の中で。

しかも促された席に着いて居たのは見覚えのある顔が三個。

俺の方を見るとあからさまに顔を背けて、嫌われていると分かっていても悲しくなってくる。

さっきまで俺が聞いていたのは流暢な日本語だ。しかし、母国の言語を使っていた少女の外見は金髪に赤い目。

うん、日本人では無いな。ハーフかな。この考えは今の状況では妥当だと思う。

でも状況を更に掴もうと言われた通りの席に着いて、説明を受けてからはその線も消えた。つまり全く分からなくなってしまった。


「皆さんはこの状況に納得が言っていないと思います。突然違う世界に呼ばれてしまったのですから。」


……何だろう。この子どこかおかしいんじゃ無いだろうか。元カノにこんな子居たっけなぁ。確かちょっと病み気味の子だったっけ。まぁ、可愛いから良かったけど。

目の前のこの子も可愛い。正直に言うと顔だけならめちゃくちゃタイプだ。でも言っている事はあの子なんかよりずっと狂っていた。


「……僕たちに、何をして欲しいんですか? 」


「テンプレね。面白くない。」


「そ、そうだよ、二人の言う通り。 」


同意を求めようと、三人の方向を見ても俺の欲しかった反応は得られない。それどころか凄く前向きな感じなような。

気のせいか? それとも俺がおかしいのか? 全く分かっていない俺が。だから違う世界うんぬんは誰も反応しないのか?


「流石ですね。説明しなくてもこの状況が分かるなんて。では、何故あなた達をこの世界にお呼びしたのかをお話ししようと思います。」


対する女の子はご満悦な表情をなさっている。

あのぉー、俺は全然理解していないんですけど。一から十まで教えてくれないと分かんないタイプなんですけどー。

あくまでも口には出さないが。別に聞くのが恥ずかしいとかではなくてただ単にこの真剣な雰囲気をぶち壊すのは気が滅入るからだ。

大人しく説明を受ければ良いんだな。きっと分かるはず。国語の成績だけは良い方なんだ。(他のが壊滅的なだけで良いとは言えるのか分からないが。)


「単刀直入に言います。魔王を倒して欲しいのです。」


何言ってんだコイツ。

いや、魔王くらい俺でも分かるよ! ゲームとかによく出てくる悪役だよね?

そんな真剣味を帯びた顔で言うキャラなのもゲームの登場人物なら分かる。でも、ここは現実だろう?

だからそれも踏まえて、何言ってんだコイツ。


「魔王、ですか。それは、難しそうですね。」


「それで、ステータスはきちんと補正掛かってるんでしょうね? 」


「そ、そうだよ! 二人の言う通り! 」


お前らも何言ってんだよ。

ここに俺の味方は居ないのか? というか日本語なのに日本語じゃない感がすごい。噛み合っているようで全然伝わってこない。


「ええ、もちろん。ステータスオープンと言ってみてください。目の前に何か浮かんでくるでしょうから。」


ステータス? 俺、英語は得意じゃないんだ。

自慢じゃないけど高校に入ってからは赤点しかとったことない。

誰かに助けを求めようと辺りを見回してみるが、みんな自分のステータス? を見るのに忙しそうだ。

空中を見つめてにやけている様子にしか見えないから、薬でイっちゃってる人みたいだけど。何なの? ステータスって麻薬みたいなもんなの? 怖っ!

だが、そうな事を思っていても事態は一向に変化しない。俺も自分のステータスやらをのぞいてみることにした。

えっと、確か、何だっけ? ああ、そうだ


「ステータス、オープン。」



佐藤 湊 (さとう みなと )


レベル 1


職業 治癒士


HP 500/500

MP300/300


体力 500

魔力 300

筋力 400

知力 50

器用 100


スキル 回復魔法 光魔法


……なんだこれ?

斜め前に出てきたのはそんな映像だった。

なんか無駄にハイテクだよな。こんなところに金使うんだったらもっと城を補強すればいいのに。まぁ、これはこれで味があるからいいのか?

古びて、今にも崩れ落ちそうな城を見ながら考える。今、俺が考えるべきなのはこれではないと思いつつも、現実逃避を繰り返す。

その思考を止めてくれたのは女の子特有の甲高い声。


「やはり、流石は救済者様たちです! 能力値四桁越えとは……。それに全員が珍しい職業。これなら、魔王相手にも十分戦えます! 」


能力値ってこの数字のことか? 四桁?

いや、おかしいだろう。俺だけ何でこんなに低いんだ? 職業も治癒士。漢字とスキルから推測するに怪我とかを治すってことだよぁ。なんかカッコ悪い。

俺だって男の子。剣で戦ってみたかった。


「それで、貴方のはどうだったんですか? 」


ひぃぃぃ、やめて下さい。そんな期待のこもった目。

ん? というかこれどうやって相手に見せるんだ? さっき俺が見た感じはただのラリってる人にしか見えなかったけど……。

見えないなら見ないで欲しい。見えても、見ないで欲しい。


「治癒士? ステータスは高いですが、この中だと……。って、すみません! 貴方もやはり救済者ですよ! 」


そんな俺の密かな想いはあっさりと裏切られた。

本当にやめてほしい。そんな哀れむような顔をするならいっそ「使えねーな、こいつ。」とでも言ってもらいたかった!

みんなも口には出さないものの、視線が痛い。


「み、……佐藤君が弱い? 」


みんなの思いを代弁して言ったのは宗介(そうすけ)

信じられない、という感情を押し出したような声。

ふざけんな、弱いとは言ってねーだろ。ステータスは高いとかなんとか言ってたじゃねーか。お前らが規格外なだけだよ!

そう叫びたかったが、ただの負け惜しみなのでやめた。


「はい、もうこの話題はいいです! それでは、 詳しく説明をしたいと思うので、よく聞いて下さい! 」


だから、そんな風に話題を変えてくれた女の子が神様に見えた。この話題にしたのはこの子だけど、とかは気にするな! 俺は今の感情を大事にするタイプなんだ! かっこつけてみても反応はしてくれない。当たり前だよね、声に出してないんですもん。

一人で茶番をやっている間にも説明は進んでいく。



この女の子は王女様らしい。


魔族とその他の種族は長年、争いを繰り広げている。


しかし、魔族の力は圧倒的でこのままだと負けてしまう。


そこで救済者召喚? を行った。


俺たちの他にも数人の召喚者を呼び出したが、その人たちだけでは数が足りない。


魔族の長である魔王を討ち取った暁には大量の報酬を用意して待っている。


もっと長々と話をしていたが、理解力に乏しい俺は半分も分からなかった。専門用語的なのもたくさん出てきて、聞き取れない所もあったし。

だが、そんな中でもおそらく一度も触れていない疑問を聞く。一番聞きたかった事を。


「それで、どうやったら帰れるんですか? 」


「はぁ? 」


もっともな質問だと思う。だっていきなり呼び出されて、魔王とやらの超強そうな相手と戦わされて? それでいて帰れない? そんなわけないよな?

魔王とやらと戦うまでは帰れなさそうだ。それはもう諦めたから良いけど、だからと言って二度と家族や友達と会えないのは嫌だ。


「あぁ! 帰れますよ! それは大丈夫です! ただ、」


「ただ? 」


「前に呼び出した方々達の中には帰りたい、なんて言う人なんていなかったので……。」


「……!? 」


帰りたい、なんて思うのは当然だろう。だって、知っている人はここに三人しかいない。それも、長年会話すらしていない三人。嫌われてるであろう三人。

仲良くなれるなら、仲良くなりたい。昔のようにまた四人で話したい。

だが、それとこれとは話が違う。俺らは元には戻れないし、今は関係のない事だ。

まあ帰れるんならいいや。深く考えないでおこう。

魔王ねぇ……。さっきの会話を聞く限りコイツら強いっぽいし大丈夫か。


「帰りたいなんてあんた頭おかしいんじゃないの? 」


(かなで)……。」


喧嘩腰で俺を見据えてきたのは奏。

思ったよりすんなりと幼馴染達の名前が出てきた事に驚く。

宗介、奏。後はそこで小さく震えている愛花(あいか) 離れていた間もなんだかんだずっと気にしていたんだなぁ。五年間。俺たちが一緒にいたのはその倍くらいの年月だけど、離れた後の方が長く感じるのはなんでだろう?


「軽々しく名前で呼ばないでくれる? 現実なんて、リアルなんてどうせ……。貴方はリア充だから分からないだろうけどね! 愛花、宗介、行くわよ!」


「救済者様! 待ってください! 」


そう引き止める王女様にも耳を傾けず、三人は扉の向こうに行ってしまった。見たところ、戻ってくる気配もない。

おい、残された俺らの気持ち考えろよ! 凄い気まずいんだからな!


「彼らは無文一です! 早く合流してこれを渡してください! 金貨五十枚だと言えば分かると思います! 」


王女様の切り替えも素晴らしいと思う。

し、無文一で出て行くみんなの適応能力も凄いと思う。俺なんか右も左も、この世界? の事だって分からないのに。

ステータス、魔王、召喚。訳の分からない単語がたくさん出てきて、もうパンクしそうだ。でも今、俺がやらなくてはいけないことぐらいは分かる。


「はい! ちょっと魔王とやらを倒してくるので帰りの準備よろしくお願いします! 」


あいつらの出て行った扉を開けて、後を追いかける。馬鹿だなぁ。鬼ごっこじゃ俺は絶対に負けないのに。一番やってきたお前らなら分かると思ってたけど。

ステータスがなんだ! 魔王がなんだ! 召喚がなんだ!

俺は絶対に帰ってやる、そんであいつらに分からせてやるんだ! 現実は最高だってな。

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