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第一話『わからない。』

「着いた!アメリカだよ!お兄ちゃん!」


「あぁ」


 俺ら家族は夏休みを利用し、アメリカ旅行に来ていた。不慣れな飛行機と、見知らぬ土地に少し体がフラフラする……


「お兄ちゃん、もう大丈夫?飛行機が揺れてた時、すっごい怖がってたけど……」


「……あぁもう大丈夫だ」


「あははっ、私ちーっとも怖くなかったよ!いきなりぎゅってしてきて……全く!お兄ちゃんは私がいないとダメダメなんだから!」


 余計なお世話だ。この疲れてる時に妹、結菜ゆいな に空気を読まずうるさくされるのは堪える。

 それにこの生意気な態度。今も、俺を煽るかのように腕を抱き、手を引っ張り、俺の周りをチョロチョロと動く。


「わーすごいなー!外人ばっかりだよ!みんな鼻が高いなー!あ、見て!あの人目が青い!あの人は金髪だ!うわ、この人背おっきい……」


「そうだな」


 空港内を走り回り、人を指差し大声あげる結菜が恥ずかしくてたまらない。図々しく、人にカメラを向けていたりもした。嫌な顔をしてくれなかったのが唯一の救いだ。


誠一郎せいいちろう 、結菜、そろそろ移動するよ」


「はーい!」


 母がそう言って、結菜は母のすぐ横へ、俺はそのあとに続く。

 結菜から解放されたような気がした。


 恨みついでに結菜の格好を見る。麦わら帽子にノースリーブの白のワンピース。肩の下まで伸びる髪は二つにまとめられている。中2ともなればこんなものなのかもしれないが、そのマセた格好にも俺は反感を持っていた。


と、結菜が振り返る。


「お兄ちゃん?なに?……!あ、私のファッション?どう、かわいいでしょ!」


「似合ってねぇよブス」


「あははっ、照れてるー!」


 結菜は俺の肘を小突く。


 あんまりああいうことは言いたくないが、衝動的にでてしまうことはある。


 しかし、本当にこいつは中2なのか?俺でも中2のとき、ここまでアニマルだった気はしないし、同学年の女子もこんな風じゃなかったはずだが……

 当の結菜は俺に気は向けず、興味津々に周りを見渡していた。


「わー本当に英語ばっか……これ、お兄ちゃん全部わかるんでしょ?」


「は?無理だわ」


「えぇ?そうなのぉ?いっつもテスト100点なのに」


「黙れ」


 結菜にそんな風に言われるためにやってることじゃない。全く、一挙一動が鼻につく。


「結菜、お兄ちゃんは言って英検3級だ。結菜だって頑張れば取れるぞ?」


 俺の雰囲気を察したか、親父がそう言った。


「はぇ〜?すごいと思うんだけどな……お父さんは何級なの?」


「準一級。ちなみにお母さんは一級持ちだ」


「そうなんだ!さすが!」


 結菜は小学生並みの感想を述べた。


 そして俺は、すぐに言語の壁を知ることとなる。


ーーーーーー


 不意に誰かに肩を叩かれ、声をかけられた。


 誰だ?


 振り返るとそこには堀の深い顔が鼻と鼻がくっつきそうなくらいの近さまで迫っていた。俺より背の低い、外人で白髪の老婆。その口元は怪しく歪められ、目の周りは落ちくぼみ、眼球は飛び出るほどに見えていた。


『&@¥、:@#*;%"?"#'*;@&#&"/:###'=,|^!』


 口から発せられたのは理解不能な謎の言葉。滔々と流れ続け、俺の頭の中はぐらぐらと揺れて思考することすらままならない。


 感じるのは、純粋な狂気。泥のような恐怖が俺の中にねっとりと纏わり付いていた。


 だが、それでも何かしなければ、何か……だれか……

 かあさん、かあ、さん……


「か、かあさん……この人、なんか……」


 掠れた声でなんとか母に助けを求め、話し相手を譲ると俺は手近な壁に体を預けた。


 母達は笑い合いながら会話した後、すぐに別れた。そして、ぼやけた視界の中に母がこちらにやってくるのが写り込む。


「大したこと言ってなかったよ?それこそ、どこから来たの?くらい。誠一郎ならできるくらいだけど……って誠一郎……」


「お兄ちゃんなんで泣きそうなの……?」


「いや、そんなんじゃないが……」


 俺は二人から顔を背けて言う。


 否、結菜の言っていることは大方当たっている。元々初対面の人間は苦手な俺だ。おまけに他言語ときては耐えられない。


「あははっ!そんなことで?お兄ちゃんの怖がりさん!大丈夫ぅ?」


 俺の前で口元に手を当てて笑う結菜を、この時心底殴りたかった。


 これ以上コケにされるのはごめんだ。

 俺は壁から離れて、また歩き出した。

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